29・ウリケルさんの秘密兵器
寒いです。
ストーブの前から離れられません…。
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
僕は目を瞑っていたけれどいつまで経っても何の衝撃も襲っては来なかった。その代わりに何故か後ろに引っ張られる様な異様な感覚が気になったので、不思議に思って恐る恐る目を開いてみた。
そして目にしたのはルウスが僕を肩車した状態で、ほぼ垂直に生える大木の幹を必死に駆け登る姿だった。
「…何?どうして?ルウス、どうしたらこんな事が出来るの?」
「(しっ、知らん!気が散る!話し掛けるな!落ちる!)」
「………(おお、やるね!忍者みたいだ!)」
「グルッ?グッ?グルッ?」
モルダルシェリュースは僕達を見失ってしまったのか、仕切りに辺りを見回していた。流石の魔獣も木の幹を駆け登るとは夢にも思っていないだろうから、僕達を見付ける事は不可能に近いのかな?
「でも、ルウスどうするの?このままじゃ想像したく無いけれど…落ちちゃうよ!」
「(エッ、エル…)」
「何、ルウス?」
「(とっ止めてくれ!)」
「えっ僕が…!どうしよう?」
「(オレに聞くな!)」
「でも、先に聞いたのはルウスだよ!」
「(でも、指示を出すのはお前の役目だったろ!)」
「それは、そうだけど…でも、どうしよう?」
「(だから、オレもそれを知りたい!)」
「僕も知りたいよ!」
こんな時に言い争いをしなくても良いとは思うのだけど…何故かな?ルウスとお喋りするのって凄く楽しいんだよね。それは多分この一年間、同年代の子と関わっていなかったからと思うのだけど…?
「………(ねえ、君達)」
「(何だ!何か用か?)」
「はい、何ですか師匠!」
「………(そのまま運を天に任せて、ジャンプしてみるとか?それともエルの重力魔法で木に垂直に立つとかすれば良いのでは無いかな?)」
「(重力?垂直?また難しい言葉が出てきたぞ!)」
僕とルウスの不毛な言い争い?に終止符を打ったのは、ウリケルさんの提案だった。提案自体はこの今のところ状況を打開するためには、極全うな提案だと思う…様な気がするのだけど…。
運を天に任せるって、それって真面目に考えるのが面倒臭くなった時のウリケルさんの行き当たりばったりで、まあどうにかなるだろう的な解決方法だよね…もう一つの重力魔法で木に立つ方なんだけど僕は重力魔法は苦手以前に練習も殆どしていない魔法なんだ!ウリケルさんはその事を知っているから、重力魔法を使う事を提案した可能性が高いよね。
「運を天に任せるのも怖いですけど、重力魔法は苦手なんですよね…」
で、僕の心からの本音がまさにこの通りなんだけどね。でも、何時までもこの状況で居る訳にはいかないし、このままではその内、木の先端近くまで行ったらこの状況は強制終了させられるのだから…。
「(エル、どうする?オレはお前に任せるぞ!)」
「………(エル、もう少しで決断の時が来るよ!)」
「えっ…ちょっ…待ってぇー!」
ウリケルさんの言葉で思考の沼から現実に引き戻されたのだけど…もう間も無く大木昇りの旅は終わりを告げる寸前だった。ってか、もう間に合わない!
「≪身体強化・身体強化・身体強化…≫ルウス飛んで!」
僕は何が起きても良い様に≪身体強化≫の魔法を僕とルウスに掛けまくった!筋力、体力、素早さ、精神力等々様々な身体能力が何倍…いやもしかしたら十何倍に強化されたかもね?
「(飛ぶ?どこに?何で?)」
「………(エルの回答が出たみたいだね!)」
「良いから、このままだと下に落ちて大怪我しちゃうかもだから!何処でも良いから兎に角飛んで!!」
「(わ、解った。とッ飛ぶぞ!)」
「………(おっ、チャレンジャーだね!)」
ルウスは僕が飛ぶ様に言うと、躊躇っては居たけれど素直に大木から飛んでくれた。僕が急かしたからなのだけれど、何処に向かって飛ぶとかでは無くて言われるがままに飛んでしまったので向かう先は完全に運任せなんだけど…どうしよう!モルダルシェリュースに向かって落ちている気がするけど…気のせいで有って欲しいのだけど気のせいじゃ無い!どうしよう、一難去ってまた一難だ…。
「ルウス、大丈夫?」
「(………)」
「ルウス?」
「(オッ、オレ落ちるの駄目、み、た、い……)」
いくら≪身体強化≫の魔法で精神力を強化しても、潜在的?根元的?魂に刻み込まれた?的な恐怖心は克服出来ないのかな?
