とある戦争孤児物語2
俺の家族は都内で医者を営む家族だった。
家にはテレビ等の高級品の家電などがあり、
一人息子だった俺は特に甘やかされて育った。
その為1941年に第一次学童疎開が始まると、すぐに群馬のおじの所に縁故疎開をすることとなったんだ。
父の自動車で群馬の山の中にある、おじが住む村に連れて行かれることとなった。
俺は車の中でずっと泣いていた。
寂しさとこれから行くとこが不安で‥
父は泣き叫ぶ俺の一言、一言に「大丈夫だから」とか「すぐ帰れるよ」とか優しく返してくれた。
泣き叫び疲れた頃、3時間くらい経った後かな、山の中の道が細くなり、ほぼ行き止まりの所で車が停まった。
山の中から男が出てくる
父はその男に「頼んだ」そう言い
俺には「戦争が終わったらすぐ迎えに来るからな おじさんのとこで元気で過ごしなさい」
「待って父上、僕も帰るよ」
そう言うと父は瞳に涙を浮かべた。
でも、何も言わず自動車に乗り帰っていってしまった。
おじは俺とは目も合わせず森の中に入っていった。
俺は取り残されると思い、必死でおじについて行った。
30分以上歩いた頃に村が見えてきた。
今まで過ごしてきた都会とは明らかに雰囲気が違った。
のどかなだから田園風景なのか?
閉鎖的な村だからなのか?
いや、人間が違う。
都会では知らない人は基本的に無関心だが、
この村の人々はみんなが俺の事を見ていた。
俺の事を疑いの目で‥
おじはその視線の意味が分かっているのか不安な俺を気に掛ける様子もなく
村のメインストリートの細い砂利道を歩き、
村の外れのボロボロの家に入った。
俺も恐る恐る入った。
古い日本家屋に初めて入った。
玄関には3つも蜘蛛の巣があり、
蛾が薄暗い部屋を飛び回っている。
虫が嫌いな俺はこんなとこに住むなんて信じられないと思った。
ただ、木と畳の匂いだけは少し俺の不安を取り払ってくれるような気がした。
家の中にはまだ昼間なのに布団に入っている病弱そうなおばと横にちょこんと座っている俺と同じくらいの年齢の男の子がいた
おばは俺に
「よく来たわね よろしくね」
消えかけの電球が連想させるのか、薄暗い部屋が連想させるのか、おばは消えてしまいそうな存在感のない笑顔で話しかけた。
隣の男の子は対照的にニカッっと明るい笑顔を俺に向けてきた。
「和樹、二人で遊んで来なさい」
初めておじが口を開くと
男の子は俺の手を引っ張り外に連れ出した。
「和樹って言うんだね俺は吉生よろしく」
そう言うと
「和樹!」
ニカッてして返してきた。
この子も今まで会ってきた子と違うんだと感じた。
でも、俺には全く悪い感じはしなかった。
二人で山の探索とかして遊んでいると社のようなものが見えてきた。
幽霊なんて信じてなかった俺だが、この社には何故か恐怖を感じた。
和樹は俺の方を見て横を首に振ると来た道を引き返していった。
家に帰ると声を荒げたおじとおばが話をしていた
「和樹だけでも大変なのにもう一人なんてどうすんのさ」
「困った時に助けるのは当然でしょう」
おばの薄い存在感から放たれる言葉は逆にかなり強い言葉に感じた。
「ただでさえ、和樹の事で村八分を受けてるんだぞ、さらによそ者が来るなんてどうなるか」
(この時は発達障害が世間的に知られておらず、今以上に変人扱いであった)
「大丈夫よ。 私も村の人間なんだからそのうち受け入れてくれる」
その言葉がおばの最後の言葉だった。
翌朝、静かにおばは息を引き取った。
おじはおばの亡骸の前で亡骸のようにずっと座っていた。
俺はおばの事は数分しか知らないが、とても素晴らしい方に感じ、長い間手を合わせていた。
俺には村八分と言う言葉が分からなかった。
だが、直ぐにその言葉の怖さを知ることとなる。
村には一つ学校があるのだがそこに初登校した時の事だ。
学校で和樹に対して壮絶ないじめが行われる。
殴る蹴るは当たり前。
水をぶっかけたり、
