46・お帰りなさい
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
ウリケンさんが昼間でも出掛ける事が多くなって来る少し前くらいからかな?森の中では異変って言って良いのか、おかしな事って言った方が良いのか違和感を感じることが有ったんだ。僕の勘違いなら良いのだけれどその後森の中で少しずつだけど野獣や魔獣と出会う回数が減って来たような気がするし、それと比例するように果物とか木ノ実やキノコや山菜と言った植物は見付けるのが増えたんだ。
「こんな事って、前に似たような事とかって有ったの?」
「(前に?何がだ?)」
「えーと、ルウスが僕と出会う前にって事だよ!」
「(オレがエルと出会う前?うーん…知らんな?毎日飯を探すのが忙しくて、森で何か有った事とかなんて興味無かったしそれどころじゃ無かったからいちいち覚えてないぞ)」
でも薬草は変化が無かったかも?薬草が生える条件なんかは薬草によって違うし、種類も沢山有り過ぎるくらい有るから薬草については違和感とかは無かったと言うよりは気付きようが無かったのかな?
「そうだよね…」
「(当たり前だろ、来る日も来る日も腹を空かせて森の中で飯を探す毎日だそ)」
「うん、そうだよね」
「(それに食うか食われるかってのも有ったしな…)」
僕もルウスも狩りの成果が減って肉が減ったのは残念だったのだけれど、僕の無限収納がこの時にはもの凄く活躍したんだ。だってウリケルさんの時代からずっと食料を備蓄していたんだよ。こういう時でも無い限り、その備蓄から食料を出すなんて事は無かったのかも知れない。だから肉が穫れるのが減った分は、無限収納の中の肉で賄っているんだ。
「えっ…(ゴクリッ)」
「(下手打って怪我して動けなくなって、一週間くらい飯抜きの時も有ったし…)」
「う、うん(コクコク…)」
「(それに一日中大きな奴に追いかけられて食われそうになった事も有ったっけ…)」
でも何でこんな事になったのかな、僕が考えてみても答えは出ないのだけどね。それはルウスに聞いてみても答えは同じだった。「オレがそんな事覚えているわけないだろ」って感じだった。
「…えっ…」
「(捕まって巣に連れて行かれたけど、隙を見て何とか逃げ出せたけどな…)」
「…(ギョッ…)」
「(逆に逃げるついでに、そいつの子供を捕まえて食ってやったり…)」
そこでふと思ったのだけれどもしかしてウリケルさんが出掛けるのが増えている理由って、もしかしてこれが原因なんじゃないのかなって…何で今までそんな事に気が付かなかったのだろう…僕って本当に鈍いって言うか、それこそ今更だよね。
「…」
「(それがばれて怒り狂った親に滅茶苦茶に追いかけられて…)」
「…」
「(ボロボロにされてなぶり殺されそうになったり…)」
そう言えば小さな異変なのかな、それとも前兆って言ったら良いのかな、それは確かに有った気がする。ルウスの言う小さい奴のマルテース、あれが大量に発生した事が有ったんだ。何だか目が血走ってて何かに怯えるような?それとも興奮していたのかな?その時にはウリケルさんが残って対処するからって、僕とルウスの二人は先に家に帰らされたのだけど…そう言えばあの後くらいから少しずつ狩りの獲物が減って行った気がするんだよね。
「…」
「(今までのオレの生活はそんな感じだぞ…)」
「それは…ハードモード?だね…」
「(ハード?良くわからんがそんな感じの生活だっただから、自分の事で精一杯でオレ以外の事なんて全く何も覚えて無いぞ!)」
その後くらいからウリケルさんは夜中の外出が増えてきたし、今日みたに昼間でも居ない事が増えてきた。
「ごめん…変なこと聞いちゃって、思い出したくも無かったよね…」
「(あー…?別に…それが今のオレが生きるための糧になっているからな、死んだらそれで終わりだがそんな事が有ったから今まで何とか生きてこれたし色々と覚えられたから、生きていくための経験ってやつだな!)」
