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5 エルのお手伝い

続きです。

宜しくお願い致します。

 新しい畑作りは村の女性陣達で先ず元森だった地面に厚く積もった腐葉土取り除くところから作業は始まる。厚く積もり適度に腐敗した腐葉土を現在耕している畑まで移動させ、その後に大きな石や自分達が数人がかりで抱えられる大きめな石などを撤去していく。女性陣で撤去出来ない大きさの石や岩などは、後日男性陣が撤去する事になる。


 そして大きな石などが取り除かれた後に、村の子供達が自分達で持てる大きさの石を拾い集めていた。だが石を拾うと言っても、ただ拾えば良いと言う訳では無い。


 石とは自然の中では砂砂漠など特殊な環境を除けば何処にでも存在している、ごく一般的な物質である。そして、原始的では有るが武器としても昔から広く使用されている事は有名である。そう言った事から、拾った石は塀などの防犯用の囲いを作る材料として使われながらも、投石用の武器として所々に集められて置かれている。


 当然こちらが武器として使用すると言う事は、敵側も武器として使用するのだがこんな辺境のど田舎に攻め込んで来る人間などいる筈も無く、この石は主に森から迷い出て来る対野獣や対魔獣用の武器として使用される。


 しかし、野獣や魔獣の中には人間同様前足を手として使う者達も居る訳で、この手を使う事が出来る野獣や魔獣達もこの石を武器として使用するだけの知能を有する可能性も無くはない。もしも、自分達に向かって人間が石を投げて来たら投げ返すなどの反応も無きにしろ非ずでは有るのだが。


 だが力が弱く武器を振るう事の出来ない女子供(中には例外も居るが)が自らの身を守るための武器として、石は何処にでも有るので一番手っ取り早いのかも知れない。そして、野獣や魔獣では使う事、造る事が無い道具を使うという点で人間は効率良く石を武器として使用することが出来た。


 それはスリングと呼ばれる投石用の道具で、遠心力を利用する事により素手で石を投げるより飛距離と命中率そして威力を何倍にもしてくれる道具であった。中央に石を包むための幅の広い革製の部分と、その両端には振り回すための細長い紐状の部分を作り、紐状の部分の一方の端は投げる時に手から離れないよう輪を作るか、手に巻き付けられる様にやや長くなっていて紐の部分は動物の毛や糸を寄り合わせて作られていた。かさ張る物では無く、例えばベルトの様に腰に軽く結んだり、肩から襷状に結んだりして持ち運べるので邪魔にならずこの事もスリングが普及する事にも繋がったのかも知れない。


 しかし、石を狙い通りに投げるには根気よく幾度も練習が必要になるのだが、小動物相手の狩りにも使えるために辺境の田舎ではほぼ全ての者が持っているし扱う事の出来る道具の一つとなっていた。


 そのために子供達の仕事である石拾いなのだが、石の大きさ毎に用途が幾つか分けられていて決められた場所に集められた。自分達の握り拳大の大きさの石は投石用の石として、それよりも小さな小石は道や畑以外の窪んだ場所などの埋戻し用の材料や建物を建てる場所の地面の補強用として、土や砂と混ぜられて埋められたりしていた。


 各々子供達の基準により判断され選別されているので、大きさや形に統一性は無いのだが小さな子供でも任せる事が出来るし、何より労働力として役に立つし子供達を1ヵ所に纏められるので迷子や子守りの心配も軽減されている。


 そう言った事情から小さな子供達でも労働力として見なされているのだが、その中でもエルの場合は少し事情が違っていた。エルは回りの子供達と比べると何と言ってもマイペースで、仕事中にも関わらず集中力が途切れると虫やトカゲや小動物などを追い掛けてふらふらと何処かに行ってしまう。そのためにエルを中心に子供達で回りを囲って、不意に何処かに行ってしまわない様に子供達により回りから監視されていた。


 当然エルにはそんな自覚は全く無く、ただ気になった物を観察していたり追い掛けていただけなのだが、それなのに回りが騒ぎ立てたり両親から説教される意味が理解出来なかった。


