15・エルの平凡な一日?
続きです。
宜しくお願い致します。
皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。
「エルッ、エルッ」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。
(…五月蝿いな…誰かが僕を呼んでいる…僕はすごく眠いのだけど…)
その声は僕を起こそうとしているみたい…でも僕は余りの眠たさのためにそのまま無視して、眠る事を優先させる。
「エルッ…エルッ起きて!」
しかし、いくら呼んでも起きないのならと、声の主は僕の身体を揺さぶって起こすという実力行使に踏み切った。
(…だから…僕は今は眠いの…)
だが、僕の眠気もそれくらいで目を覚ます程度の物では無い。昨日は色々と調べ物をしたりして疲れていて、まだ…眠…い…の。
「もう朝だよ」
目を覚まさない僕に対して、声の主も諦める事は無い。あの手この手で僕を起こそうとして、それこそ足の裏をくすぐったり、耳に息を吹き掛けたり、鼻を摘まんだりとやりたい放題になってしまっているが、本人はいたって真面目に僕を起こそうとしているとは思うげど…止めてー!
(…うーんもう少し寝かせて…)
そして遂に声の主は最終手段に訴える事にした。それは…?
「エルッ、朝御飯はいらないの?」
(…あ…さ…ご…は…ん…?)
「エルッ、良いの?起きないのならエルの朝御飯は僕が食べるよ」
(…朝御飯?御飯は食べたい…御飯…御飯は良いよね。貧しくていつも代わり映えしなくて薄味だけど、毎日何とか食べられるのだから…)
「エルが起きないのなら、僕が食べちゃうぞ!」
その言葉は禁句だよ。そんな事を言われると起きるしか無いよ。これを言った人は絶対に確信犯だよね!
「ごっ御飯!」
僕は微睡みから一瞬で目覚めた。この貧しい辺境では食べられるだけでもましな方なのに、その貴重な御飯を他人に食べられてしまうなんて…。
「エル、やっと起きた、良く寝ていたね!」
ベッドで眠る僕に半ば覆い被さる様に僕を見下ろしていたのは、僕のすぐ上の兄リスター兄様だった。
「リスター兄様、僕の御飯は?」
起き上がらなくて良かったよ、もし起き上がっていたら勢い良くリスター兄様と正面衝突していたかも知れないよね?朝から怪我をしなくて良かった…。
「ちぇっ、エルが起きそうに無いから、僕がエルの御飯を食べようかと思っていたのに」
普段は真面目で大人しいリスター兄様が悪い顔をしている…そんな顔も出来るんだ。新発見だね!
「おっ起きます。起きますから、僕の御飯を食べないで!」
僕に覆い被さる様に見下ろしているリスター兄様に、僕は悲しそうな表情で抗議をした。
「アハハハ、ごめんごめんエルの御飯を食べたりしないよ」
リスター兄様はそんな僕を子供をあやす様に軽く頬っぺたを叩いた。僕の家族って頬っぺたが好きなのかな?母様も姉様も兄様までも僕の頬っぺたを触りたがるげど何故なのかな?
そう思ったので自分の頬っぺたを触ってみた。いつもの触り慣れたお馴染みの感触。柔らかくプニプニしていて、引っ張れば伸びていって、掌や指に吸い付く?…毎日顔を洗う時に触るくらいだったので余り気にした事は無かったけど…気持ちいい、癖になるかも…?
…何とか起きられたので、僕の朝御飯は僕が美味しく頂きました。
そう言えば昨日はウリケルさんの秘密の場所って言えば良いのかな?仮想現実世界ってウリケルさんは言っていたけど良く解らないや。ウリケルさんの秘密の場所のウリケルさんの家の書斎で、開墾作業や畑仕事の事やそれらの仕事に役立ちそうな魔法を調べてみた。
色々と覚える必要が有る事が沢山有ったけど、必要な内容は脳内ホルダーに保存しているから、必要な時にはすぐに調べる事が出来る筈?
脳内ホルダーって言うのは普通では覚えられない事でも、覚えられる便利な魔法?スキル?なんだ!ウリケルさんの話だと、農業、鍛冶、大工、木工、算術とか色々な本や、職人さんから聞いたアドバイスや口伝とかを忘れない様に保存出来るんだって…便利だし凄いよね!