「ルッ、ルウス?」
「………(ルウスの意外な?弱点なのかな?)」
「グルッ?グッ?グルッ?」
僕達は今一番会いたく無い存在、モルダルシェリュースへと急接近…じゃ無くて、モルダルシェリュースに向かって落下している。モルダルシェリュースは未だ見失った僕達を探しているみたいで、その執念深さか諦めの悪さかは解らないけれど、それってしつこくて嫌だよね!粘着?執着?してくれなくても良いのにね…。
出来れば今直ぐにでも何処かに行ってくれないかな?
「どうしよう、見付かるのは時間の問題だよね?」
「(………)」
「………(エル、ルウスが静かになっているよ)」
「えっ…師匠?大変ですルウスが気絶しています!」
「………(仕方が無いね!)」
指示を出した僕が悪いと思うけど…ルウスは物理的だけじゃ無くて精神的にも飛んじゃった…?ごめんねルウス。お詫びになれば良いのだけど、もし僕が生き残っていたら美味しいご飯を沢山作ってあげるからね!
でも、そのためには僕達が生き残る事が大前提だよね!だから生き残るために全力でこの状況から抜け出してみようと心に決めたんだ!
「グルッ?グッ?グルルルル!」
僕達がモルダルシェリュースに向かって自由落下していたら、遂にモルダルシェリュースに見付かってしまった。それはそうだよね、僕達は騒々しいしそれに風切り音って言えば良いのかな?服が風に靡いて「バタバタ」と音も発てている。それにこの状況で気配を消すとか、それどころじゃ無かったし!
「どうしよう?見付かっちゃった!」
「………(一難去ってまた一難だね!)」
「グルルルル!」
僕達を見付けたモルダルシェリュースは、立ち止まり僕達を見上げて威嚇か怒りの唸り声をあげている。こんな恐ろしい唸り声を聞いてしまったら、余りの恐ろしさに足が竦んでしまうか昔の僕みたいに漏らしてしまうかも…。
いやでも、ぼくは一年間の修行の成果?で、このくらいの事では怖いとは思うけど足が竦んだり漏らしたりはしないよ!しないからね!絶対に!
「うわわわわ!ぶつかる!危ないから避けて!」
「………(おっ!これって直撃コースだね!)」
「グルルルル!」
って、そんな事を言っても魔獣に伝わる訳が無いよね。魔獣の鳴き声の意味を僕達が理解出来ないのと同じ事だから!僕達を丸飲みにするつもりなのか立ち止まって鋭い牙が並んだ大きな口を開いて、その鋭い目で僕達の姿を追っている。
「もう駄目…避けられない!」
「グルルルル!」
「………(エル、諦めるのは未だ早いよ!)」
「師匠?」
「グルルルル!」
ウリケルさんはそう言うと重力魔法の≪重力軽減≫と≪重増加≫の相反する二つの魔法を使った。≪重力軽減≫の魔法を僕に、そして≪重力増加≫の魔法をルウスに、そうするとまあ…そうなっちゃうのかな?
「………(後は君達の運次第だよ!)」
「落ちるのが、遅くなった?」
ウリケルさんに重力魔法を掛けられた僕達なんだけど…僕にはルウスより先に≪重力軽減≫の魔法を掛けられた事で身体が軽くなったのかな?見るからに落下速度が遅くなった。
一瞬身体が浮いたかと思ったけど、気のせいだったみたい!
「グルルルル!」
そうすると当然僕達が落ちる予定だった場所で待ち構えて居るモルダルシェリュースは、タイミングを外されるので少し移動しなくてはいけなくなるのだけど…。
「えっ、止まる?…らない!」
あっこれで速度が落ちるのかなって思ったら、ルウスへは僕より後に≪重力増加≫の魔法が掛けられたので、少しの間を置いて再び落下速度が上がってしまった。
「ル、ウ、ス、お、も、い!」
「グルルルル!」
僕の身体は≪重力軽減≫の魔法で浮こうとしているけれど、ルウスの身体は≪重力増加≫の魔法で落下しようとしている。
「ル、ウ、ス!」
いくら≪身体強化≫の魔法で肉体を強化していると言っても、僕本来のひ弱さとルウスの野生で鍛えられた肉体とでは身体強化後の能力も全然違って来る。それに僕はルウスに肩車をされて居るのだけどルウスは現在気絶中。だから僕はルウスの脇下に挟まれた膝下だけで、どうにか固定されていたのだったのだけど…。
「重過ぎる!」
「グルルルル!」
「あっ、もう無理…!」
「(………)」
「………(…計算通り!)」
「グルッ!」
ルウスの脇の下で曲げていた僕の膝がルウスの重さに耐えきれず伸ばされてしまい、ルウスの身体はスルリと滑り落ちてしまった、僕とルウスは離れ離れになってしまい、僕は空中でフラフラと浮いた状態で、なす術も無く落ちて行くルウスを見守る事しか出来なかった!
「ルッ、ルウス!」
「………(ルウス爆弾投下!)」
「グルルルル!」
ルウスはと言うと…。大きく口を開いたモルダルシェリュースに向かって、頭から一直線に落ちて行った…。
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