17・エル、森に入る
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
「影武者スライム、後は任せたよ」
「………」
ウリケルさんがテイムした僕の影武者スライムに僕がする筈だったお手伝いを任せて、僕とウリケルさんは森に入って行った。一応僕の行動パターンをインストール?インプット?学習させているから問題は起きないとは思うけど、心配なのは心配だけどね。それに何かしらの問題が起きた時には影武者スライムはウリケルさんとリンクって言って同期?同調?しているから、その時にはウリケルさんが対応してくれるから安心だよね。
「今だったらこっち側には人が殆ど居ない筈」
「………」
普通に森に入って行くと誰かに見られてしまうかも知れないので、開墾作業をしていない側の森に入る事にした。基本的にヴァルロッティー村は周囲の全てを森に囲まれているから、毎年どの方向に畑を広げて行くかの計画を父様や村の村長や顔役や村人達の話し合いによって決められていた。
「良かった、今日は畑に誰も居ないや」
「………」
だけど今開拓している場所から右に回るか左に回るかでその方向を均等に開拓して行きその方面をある程度広げてから、全く違う方向を開拓していくか現在開拓している場所の左右のどちらかを広げて行く事になる。
「…初めて森に入るから緊張しますね」
「………」
それを加味して現在僕達が森に入ろうとしているのは、村の北側の森だった。今ヴァルロッティー村は南側に畑を広げているので北側に人が来るとしたら、北側の畑を持っている村人か猟師くらいだった。僕とウリケルさんは回りを見渡して人が居ないか確認してみたけれど、誰も見付ける事は出来なかった。誰もいないのなら今がチャンスだよねって事で、僕達は森の中に分け入って行った。
「誰も居ない今がチャンスですね!」
「………」
一応念のために僕は子供が両手でも片手でも扱える小さめの剣を装備して、その剣を鉈の代わりにして行く手を阻む藪を切り開き僕がどうにか通れる程度の小道を作りながら森の奥へと進んで行く。この剣はウリケルさんが作った剣で、同じくウリケルさんが作った服を僕は着ている。当然と言えば良いのか幼児の僕では直ぐに体力が尽きてしまうので、身体強化魔法で体力と筋力の強化と索敵魔法を自分で使っていた。
「魔法って凄いですね。こんなに歩き難い場所を歩いているのに、殆ど気にならないくらい普通に歩けます!」
「………」
一応ウリケルさんも索敵魔法で回りを警戒してしているけれど、これはあくまでも僕の修行の一環なので、余程僕が危機に陥らない限りはウリケルさんは手出しをしない方針みたいだった。
それにどんなに大きな怪我を負ってしまったとしてもウリケルさんの魔法でたちまち回復出来るし、例え即死してしまったとしてもウリケルさんの魔法なら即座に生き返る事が出来るんだって…だから大船に乗ったつもりで気楽に行こうって言われたのだけれども…ウリケルさんの魔法が凄いのは知っているし解っても居るつもりなんだけどね、痛いのも怖いのも死ぬのも僕は嫌だよ!
「何かがこっちに向かって来て居ますね」
「………」
森に分け入ってしばらく進むと、僕の索敵魔法に反応が有った。危険度は余り高くは無さそうだけど僕は幼い幼児だから、例え相手が弱い存在で有っても一撃で死んでしまう可能性はゼロでは無いよね。
「反応を見る限り強い魔物では無いみたいだけど、森の中で魔物と出会うって怖いですね!」
「………」
身体強化魔法で体力と筋力を強化していたから、更に相手の動きに一早く反応して素早く動ける様に更に反射神経を強化した。僕の魔力量はウリケルさん流の訓練方法により、ウリケルさん曰く人族の中ではトップレベルの魔力量になっているらしいので、魔法の重ね掛けは全く苦にならず問題無く更に自身を強化する事が出来た。
「いきなりの不意討ちだけは来ませんように…」
「………」
再度自身を強化した僕は回りの藪を払って少しでも視認性と動き易い場所を確保する事にした。索敵に掛かった僕に敵意を持った存在が僕の所に辿り着くまでにもう少し時間が有るので少しでも僕の有利になる様にする事は必要な事だよね。僕が持った剣が届く範囲を僕の膝くらいの高さで藪を切り払ったところで、索敵に掛かった僕に敵意を持った存在が僕の視界に入って来た。
「父様達が狩って来たのを見た事が有る。確か…コッケ鳥だったかな?焼いて食べると美味しい鳥の?」
「………」
僕の前に現れたのはコッケ鳥と呼ばれる肉食の鳥の魔獣で、焼いて食べる事が多い魔獣なんだけど動いているのを見るのは今日が初めてだった。大きな嘴を持った緑色の羽で全身を覆った森の中では天然保護色で視認し難い存在だった。それが三羽、大きさは僕の腰まで有り普通に考えると僕が非被捕食者の側だからか、コッケ鳥は警戒もソコソコに僕に接近してきた。
「僕が子供だからって簡単にはやられないぞ!逆に僕がお前達を食べてやる!」
「………」
僕は今、体力と筋力と反射神経の強化魔法と、索敵魔法の合計四つの魔法を使用している。身体強化魔法を覚えたばかりの僕は、体力の強化と筋力の強化と反射神経の強化この三つの魔法を別の魔法として使っているけれど、身体強化魔法の扱いに慣れればこの三つを一つの魔法として、いやそれどころか強化させたい部位を一度の魔法で何ヵ所も強化させる事が出来る。
ウリケルさん曰く「魔法とはイメージした物を如何に具現化させる事が出来るか」って事なんだけど、一度にいろんな事を頭の中に思い浮かべてそれを一つの魔法にする事が僕の課題の一つなんだよね。それが出来ていないから魔法を幾つも重ね掛けしなければいけないのだけれど…。
普通の魔法使いでは同時に二つの魔法を使えれば凄いとされているけれど、ベテランや凄腕の魔法使いでは三つか多くて四つの魔法を使う事が出来るんだって。しかし魔法使いでも上位者、魔導師とか魔術師って呼ばれている極一握りの人達は六つから八つ、伝説級の魔法王や魔導師や魔術師になると十個以上の魔法を同時に使用出来るみたいなんだけど…では伝説の英雄にして賢者のウリケルさんは一体幾つの魔法を同時に使えるのでしょうか?
