11 目覚めたエル
続きです。
宜しくお願い致します。
ストックが無くなりました。
今月一杯忙しいので他作品含め更新出来るか微妙です。
「…お腹空いた、何か食べたい…」
約四十日も寝ていたって…凄いよね。でもその間食事抜きってどんな拷問なの?…師匠は鬼なのかな?師匠には言えないけどね。だってウリケルさんは僕の直ぐ隣に居るからね。
居るって言って良いのかな?向こう側が透けて見えるし、少しだけ浮いているし影も無いし…まあ、僕と初めて会った時から変わっていないって事だけど、僕はそんなウリケルさんと普通に話をしていたんだね。
「……」
「でも師匠、僕が寝ていた間に食事を摂らなくても良い様にしていたって言っても、約四十日も寝ていたって聞いてしまうと流石にお腹が空いてきました。どうかご飯を食べさせて下さい」
その間もお腹はグーグー鳴っている。出来るなら美味しい物を、お腹いっぱい食べたい。いや、美味しい物じゃ無くても良いから、何か食べさせて…。
「……」
「ありがとうございます、師匠。尊敬しています!」
師匠の許可も出たから、館に何か食べ物を探しに行こうと思って居たのだけれど…。
「ガチャーン」
僕がベッドから立ち上がろうとすると何かが割れる音がした。音がした方、部屋の入り口を見ると母様が立っていた。僕は約四十日寝ていたけれど、その間の記憶は無いからそんなに長い間母様と合っていない気はしないけれど、母様は違った。
僕を見て目を大きく開いて驚いている。そしてその目には涙が溢れ、そして一筋流れた。そしてそれを追う様に富め止めど無く流れ出した。
「エルッ、私のエルシード」
母様は僕に駆け寄ると抱き締めてくれた。力一杯だけど、柔らかく優しい抱擁。僕の頬っぺたを母様の頬っぺたが頬擦りで、何度も往復して潰されるけど全然嫌じゃ無い。僕が寝ていた間に母様はとても心配していたんだと思ったからだ。だって母様の顔が少し痩せているし肌と髪の毛も元気が無い、とても母様には言えないけど少し歳を取ったみたいにみえたからだ。
「目を覚ましてくれた、良かった、良かった……」
「…母様…」
それに涙も頬っぺたに沢山かかるけど、それも我慢出きるよ。だって僕は母様にこんなにも愛されているからね。
「母様、凄い音がしたけど大丈…夫……?!」
部屋の入り口からもう一人、別のの声が聞こえた。母様に抱きつかれているのでそちらを見る事は出来ないが、それでも聞き間違える筈が無い。それは姉様の声だ。
「エルッ」
母様とは反対側からも抱き締められた。そして反対側の頬っぺたも、姉様の頬っぺたに頬擦りでグニグニされている。これってヴァルロッティー家の伝統なのかな?それとも母様の実家の伝統?
「…姉様…」
姉様も少し痩せたかな?何時もだったら僕が食べきれなくて残しそうになると、一緒に食べてくれるのだけれど…でも泣いて喜んでくれているから物凄く心配させたんだろうね。
「母様、姉様何で僕はこんな所で寝かされて居たの?」
僕は一応何が有ったのか知らないふりをした。だって僕に起きた事は普通では有り得ない事だったので、その事を素直に話してしまうと僕は頭の残念な子って思われるか、夢と現実の区別の付かない子って思われるからだって師匠が言っていたからだった。
結果的には母様と姉様も、僕がお手伝い中に倒れたとしか知らなかったみたいだけど…。
「母様、姉様たくさん心配かけてごめんなさい」
それから母様と姉様が泣き止むまで時間が掛かったのは解るけど、どのくらいなのかな?木窓から射し込む陽射しは無くなり、木窓の外は暗くなっていたから、結構時間が経ったんだろうね。
「グー!」
僕のお腹が鳴ってしまった。緊張感が無いけど、仕方が無いよね。だって約四十日間も何も食べていなかったんだからね。お腹がペコペコだよ。
「あらっ、エルのお腹の虫かしら?」
「はい、お腹が物凄く減っています」
「グー!」
僕と母様が話していると、可愛らしい音が鳴った。姉様の顔が真っ赤だから犯人は姉様みたいだ。
「母様…私もエルの元気な姿を見たら安心して、お腹が空いたみたい…です」
「もう、仕方が無いわね。夕食を食べたばかりだけど、もう一度食事にしましょ…う」
「ぐー」
「「……」」
ご飯の話をしていたらもう一回お腹の音がした。今回は僕でも無いし、姉様でも無い。
「安心したら、私も何だかお腹が空いて来たわ…」
母様は上品に口許に手を当てながら、ホホホって感じで笑いながら。自分が犯人だと告げてきた。
僕達は館の食堂でご飯にする事にした。だから食堂に来ているけど、家族全員が揃っている。グラード父様にドルベルグ兄様にエリクセン兄様にリスター兄様も居る。
僕達が食堂に入った時には誰も居なかったけれど、目覚めた僕を見たお手伝いのミケルナさんが、泣いてしまったので何事かと父様と兄様達が食堂に集まって来た。