 そして今日もエルはお手伝いを始めたのだったが、早速気になる物を見付けてしまった。それは、今は子供達しか居ない筈の開墾されたばかりの土地で静かに佇む一人の老人だ。その老人はそこに存在しているにも関わらず何故か後ろの景色が透けて見え、その表情も固く顔色もお世辞にも良いと言える物では無かった。後ろが透けて見えるので定かては無いが濃い色合いのフードが付いたローブを身に纏い、自分の身長程の杖を持ちそして何より長い見事な白い髭を生やした老人であった。


「お爺さんこんな所でどうしたの?」


 エルが突然話し出したので回りの子供達は何事かと思ったのだが、そこには誰も居なかったのでどうせ何時もの様に虫かトカゲか何かに話しかけているのかと思いそれ程気にする事は無かった。


「エルは誰と…?」


 それはエルの兄リスターを除いてなのだが…。リスターは一人で話し出したエルを見てみると、エルの視線はやや上を向いている。それは明らかに虫や小動物に話し掛けている様には見えない。しかしエルの視線の先には誰も居ないし何も見えない。だがそれは今に始まった事では無いので、リスターはエルの行動を注意深く観察する事にした。


「お爺さんそんな所に居たら、僕のお手伝いの邪魔になってしまうよ」


 少し困った様な表情でエルが言うと…。


「………」


「避けてくれてありがとう。でも、お爺さんは村の人?お爺さんを村で見た事無い気がする」


 エルの表情が少し和らいだ。何か良い事が有ったのだろうか?

 

「………」


「そうなの?でもやっぱりお爺さんの事見た事無いよ。お爺さんの家の人は?」


 そして今度は心配そうな表情に変わっていた。エルの表情が変わるのを見ているだけても飽きないのだが、やはり会話の内容も気にはなる…のだがリスターにはエルと会話をしている相手の姿が見えないし、声も聞く事が出来ない。


「………」


「居ないの…独り暮らしなの?寂しく無いの?」


 心配そうな表情が次には悲しげな物に取って代わった。


「………」


「それなら僕のお友達にならない?僕の家来達も紹介するよ」


 そんな表情を隠すかの様に、無理矢理作ったぎこちない笑顔に代わり…。


「………」


「もしも暇なら僕のお手伝いのお手伝いをして貰えると嬉しいな」


 そして楽しそうな笑顔になった。


「………」


「ありがとう、一緒に頑張ろうね!」


 何気に会話が成立しているようにも見えるが、リスターにはエルの姿以外は何も見えないし、エルの声以外は何も聞こえない。変に話し掛けてエルとエルと話しているであろう存在からも警戒されたくは無いので距離を保ったまま観察だけは続ける。自分も子供なので何か出来るとは言わないが、いざという時には見た事聞いた事を報告する事くらいはは出来るので作業をしつつ警戒は怠らない。


「そう言えばまだ名前を教えて無かったね。僕の名前はエルシード!エルシードじゃ長いから皆はエルって呼んでるよ。お爺さんの名前は?」


 そう言えば端から聞いていても、エルが名乗ったのは聞いていなかった。


「………」


「ウリケルさんって言うんだ!宜しくねウリケルさん!」


 …ウリケル?ふと聞こえてきたその名前を聞いた時、リスターはある一人の人物を思い浮かべた。それはこの国に伝わる昔話の登場人物の一人で、この国の成り立ちに深く関わる一人の偉人の名前だった。


「………」


「…ウリケルって名前何処かで聞いた事が有るけど何処でだったっけ?忘れちゃった、まあ良いか!」


 えっ…うそっ…!リスターは監視している事を忘れて、つい突っ込みそうになったが寸前の所で思いとどまった。昔話として何度も聞かされた賢者ウリケルの物語を忘れてしまうとは…しかもエルは賢者ウリケルの物語が大好きだった筈なのに!


「………」


「そうだよね人が沢山居ると同じ名前の人も居るかも知れないよね、きっと僕の勘違いだよね!」


 エルはもしかして賢者ウリケルの賢者も、名前の一部と思っているのかも知れないとリスターはこの時思ったとか思わなかったとか?

続きが気になる方、応援をお願い致します。

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