ウリケルさんの知識や経験の全てを初めから僕の脳内ホルダーに保存しておいてくれたら楽なのにそれは駄目なんだって。自分で苦労をして調べたり経験する事も必要だし、何よりも人には見せられないとか見られたく無い、知識や経験も有るからだって?エルも大きく成ったら解るよって言われたけど、今の僕には今一解らなかったからそう言うものなのかなって思う事にした。
だから僕がウリケルさんから受け継いだ知識や経験の殆どは必要になるその時までは、ロックされている。…でも僕がロックって何って思っていたら、鍵を掛ける事だよって言われた。
鍵って言われてもウリケルさんから引き継いだ知識では知っているけれど、実物は見た事は無い。だってこんなど辺境のど田舎に盗賊とか泥棒とかって居ないから、そもそも領主の館ですら鍵を掛ける習慣は無いし、領民の家にも当然鍵なんて付いて無いのだけど…。
昨日は開墾作業や畑仕事の事を沢山調べたので、開墾作業や畑仕事に関するウリケルさんの知識や経験の一部は見られる様にはなったから収穫は沢山有ったから別に良いのだけどね。
昨日は外出禁止って父様から言われていたけど、今日は特に何も言われなかったのでいつも通り畑でお手伝いをするのだけど、久々に会った同年代の子達は僕に興味津々みたい。
「おはようございます」
いつもの様に僕が遅れてみんなに合流して挨拶をしたのだけど…みんなから質問責めに会ってしまった。
「あー、エル君くんだー。おはようございます」
「エルくん、一杯お休みしてたけど大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
「エルくん、元気になったの?」
「うん、元気になったよ」
「お腹痛かったの?」
「お腹も痛かったかも?」
「寝坊助さんしてたの?」
「寝てばっかりいたから、そうなるのかな?」
「お手伝いが嫌だったの?」
「それは無いよ、みんなと楽しくお手伝いが出来るから僕はお手伝いが好きだよ!」
「うんち沢山出た?」
「あまり御飯を食べられなかったから、少ししか出なかった…」
何を言わせるの、恥ずかしいな!
そんな感じで久しぶりに会うみんなは、相変わらず容赦が無いよね…。病気で寝てたって一応は言い訳みたいに言ったけど、どこまで信じて貰えたのかは怪しいかな?まあ、それならそれで仕方が無いけどね。
「エルくん、こっちに来て」
「…うん、何?」
いつもみたいに畑の草抜きや新しく開墾した場所の石拾いをしていたら、一人の女の子から声を掛けられた。
自警団の団長の娘で僕の再従兄弟になる、ミレットちゃん五歳。茶色の肩に掛からないくらいの髪の毛と、緑色の瞳の元気な女の子。身長は僕よりも高く何かと僕を構ってくれる、小さな子達のリーダー的存在かな?
…って言うか僕は同年代の子達の中で一番小さいのだけどね…。
今のヴァルロッティー村の自警団の団長は、父様の従兄弟のグルトルさんが務めている。身長二メートルの筋骨逞しいいかにも武人って感じで、事実村では一番強いのだけどね。見た目は強面なのだけど、実際は優しくて力持ちのとても良いおじさんなんだけどね。
他にも父様の弟が平民になって従士となってヴァルロッティー家に仕えて居るし、もう一人父様の別の従兄弟も従士としてヴァルロッティー家に仕えている。それともう一人父様には弟が居たのだけれど、その人は辺境の他家の分家へと養子に出されたみたい。
…ミレットちゃん、ゴツいお父さんに似なくて美人のお母さんに似て本当に良かったね!そんなミレットちゃんの後を付いて行くと、同年代の子達が集まって居た。って言っても七人なんだけどね。
「エルくん遊ぼう」
病気明けの僕を気遣ってなのかお手伝いに飽きたからなのかは解らないけれど、いつもは真面目なミレットちゃんがそんな提案をして来た。
「うん、良いよ」
僕も久しぶりにみんなと会えてうれしかったので、断る理由なんかは当然無いよね。
「何しようか?」
「じゃあねぇ、何する七」
僕はウリケルさんから受け継いだ知識に有った、遊ぶ時に何をして遊ぶかを決める時にしていた順番決めを唐突に始めた。
「えー?エルくん何それ?」
ミレットちゃんが躊躇って居る間に、他の子達か順番を決めて行く。
僕が口真似で六って教えてあげる。それを見て気付いた子が「…何する…六?」って言ってくれた。
更に口真似で五、四、三、二って教えてあげる。
「何するなな…ご?」
「何する…よん?」
「さんっ」
「に」
って感じで子供達の遊びの中に、少しずつ数字とかを取り入れて行こうかと思って居る。他にも言葉を覚えるために尻取りとかも良いかも知れないし、お手伝いの中にも算数とかを取り入れたりも出来るよね。
結局この日のお手伝いは途中から僕達が遊び始めたのだけれど、怒られる事は無かった。僕が倒れてから暗く沈んだ領主家の雰囲気も良くなった事だし、大目に見て貰えたのかな?
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