表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/47

1 田舎の日常

以前書いた物です。

最近投稿出来ていないので、保存していた作品整理と執筆の時間稼ぎのために投稿しました。

読んで頂けると嬉しいです。

 田舎の朝は早い。


 太陽が顔を覗かせ、辺りが明るくなり始めると共に自然と皆が起き出す。身支度を整え朝食を摂り、各々の仕事場へと向かう。ある者は畑へ向かい農作業を行い、ある者は森の中へ分け入り小型の獣や野鳥などを狩り、ある者は小さな作業場へと向かい家具の製作や農具の製作等の生活に必要な物の製作や修理を行い更には狩り等で必要な弓や矢や槍等も製作する、またある者は食事の準備や洗濯等の家事、そして子守りを行う。


 それは、辺境のとある≪ど≫を付けても良い田舎の小さな村でもそれら生きるための活動は変わらずに営まれている。


 とある一軒のど田舎の家で、周りの他の家と比べて一回り大きく建てられ、家の周りを簡素だが石を積んだ壁で囲まれていた。しかしそんな一見他とは違う造りの家の住人でも、他の家と変わらず生きるための活動は営まれているので有る。


「エル、残さず食べなさいね」


「…モグモグモグ…」


 母親らしき女性が小さな男の子に声を掛ける。


 二十代中頃から後半だろうか顔立ちは整っていて十人中六~七人は美人と答えるだろうか、茶色い髪に茶色い瞳、髪の毛は一応手入れはされているのだろうが今は無造作に後ろで一つに束ねられている。肌の艶や張りも少し色褪せ、僅かに肌荒れの様な物も見受けられる。服装も簡素なスカートに上着で色合いが若干鮮やかである程度で、得に流行りや見た目に気を遣っていると言うよりはどちらかと言うと動き易さを重視した服装をしていた。


「エル、返事はどうしたの?」


 母親は男の子からの返事が無いので、男の子を見ながら問い掛ける。


「…モグモグモグ、ゴクン…はい、母様かあさま


 少し不満げな表情を浮かべる「エル」と母親から呼ばれた小さな男の子。


 光の当たり方によって白髪にも見える白銀色の髪の毛に、肌も真っ白で畑仕事の手伝いで日中は外に居る事が信じられないくらいに日に焼けた様子も見られない。大きな瞳は見る角度により色が変わって見え、不思議な光彩を放っている様に見える。口も小さく食事を摂る一口一口も小さく、それでも小さな口を一生懸命に動かして食事を進めている。パッと見女の子にも見えるが、れっきとした男の子で有る。女の子か人形の様な見た目に反して思っている事が表情に現れ易いのか、コロコロと表情が変わるのでその可愛さも相まって見ていて飽きない。


「物を食べながらお喋りをするのは行儀が悪い」と常日頃から両親や家事手伝いに来ている村のお婆さん達から言われているのでそれを守っているのに「返事は」とは、その事に対する不満が表情に現れている。しかし、食事の手を止める事は無くゆっくりと食べ進めて行く。


 それはそうだろう、ど田舎の小さな貧しい村と言えど食べられるだけでも有難い。ましてや食べ物を残すなど以ての他で有る。そんな事をしてしまって、ただでさえ少ない食事の量を減らされてしまっては目も当てられない。幼いながらも経験から食事の有り難さを身を持って知っている、そんな小さな男の子だった。


「母様は先に畑に行きますから、ご飯を食べ終わったらエルも畑のお手伝いをお願いね」


 母親は畑へ行くための準備をしながら、男の子に話し掛ける。ど田舎の農村では例え小さな子供と言えど、貴重な働き手になる。小さな子供に畑を耕したり力仕事等は無理でも、畑の石拾いに、草むしり、火を起すための薪拾い等小さな子供には子供なりに仕事を割り振られる。


 友達や兄弟と遊びたい盛りなのだが、生きるためには食べないといけないし、食べるためには食べ物を作るか採るか買って来るしなければならない。こんな辺境のど田舎に店は無く、ほぼ全ての物が自給自足でもし仮に必要な物が有れば村人同士なら物々交換で有る。


 年に数回行商人がやって来る事も有るが、この行商人も村で作った数少ない物産を現金化するための貴重な収入源で有るのだが、その現金で塩等この村では手に入れる事が出来ない生きるために必要な物を割高では有ると解っていても行商人から買う事しか出来ない。