抑えつけて濡れた布を顔にかぶせたり拷問まがいな事を始める。
「うぐぅ うぐぅ」
和樹は苦しそうに悶ている。
先生も村の人間見て見ぬふりどころか爆笑している先生すらいる。
「気持ち悪いんだよー」
「言葉分かるかなー?」
「ははは‥ なんで生きてるの?」
俺ですら耳を疑うような言葉ばかりであった。
俺は良い家で育った為、栄養状態も良く同級生の中でもふた周りくらい大きかった
直ぐに和樹を虐めてた奴らをこらしめた。
しかしそれが間違いだったのだ。
学校が、終わり家へ帰るとこらしめた奴らとその親が家に来ており、おじが土下座をさせられている。
そして、中に入ろうとしている親をおじが必死で泣きながら止めている。
「やめて下さい お願いだからやめて下さい‥」
俺は目の前が真っ暗になった。
大人が子供のように泣き叫ぶのも初めてだし、
初めての上下関係に恐怖を覚えた。
喧嘩などの力の強さじゃない。
数の力に‥
倫理感、罪悪感を決めているのは環境なんだと‥
いじめっ子の親の一人が家に強引に入り込むと直ぐに仲間を呼んだ。
おじは膝から崩れ落ち、絶望していた。
またしても信じられない光景が目の前に
村の連中がおばの遺体を持ち出し、山の中に入っていってしまった。
さらに、親玉的存在のやつが金をおじの前にばら撒くと
俺の方に来て
俺の腕を取り引きずられた。
大人の男の力には逆らえなかった。
村の中を引きずられるのを村のみんな見ている。
心配そうな顔をしているのかと思ったが
村の連中は安心している顔をしていた。
そいつの家らしいところの馬小屋に入れられると外から鍵を閉められた。
俺は理解した。
俺はあんな小銭で奴隷として買われたのだと。
村には味方などいないんだと‥
獣臭い馬小屋で
毎朝日が昇る前に起こされ
働かされる。
ろくな飯も与えられず。
学校へ行くことも許されず。
与えられる飯は鍋底の焦げ付いた白米など正しく残飯と呼べるものだった。
それだけでは足りず、馬が食べている穀物や牧草もこっそり食べた。
夜は馬と同じ藁の「布団」で寝る。
和樹は毎日俺のとこに来るが村の連中から気を失うまで暴力を受ける。
あるときは鎖で殴られ。
あるときは小便をかけられていた。
地獄とは死後の世界じゃなく人間の世界にあるのだと思った。
自分が強いんだと誇示し、存在を証明するために弱いものを徹底的にいじめるのだと。
このような生活が続き俺の体は骨と皮だけになって来た。
特に冬は何度も死んだかと思った。
体を暖める筋肉や熱を逃さない脂肪が無く、震える事も出来ず、馬に寄り添い体温を維持していた。
寒いを超えると痛くなり、痛いが、熱いになり、感覚が無くなる。
それでも朝になると働かされる。
栄養不足からあばら骨はすべての本数目視出来る。
逆に骨盤の上、下っ腹の辺りは何故か膨らんできていた。
意識が朦朧としながら毎日働かされ、
このままでは死ぬと本能的に思った。
暖かくなった春先。
長い間一緒に住んできた馬だったが、
死なないためには仕方がなかった。
俺は申し訳ない気持ちで
泣きながら馬小屋内の農作業用の鍬を手に取り。
自分の命の恩人の馬を鍬で首を思い切り刺し、殺した。
せめて楽に死んでほしかった。
「ボヒッ」
馬の断末魔が闇夜に響く。
俺はできるだけ早く栄養を取れるように馬の足の革をかじり取り、必死でそこから馬の筋肉をもさぼった。
馬の肉の味、馬の血の味、涙の味
体中に生気が行き渡るのを感じた。
今までの殆ど動かせなかった手足の指先が動く。
だが、直ぐにいじめっ子の親は駆けつけてきた
ここで捕まったら殺されると思い、
鍬を投げ、親玉が怯んでる隙に逃げた。
馬の栄養が尽きる前にとおくに行かなきゃと思い必死に走った。
隣村の農作物を盗み食べ
隣町の商品を盗み食べ
野草や虫を食べ
なんとか東京の父上と母上のもとへ帰りたいと思い必死で東に走った。
数十キロ、ほぼまる一日走ったところで
焦臭く開けた土地に出た。