「父様、母様、兄様、姉様、ミケルナさん心配をかけてごめんなさい。僕は何とか目覚めました?」
皆に心配をかけたから謝らないといけないよね。父様はホッとした表情を浮かべているから、父様にも心配をかけてしまったのだろう事は解った。ドルベルグ兄様とエリクセン兄様の表情は解らないけれど、リスター兄様は目に涙を浮かべているからとても心配をしたのだと思う。
けれど今はそれ処じゃ無いんだ。だって目の前には湯気を上げる麦粥と野菜スープが置かれているから、僕の心は食べ物に向いてしまっていた。
「それでエル、お前は…」
「グー」
「「「「「「「………」」」」」」」
父様が何か言おうとしたけど、また僕のお腹が鳴ってしまった。お腹の音が大きかったので、皆の顔が呆気に取られているし、皆に注目されて少し恥ずかしい…。
「父上の言葉を腹の音で遮るとは…」
「…ごめんなさい…」
ドルベルグ兄様が物凄く怒ってる…。ごめんなさい、でもお腹が空きすぎてもう限界です。
「ドルベルグ許してやれ、エルも悪気は無かったのだ、腹を空かせているのだから仕方がない。エル、もう我慢しなくて良いから食べなさい」
「父上っ!」
ドルベルグ兄様が何かを言いたそうだったけど、それを父様が首を振って止めさせた。兄様が父様に逆らう所を見たこと無いから大丈夫とは思うけど、兄様は何でか怒って居るよね?
「頂きます」
父様と兄様も気になるけど、でもそれは空腹には勝てない。僕は目の前の食べ物から目を離せないし、それ以外の事は今は知らないよ。
僕は木のスプーンで麦粥を掬って、ふーふーと冷ましてから口に入れた。麦の味しかしない麦粥だけど、約四十日ぶりの食事を僕は夢中になって食べた。
そんな僕の様子を見ていた母様と姉様も「「頂きます」」って言ってから自分達も食事を始めた。
そして野菜のスープも一口食べる。トロトロに煮込まれた野菜から甘味と旨味が溶け出した、優しい味わいだ。どちらの料理も柔らかくてあまり噛まなくても食べられる柔らかさだったから、気が付いた時には僕は全てを平らげていた。
ご飯の量は多すぎず少なすぎずかな、満腹にはなっていないけどお腹は満足しているからちょうど良かったのかも?
ご飯を食べたら何だが眠たくなって来たみたいで、瞼が自然と下りてくる。だけど、父様の話が有るから我慢していたけど、眠気は収まらない。抵抗すればするほど逆に眠気が増している気がするけど気のせいだよね?
「エル、疲れたのだろう?明日話を聞かせて貰うから、今日はもう寝なさい。」
「…は…い…お休み…なさい…」
僕は食堂の椅子に座ったまま寝てしまったみたいだった。
僕は眠ったと思う。何故思うかって言うと、僕が約四十日間も過ごした場所に居たからだ。
ここか何処なのかは僕には解らない。師匠のウリケルさんに聞いてもはっきりとは教えてはくれないけれど、教えて貰えたのはウリケルさんの秘密の隠れ家らしいって事くらいかな?
そう言えば結果から言うと、ウリケルさんはあの物語に出てくる賢者のウリケルさんだった。でも凄く昔の人でもう死んでしまったのだけど、思念体って言われる状態でこの世に存在しているそうだった。向こう側が透けて見えるけど、幽霊やお化けでは無いらしい。
僕はここで現実の世界の時間で約四十日間、師匠のウリケルさんに色々と教わっていたんだ。文字の読み書きから始まって、数字の計算方法、それに世の中の常識や色々な作法とか、素手での戦い方に武器を使った戦い方と狩りの仕方も、薬草の知識や医術も教わったし、建築や木工に鍛冶に製革に服飾や宝飾も習ったしそう言えば機械工学って言うのも有ったかな。それに料理も教わったよ。
一番肝心な魔法の知識や使い方に魔法に関するその他諸々、その他には子供には理解出来ない難しい事も教えて貰った。その中で一番難しかったのが、異世界の知識って言う不思議な物だった。
色々な知識は≪理の実≫を吸収した事で僕の魂の中にだうんろーど?されたみたいたけど、そのだうんろーどされた知識を僕の中にいんすとーるする作業が必要だったから、約四十日間かけていんすとーると、実際に使ってみるとらいあんどえらーとあっぷでーとを繰り返して、師匠との情報や知識の共有を行っていたんだ。
ウリケル師匠といると難しい言葉が沢山出てきて困っていたけど、それも今では慣れて来たかな?だってウリケルさんは見えるけど、実在しない人なんだ。そのウリケルさんの本体?が≪理の実≫で、それを吸収した僕はウリケルさんの知識を吸収した事になるので、ウリケルさんの言う事の意味が何と無く解る様にはなったんだ。
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