28・エルとルウスVS森の捕食者
今日から寒くなる予定です?
冬の準備はお済みですか?
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
僕を肩車した状態で、ルウスは突然森の中を走り出した。危ないから止まって!だって何時もより頭の位置が高いんだよ!この早さで木の枝とかにぶつかったらとそんな事を想像をしてしまうと…嫌だよ!…止めて!
「ちょっ、ルウス危ないから止まって!」
「(フー、フー、フー…)」
「………」
「わ、わ、わ危ない!」
「(フー、フー、フー…)」
「………」
早い!僕が≪身体強化≫して走るのとは比べる必要も無いくらい、滅茶苦茶早い!ルウスの髪の毛?頭の毛?タテガミ?を掴んで振り落とされない様にするだけで精一杯だよ。
「危なっ、木の枝が!」
「(フー、フー、フー…)」
「………」
「ルウスってば!」
「(ここまで来れば大丈夫か…ん?エル、何か言ったか?)」
「………」
一本の大木の陰に隠れる様にして、やっと止まってくれたルウスには僕の声は届いていなかったみたい。まるでウリケルさんの前世に有った絶叫マシーンに乗っていたみたいだよ…はー怖かった!
「突然走り出してどうしたの?」
「(ああ、良い肉を手に入れるのなら、準備が必要だからな!)」
「………(何を企んでいるのやら?)」
「準備って?」
「(今、オレとエルは合体?している!)」
「………」
「合体って、肩車の事?」
「(これは肩車って言うのか?思い付きでやっただけなんだけどな!)」
「………」
「さっき背丈が二倍にならないって話の時に、言わなかったっけ?」
「(そうだったか?忘れた!)」
「………」
「それで、結局何をするの?」
「(それはな、オレは足で、そしてエルは手だ!)」
「………(要するにルウスが足役で下半身、エルが手役で上半身って言いたいのだろう)」
「あっ、そう言う事!何か面白そう!」
「(そう言う事だ!)」
「………」
「でも、指示はどっちが出すの?」
「(それはエルだ!エルが上に居るから指示を出し易いだろう!)」
「………」
「解ったよ、それで行こう!」
「(準備が出来たら言ってくれ!)」
「………」
「うん、解った!」
僕は無限収納からウリケルさん製の、小剣と弓矢を取り出した。最近では弓矢も使えるように練習をしていた。弓矢なら離れた所から獲物を射れるので、魔獣や魔物に近付かずに安全に獲物を狩れるからって言うのが一番の理由かな。
弓矢を使わなくても魔法が有るから魔法を使えば良いのだけど、調子に乗って魔法を使い過ぎてこの広大な森の中で魔力切れを起こしてしまったら、それこそ僕の方が狩られる側になってしまうからね。
「≪風の防御・魔法防御≫」
「(おっ、何だ?風が纏わり付いて来る?)」
「………」
身体強化はさっき掛けていたので、物理と魔法の防御魔法を僕達二人に掛けた。この森に住む魔獣や魔物は油断出来ない物が多いので、防御の魔法は欠かせないんだ。例えば普通の攻撃に見えて、実は魔法の効果を上乗せしている魔獣や魔物なんかも居て、初めて会った魔獣や魔物のたったの一撃で意識を失った事も有った。
その時はウリケルさんの魔法で助けて貰ったのだけど、この森で意識を失うって事は死を意味するからそれ以降は特に初見の魔獣や魔物相手には防御の魔法は欠かせなくなってしまった。
「これで僕とルウスは反撃されても、大怪我はしないと思うよ!」
「(やっぱり魔法ってすごいな!)」
「………」
「準備が出来たよ、ルウス!」
「(解ったぞ、エルが合図をくれたら、行くぞ!)」
「………」
僕は弓に矢をつがえて、相手が出て来るのを待った。どのくらい待ったのかな?確かに気配は近付いて来ているのに、森の木々が邪魔をしてその姿を確認する事は出来ずにいる。待っていると僕の足元からソワソワした気配がしてくる。ルウスが待ちきれずに痺れを切らしているみたいだった。
「ルウス、もう少し我慢して!後もうちょっとだから…」
「(わ、解ってるけど、待つって言うのは性に合わなくて…)」
「………」
僕が小声でルウスを宥める様に話し掛けると、ルウスも小声で答えてくれた。これならもう少し、我慢出来るかな?
「ルウス静かに!出て来るよ!」
「(おっ、おう!)」
「………」
そして木の影から姿を現したのは、鹿の魔獣だった…のだけど物凄くでかい!立派な角を生やした雄の鹿なんだけどね、その大きさは何かが可怪しいんじゃ無いかってくらいの大きさ。ウリケルさん二人分よりも大きいんだよ!それに鹿は草食だよね、なのに立派な牙とか有るのだけど…もしかしてあの鹿は肉食なの?