「うん、これからは僕も色々と手伝うから、いっぱい美味しいものをお腹いっぱい食べようね!」
「(おおっそうだな!エルといると何とかなりそうな気がしてくるぞ!)」
ウリケルさんは外出の理由とかは教えてくれないけれど、きっと今のこの森の状況と何か関係がある筈だよね。だって僕が憧れたいた伝説の大賢者様だよ。そのウリケルさんが動くって事は、何か問題が発生したからだよね。
「ありがとう。あっ見てルウス、あんな所に木の実が沢山成ってるよ!」
「(何!エル、それはうまい奴か?)」
「そうだよルウスが好きな、甘くて果汁たっぷりな小さい木の実だよ」
「(よし、採れるだけ採って食えるだけ食うぞ!)」
僕の大好きな賢者ウリケルの物語は世のため人のために、弱い人や困った人達や動物達を助けて悪者をこらしめるお話だから、ウリケルさんの不在=何らかの問題発生=ウリケルさんの活躍って公式が僕の頭で勝手に成り立ってしまったくらいなんだ。
「そうだね、でも他の動物や新しい実の生る木を育てるために少しは残しておかないとね」
「(…そっそんなの当たり前だろ、全部独り占めとかそんな事俺がする筈無いだろ)」
「ルウスがそんな事をしないのは知っているよ。ただ大好物の時はどうなのかと思って言ってみただけだよ」
「(エル…お前本当に性格悪いな…オレを何だと思っているんだ?)」
ウリケルさんがどこかで頑張っているのだから僕も頑張らないと…って思ってはいるのだけれどルウスには少し意地悪をしちゃったかな?いつもなら自ら進んで木の実を少し残しているのだけれど、大好物だとそれは難しいのかもね?僕だってそうだよ、誰だって美味しいものは沢山食べたいよね。
「ミノタウロス一の食いしん坊!」
「(それは否定せんが、いくら大好物だからって独り占めとかオレはしないぞ)」
「じゃあ僕にも分けてくれるんだね」
「(…ああ…)」
僕やルウスが後の事を考えずに木の実を全て採り尽くしてしまっても、この広大な森からすれば全く問題は無いと思うのだけれどこの森の中で生きていくためには森での収穫に感謝の心を忘れてはいけないよね。森で生きていくための最低限のルールとかマナーって言うか、森で生きている全ての生き物に対しての敬意とか尊崇の心を忘れてはいけないんだよ。
「何?その間は?」
「(…何の事だ?)」
「今返事をする時に少し考えたよね」
「(何がだ?)」
だって僕達は森に生かされている存在でしかないんだ。それこそ本当にちっぽけな存在なんだ。ウリケルさんが言っていたけれど、僕達はこの森に寄生する寄生虫みたいな者なんだって。森によって生きて行くことを許されていて、そして森によって生かされているそんな程度のちっぽけな存在なんだって。
「僕にも分けてくれるかって事を」
「(そっそんな事無いぞ、エルとオレの仲なのに独り占めとか…)」
「本当に?」
「(ほっ本当だぞ、エルと二人で仲良く分けようと思ってたぞ!)」
だから森えの感謝と畏敬の念を表すために、森を繁栄させるかもしれない事は進んでやらないとって事なんだよ。だから森にとって良いかもと思える事は全て試しているんだ。
「ウリケルさんは?」
「(じっじいさんは大人だから分けなくても大丈夫だろ?)」
「それはどうなのかな?ウリケルさんに聞いてみないとわからないよ?」
「(いや、きっと大丈夫だ。じいさんは大人だからな、甘いものはあまり好きじゃないみかもしれないぞ!)」
「………(あれっ君達、ビグアの実を見付けたのかい?優しい甘さと溢れる果汁で美味しいよね、これは私の大好物の一つなんだよ!)」
「師匠お帰りなさい」
「(じっ、じいさん…お帰り…)」
「………(ただいま!)」
僕達が果物の話をしていてらいつの間にか、どこからともなく突然背後に現れたウリケルさんに声を掛けられてびっくりしたんだよ。本当に心臓が口から飛び出すんじゃないかってくらい驚いちゃったよ…。
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