…その答えは試した事が無いから解らないでした。
「動きが早いけど、何とか付いて行ける!」
「………」
魔法と武術の両方を極めたウリケルさんは長い人生の中で何回も死んでしまうかも知らないって思う危機が有ったのだけれど、その全てを何とか凌いで生き長らえたそうで魔法の重ね掛けも、身体強化と索敵魔法とそして攻撃魔法や防御魔法や回復魔法を合間で使うくらいだったので、実際には三つか四つの魔法を同時に使えれば事足りたそうでした。
「連携とか考えていないのかな?」
「………」
試しに幾つの魔法を同時に重ね掛け出来るかやってみた事は有ったみたいだけど、魔法を二十個重ね掛けしたらその場の魔力が不安定になって暴走しそうになったので止めてしまってそれ以来試そうと思った事も無いそうとの事でした。
「僕が子供だからって、負けないからな!」
「………」
でも流石と言うか伝説級の賢者になると、魔法を幾つ重ね掛け出来るかなんてどうでも良い事なんだって…そんな事よりも研究したい事や試したい事が多過ぎて、そちらを優先させていたのでそれ以来試す事すらしなくなっただなんて、ウリケルさんのスケールが大き過ぎるのかそんな事を気にする僕のレベルが低いのか…絶対に後者だよね…!
「冷静になれば僕だって、負けないぞ!」
「………」
まあ、それはさておき今は目の前の事に集中しないと、良くて大怪我悪くて死んでしまうかも知れない。僕は小剣を先頭を走るコッケ鳥に向けて構えた。最小限の動きで対応するために、剣先は常にコッケ鳥に向けている。
「来るなら来い!」
「………」
コッケ鳥達は僕を見ても脅威とは思わなかったみたいで、無警戒に突っ込んで来た。僕は先頭を走るコッケ鳥の突進に合わせる様に剣を軽く付き出す事で、難なくコッケ鳥を一羽仕留める事に成功した。剣はコッケ鳥が大きく開いた嘴に吸い込まれる様に突き刺さり、頭の反対側から剣先が覗いていた。コッケ鳥の突進速度と自重で自ら剣に刺さりに行った形なのだけど、僕がコッケ鳥を仕留めた事には代わり無かった。
「ビックリしたけど狙い通り?」
「………」
それを見て慌てたのかは解らないけれど、先頭のコッケ鳥が僕に倒された事で残りの二羽の動きが止まってしまった。それは僕が仕留めたコッケ鳥から剣を抜くのには充分な時間となったので、落ち着いてコッケ鳥から剣を抜く事が出来た。剣にコッケ鳥の血が付いているのを見て少し気分が悪くなってしまいそうになったけれど、精神力強化の魔法を自分に掛ける事で何とか気分が悪くなる事は止められた。
「まだ二羽居るんだ、油断なんてしないからな!」
「………」
僕みたいな幼児に先頭を走るコッケ鳥が倒された事で動きを止めてしまった残りの二羽のコッケ鳥達は、僕の筋力と反射神経を強化した動きの前では隙だらけで剣の二振りで二羽の首を刎ねてしまった。
「エイ!ヤー!」
「………」
初めての剣を使っての殺生と剣越しとは言え、肉や骨を断つ感触は何とも気持ち良い物では無かったけれど精神力強化の魔法を自分に掛けていたので何とか吐いたりする事は無かった。
「はあ、はあ、はあ、はあ…師匠何とかやりました!」
「………」
これが僕にとって初めての実戦であり、初めての狩りで有り、初めての故意に命を奪った事だった。
…でもせっかくコッケ鳥を、それも三羽も何とか狩ったと言うのに、当分コッケ鳥は食べたく無いかな…。
精神力強化の魔法を自分に掛けて居るのにそんな事を思ってしまう、僕が居たり居なかったり…。
続きが気になる方、応援をお願い致します。
評価や感想を、お聞かせ下さいませ。
誤字脱字の報告も合わせてお願い致します。




