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3 母と姉兄

続きです。

宜しくお願い致します。

「姉様これが僕の今日の成果です」


 まさに、どや顔で先程捕まえポケットに入れていた、虫や蜥蜴などを姉に見せびらかす。


「…うん…よく捕まえられたわね、可哀想だから逃がしてあげなさい」


 姉もエルと同じ歳の頃には虫や蜥蜴を捕まえていたのだが、最近では少しずつ乙女に近付いて来たのか若干忌避感を憶え…いや、まかり間違っても領主の娘それも花も恥じらう年頃の乙女、周りの目が気になって来たので虫や蜥蜴などを捕まえる事をしなくなっていたので有った。


「えー!僕と姉様の家来にしようと思っていたのに!」


 エルの手の中から逃げ出そうとしているの虫や蜥蜴達の事が気になる。非常に気になる。押し潰して死なせていないだろうか、とても気になる。


「でも、ポケットの中に入れたままにしていたら、家来にする前に虫達が死んでしまうわよ!」


 だからこれだけは譲れない。せっかく捕まえた虫達を死なせるのは、可哀想だ


「…でも、家来にしたら大きくなるまで育てて、僕や姉様を乗せてくれると思ったのに」


 エルはまだ知らないのだろう、エルが捕まえた虫や蜥蜴達がこれ以上大きくならない事を…。


「エル、ありがとう。…でもね、虫や蜥蜴はこれ以上大きくならないから私やエルを乗せる事は出来ないの…」


 エルの純粋さ純真さを傷付けてしまうと思いながらも、ジゼルはエルに真実を教えてあげないといけないと思い口にしてしまう。


「…?何で?父様や村の人達がたまに狩って来る虫や蜥蜴はこーんなに大きいですよ!この虫達はその子供では無いのですか?」


 こーんなにと言いながら両手を大きく広げて見せるエル。それは村を囲う森の中に生息する野獣や魔獣や魔物達の事で有った。食料や保存食用に肉などの蛋白源や、武器や防具更には農具などを製作するための素材として、村の男衆が軍事訓練も兼ねて月に一回程度森の中で狩りを行うので有る。その時の獲物の中に大きな虫や蜥蜴を見たのだろう。


 こーんなにと両手を広げたその時に手の力を緩めてしまったのか、一斉に虫達がエルの手から逃げ出してしまう。エルは逃げ出した虫達を再度捕まえようとするが、ジゼルがそれを止める。


「エル、可哀想だから逃がしてあげなさい」


 姉のために捕まえたのに姉にそんな事を言われるとはと思いつつも、姉の言う事を無条件に聞いてしまうのがエルで有った。


「…解りました姉様がそう言うのでしたら…」


 エルとしては納得していない様子だったが、大好きな姉の言う事だからと渋々としながらも聞いてしまうのだった。そんなエルをジゼルは暖かく見守る。


「お前達、もう捕まるんじゃないぞ!人が来ない山の中にでも行ってしまえ!」


 そう言ってエルは虫や蜥蜴達を軽く放ってやる。羽の付いた虫達はそのまま少し飛んで麦畑に隠れ、蜥蜴も上手く着地してそのまま麦の陰に身を潜める。


 そんな虫や蜥蜴達をエルとジゼルは、勿体無いとでも言いたそうな表情で見守る。虫達が上手く逃げられたか隠れられたか見守っていると子供が一人近付いて来た。


「姉様、エル、どうしたの?畑に来たのならお手伝いをしないと、お昼ご飯抜きになってしまうよ」


 そう言って近付いて来るエルよりは大きくジゼルよりは小さな男の子。


 茶色い髪の毛をおかっぱにした、エルとジゼルに顔立ちがとても良く似た男の子。しかし、エルとジゼルが活発、ヤンチャ、お転婆と形容するのなら、真逆に小さな子供ながら知的な雰囲気を漂わせている、ヴァルロッティー家の三男リスター八歳である。


「あのねリスター、可愛い弟が駆け寄ってきたら抱き止めてあげるのが姉としての正しい在り方だと私は思うの、そうは思わない?だから私は正しい事をしていたので決して畑仕事をサボっていた訳では無いわ!」