 行商人以外から物を購入するとなると片道十日程離れた近くの村か、片道四~五十日程の距離に有る町まで買い出しに行かなくてはならない。その様な地理的な要因も有って行商人も滅多に来ないし、来てもほぼボッタクリ価格と解っていながらも買わなければならない。それでも、自分達が他の村や町まで買い出しに出かける手間と労力と経費を考えると、行商人から買う方が若干だが安いので有る。




「…モグモグモグ…はい、母様」


 お行儀が悪いと解っていても、返事をせざるを得ない。せざるを得ない状況を母親が作ってしまっている。


「エル、食べながらお話してはいけません、お行儀が悪いですよ」


 母親は笑顔で男の子に注意をする。物を食べている最中に返事をする様に仕向けたのは自分で、可愛い末っ子はそれにまんまと乗ってしまった。しかも、可愛い顔を不満げにしながらも、食事を続けているその表情の何と愛らしい事か。


「…モグモグモグ…」


 やっぱり注意された。この状況で話すなとは、話さざるを得ない様に持って行ったのは母様なのに…理不尽にも程が有る。


「…モグモグモグ…」


 注意されたので男の子はコクンと頷いた。だがやはり食事の手を止める事は無い。


「エルったらそんな困った顔も可愛いわね♡」


 母親はそんなしかめっ面の末っ子を、後ろから優しく抱き締める


「モグモグモグ…ゴクン、母様、食事の邪魔をしないで下さい」


 男の子は母親の愛情からの行動とは解っていながらも、大切な食事を邪魔されたのでやはり不満げな表情を浮かべている。


「もうっ、エルったら♡」


 可愛い末っ子をもっと構いたい。しかし、自分にも割り振られた仕事が有る。そんな事をほんの僅かな時間葛藤した母親は、男の子の頬に軽くキスをすると名残惜しそうに男の子を解放した。


「私はもう出ますので、後はお願いしますね」


「はい、奥様お任せ下さい」


 母親がそう言うと後ろに控えていた老婆が返事を返す。


「それでは行ってきますね」


「行ってらっしゃいませ、奥様」


「…モグモグモグ…」


 エルは食べ物を咀嚼していたので母親に手を振って答えた。母親だけでなくお手伝いのお婆さんからもお小言を言われるのは回避したかった。


 そう言うと母親は畑へと出掛けて行った。


「エル坊ちゃんも残さず食べて、今日も畑仕事を頑張って下さいね」


「モグモグモグ…うん…」


 エルは物心付いた時から家族総出での畑仕事をしていたので、家族とはそう言う物と思って疑問には思ってはいなかった。事実、他の村人達も子供が小さなうちから畑仕事や小さな子供でも出来る仕事を手伝っている。疑問に思う以前にこれが普通の事で当たり前の事と思い、たまに畑仕事が休みになった時に同年代の友達達と遊ぶ事が何よりの楽しみだった。


「今日のお手伝いが終わりましたら、少しお勉強をしましょうね」


 嫌だなエルはそう思った。そこは大人の目を盗んで何かにつけて遊ぼうとするの活発な男の子、勉強よりも体を動かす事が大好きで椅子に座って大人しくしている事が何よりも嫌でまさに拷問である。少々体調が悪くても楽しむ事を優先するので、大人から見ると突然体調を崩して寝込んでしまう事もまま有る。体調が悪い時には流石に大人しくしているのだが、今はどこも悪いところは無いので遊びたいのだ。


 確かに貴族としての最低限の知識や礼儀作法は必要なのかも知れないのだが、兄達の話によると自分は貧乏貴族家の四男なので家を継ぐ事は出来ない。将来は平民となり家臣や従士として兄達へ仕えるか、家を出て功績を立てて新しく家を興すか、これも平民とはなるがこのまま家に残り離れた場所を開拓して新たに村を興し分家となり村長として村を治めるか、など選択肢は色々と有るみたいなのだがなんの事かさっぱり解らない。


 解っている事は、大きくなるとこの家から出て行かなければいけないと言う事だけだ。だからこそ知識や礼儀作法が必要になって来るのだが…。遊びたい盛りの幼い子供にその事を理解させるのは難しいだろう。


 畑仕事と勉強とどちらが好きかと問われればどちらも嫌いだと言いきれる、でもどちらか一つを選べと言われるとまだ畑仕事の方が半分は仕事で半分は遊びの要素も有るのでまだどちらかと言われれば畑仕事の方が良いかな?


 勉強の事を考えると、今日は一日中お外で畑の手伝いをしていたいと思うエルで有った。

続きが気になる方、応援をお願い致します。

評価や感想を、お聞かせ下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