「何あれ?大き過ぎない?」
「(この森であんなの見た事無いぞ!)」
「………(おっあれはモルダルシェリュースだね!)」
「モルダルシェリュースですか?何だか怖そうな名前ですね!」
「(そうか?オレは格好いい名前と思うぞ!)」
うーん…ルウスの感性が解らないけど、僕も人の事は言えないかな?それに物の良し悪しなんて人それぞれだよね!でも、直訳すると噛み付く鹿?で良いのかな?名前だけでも、怖そうなイメージなんだけど実際に見てみると…怖いと言うか、狂暴そうな感じしかしないよね!
「………(肉がとても美味しい魔獣だよ!まあ、君達二人なら怪我はするかも知れないけれど、死にはしないさ!)」
相変わらずウリケルさんは僕いや僕達にかな?僕達に任せてもしもの時のサポート?バックアップに回るみたい。
「良し!兎に角美味しいお肉のために頑張ります!」
「(おおー、頑張れ、エル!)」
「………(私も特製のレシピで美味しく調理する準備をしておくよ!)」
「いや、ルウスも頑張らないと!」
「(オレはいつも、頑張ってるぞ?)」
「………」
「そ、そうだね…じゃあ、行くよ!」
「おう!」
「………」
「んんー、しゃっ!」
僕は子供用の小さな弓を引き絞り、そして矢を射放った!弓と矢はウリケルさん製なのでとても扱い易く性能もとても優れた一品だったけど、初見の相手なので念のために矢には風属性の魔法で狙った所に向かう様に誘導しているし、貫通力や飛行速度も強化している。
僕はモルダルシェリュースの眉間を狙っていたのだけど野生の感なのかな?モルダルシェリュースは無造作に頭を振る事で角を使って、僕が放った矢を振り払ってしまった。
「!…!!」
「えっ嘘?…弾かれた!」
突然自分に向かって飛んで来た矢を振り落としたモルダルシェリュースは、自分の足元に落ちた矢を確認してから回りを見回して僕達を発見した!ただでさえ牙の有る鹿って言う見た目で迫力は充分に有るのに、僕が矢を射放った事で怒らせてしまったみたい…牙を剥き睨み付け威嚇の唸り声をあげて更に迫力が増してしまった!
「…グルルルルッ!」
「(おっ!何だあいつ怒ってるぞ!気の短い奴だな!)」
「いや、それって僕が怒らせてしまったからだよね!」
「………(奴はそれなりに強力な魔獣だから気を付けるんだよ!)」
「(エル、いつでも良いぞ。オレの準備は出来てるぞ!)」
モルダルシェリュースは苛立たしげに鼻息が荒くなり、前脚で地面を蹴る様に何度もかいていて今にも突進して来そう!その視線はずっと僕達に向けられて、睨み付けている。もう僕達をエサとして認識してしまったみたい。もうこうなったら、逃げてもどこまでも追い掛けて来るんだろうね。僕達は、逃げないけどね!
「うん、それじゃ…行くよ!」
「………」
「(おう!)」
ルウスは僕に返事を返すと、その瞬間に前に向かって駆け出した。それに合わせる様にモルダルシェリュースも前に駆け出した。でも、一つ誤算が有った。それは僕達は強化魔法で素早くなっているって事。そして風の防御魔法で物理的な防御力を上げていたのだけど…そのせいなのかな?更に加速力が上がったみたいになってしまった。
それはウリケルさんの前世に有った、カタパルト射出みたいになってしまっていた。
「うわーーー!早すぎる!」
「(うお、お、お、お!スゲー!面白い!)」
「………(おお!理想的なカタパルト射出だね!)」
「グルルルル!」
「ルウス!スピードを落とせない?」
「(おお、やってみるぞ…!)」
「………(エル、ルウス前を見ないと危ないよ!)」
「グルルルル!」
僕達は狙っていた訳でもいないのに奇跡的に綺麗にそれも絶妙なタイミングで狙った様に、モルダルシェリュースの股下を駆け抜けてしまっていた…。
「ルウス前!前!」
「(ちょっ!止まれない!)」
「………(君達、練習無しでいきなりは無理が有ると思うよ!)」
「グルッ?グッ?グルツ!」
僕達の目の前には物凄い勢いで一本の大木が迫って来ていた。いや、僕達が向かっているのだけどね。本当はこう言う時には目を瞑ってはいけないのだけど、流石にこの状況では無意識の内に目を瞑ってしまった…。
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