 ジゼルの主観では全く悪い事はしていない、家族として姉として当然の事をしていたと胸を張って主張する。


「リスター兄様、僕は来る時に捕まえた虫達を姉様の言う通り逃がしてあげました」


 エルも悪い事をしていたと言う自覚は無いので、有った事を素直に兄に話す。


「…そうですか、取り敢えず姉様はお手伝いを続けて下さい」


「はいはい、全く可愛い弟との語らいの時間を…」


「…僕もその可愛い弟ですよね!」


 笑顔で即答するリスター。


「…そうね…」


 可愛い?とは思う物のリスターが弟で有る事は紛れもない事実、それを思うとジゼルは何も言えなくなってしまった。


 ジゼルはエルと離れたくは無かったが弟と言い合いをしたところで負けると解っているので、畑仕事に戻って行った。


 産まれてから年齢=ジゼルとの付き合いで姉との関わりの長いリスターは、ジゼルの性格をある程度把握しているので肯定も反論もせずに、事実だけを伝える事にしていた。肯定をしてしまえば更に調子付いてしまうし、反論してしまえば言い合いに成ってしまい最終的には腕力でもって酷い目に遭わされてしまう。過去に何度かそんな経験が有ったからこそ、お転婆な姉は中々に扱いが難しい事を身をもって経験しているので有る。だからこそ子供ながら色々と考えて行動出来るのがヴァルロッティー家の三男なので有る。


 リスターは姉への対応はそこそこに、弟のエルが話し易い様にエルの方へと向いて、少しだけ身を屈めてエルと視線の高さを合わせる。


「…エルは何を手伝うのか母様から聞いているの?」


 リスターにそんな事を聞かれたエルだが、特に母エリーナからは何のお手伝いをするのかは言われてはいない。だから素直に今朝母から言われた事を言うだけで有る。


「はい、畑のお手伝いをします!」


 逆にエルは素直に、否素直すぎるくらいに何でも話してしまう。隠し事が出来ないのか、はたまた隠す必要が無いと思って居るのか、それとも何も考えて居ないのか、聞けば何でも答えてくれるのでリスターからしてみればこの子は大丈夫なのかなと心配になってしまう末っ子なので有った。


「…うん、そうだね畑に来ているから畑のお手伝いだね…」


 だが、リスターの期待した答えとはいささか内容が異なっていたので、その事が少し表情に出てしまった。


「…?兄様、僕、何か変な事を言いましたか?」


 そんな兄の表情を見ていて何か自分がリスター困らせる事を言ったのでは無いのかと思い、エルの表情が曇ってしまっていた。


「いや、そんな事は無いよ。エルは素直だなって思っただけ」


 リスターも可愛い弟を虐める様な趣味は無いし、それでいて過度に甘やかすつもりも無いのだがそれでもどうしても弟に対しては少し甘くなってしまう。


「そうですか?ありがとうございます」


 エルは褒められたと思って笑顔でお礼を言った。


(我が弟ながらこの笑顔は反則だよね…)


 こんなに裏表も無く無邪気で屈託の無い笑顔を見せられると、これ以上は何も言えなくなってしまう。それはエルの親兄姉全員が共通して思っている事で、だからどうしても皆が末っ子に甘くなってしまっているのも事実なので有る。


「じゃあエル、母様の所に行って母様のお手伝いをしようか?」


「はい、リスター兄様!」


 リスターはエルの手を取ると兄弟仲良く手を繋いで、母の居る方へ歩き出すのであった。


 だがここにはもう一人エルを甘やかす存在が居る。当然彼女がこの状況を見過ごす筈も無かった。


「じゃあエル、私も付いて行ってあげるね!」


 リスターと手を繋いでいるのとは反対側の空いた方の手を取り、ジゼルはエルと手を繋ぐと笑顔で弟達と一緒になってに母の居る方へと歩き出す。


「あらエル、母様には駆け寄って来てはくれないの?」


 エル達姉弟が仲良く手を繋いで歩いて来ている事を見ていた母エリーナは、少し悲しそうな雰囲気を出しながらエルへと問いかけた。農作業中に出た汗を拭くために持っている手拭いで、態とらしく目の周りを押さえる演技も忘れない。


「「……」」」


 ジゼルとリスターはこれが母の演技だと言う事は理解しているので少し呆れていたのだが、一人だけ人を疑う事を知らないしそもそも嘘を吐くとか人を騙すとかそんな事とは無縁な末っ子は、母の言葉や行動にすっかり騙されてしまっていた。


「母様泣かないで…」


 ジゼルとリスターの二人と繋いでいた手を離すと、エルは母へと駆け出して行ったのだった。

続きが気になる方、応援をお願い致します。

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