そこがどこなのか気付くのに時間がかかった。
しかし、離れたとこに海があるのか見え、そこが東京なのだと悟った。
東京は大空襲で焼け野原になっていたのだ。
家の鬼塚医院があっただろう場所は完全に瓦礫と炭と化してた。
父上なのか母上なのかもしくは他人なのか、人なのかすら分からない物体が瓦礫の中に埋まっている。
俺は完全にこの世で一人の存在になってしまった。
あてもなく焼け野原を彷徨っていると
上野駅付近に自分と同じ様な境遇の奴らを沢山見つけた。
殆どの子が、動けなく、死んでるのかもわからないような子ばかりであった。
一つ通りを隔てた場所では闇市で人が、賑わっていた。
命の恩人の馬のを殺し、食べ、必死で生きつないだ俺にとって、
ここでこいつらと同じように死を待つだけに生きるのは違うのだと思った。
俺は動けなく、死を待つ自分と同じくらい、
もしくは年下の奴らに背を向け闇市に向った。
上野駅の闇市ではヤクザと在日外国人の抗争が激しかった。
俺は抗争の隙間を縫って盗みをしながらなんとか生き延びていった。
俺と同じ様な奴らもいて、俺らはチームを組み俺らは愚連隊と名乗ることにした。
次第にテキ屋などで金も得ることが出来てきた俺らは
ヤクザの下部組織になり、上野の平定に一役かった。
ヤクザとしての俺らの仕事は駅にいる身寄りのない
子供に飯を与え地方に斡旋するというものだった。
聞こえはいいが、俺はそれが奴隷として人売だと分かっていた。
俺も同じような状況だったからだ。
でも、俺にはもう罪悪感なんてなかった。
いや、罪悪感はあったかもしれないが、
これが社会なのだと悟り、
生きるためには仕方がないことだと割り切っていた。
そして上野駅のから孤児がいなくなると仕事がなくなり金が入らなくなると思った
俺は愚連隊の仲間を食わせていくため、
ある事を思いついた。
消えても分からない人間‥
足がつかない人間‥
そうだ俺を苦しめた奴ら
閉鎖的な村の人間を攫って売ればよいのだと。
俺は組長に嘆願し、若頭含め人数を連れて群馬の山奥へ向った。
明け方に到着する。
奇しくもその時村には女、子供しかいなかった為、直ぐに制圧は完了した。
そこにおじや和樹の姿は無かった。
怯えきった和樹をいじめてたの奴に
和樹がされたように濡れた布を顔にかぶせ拷問をした。
「ごぎぼぼぼ」
苦しむ姿に同情も、復讐の爽快感も無く、無で拷問を続けた。
「和樹はどこだ」
いじめっ子は直ぐに小便を漏らした。
「も、森の中の社です ゆ、許してください」
怯えきった顔に怒りを感じ、
俺はこいつの顔を蹴り上げたら気を失ってしまった。
俺たちは女子供を縛りあげトラックの荷台に乗せて社へ向かった。
社では儀式が行われていた。
燃えたぎる火の海の中をおじが叫びながら歩いている。
皮膚は黒焦げてただれ、骨が見えていた。
「ぎゃぁぁぁああああ‥ぁ‥あ‥‥‥‥」
叫び声が止むとおじは火の海の中に倒れ元の形などわからないように消えていった。
次は和樹が火の海の中に押されてようとしている。
和樹は必死で抵抗している。
「流石にひでぇな」
隣で若頭がぼそっとボヤくと
ドン、ドンと2発拳銃を、撃った
和樹の隣の大人二人の眉間に正確に打ち込まれた。
発砲を合図にヤクザ達が儀式に乗り込むと、村の男達が血相を変えて襲ってきた。
まさに何かにとりつかれているような表情だった。
だが、戦いは一瞬だった。
ヤクザの若頭が念の為持ってきていたサブマシンガンで村の男達を一掃してしまった。
コマ送りのように人から血しぶきが吹き出していく。
俺たちはゆっくり和樹のもとへ向った。
生きている奴は他の組員が拳銃で殺していった。
和樹は俺に気付くと初めて会ったときのようにニカッと笑い「吉生」と言った。
その功績で俺らの愚連隊は大きくなり、人売りの大元であったカルアに呼び出されるまでになったというわけだ。
とらは口を開け唖然とした顔をしている。
「なっ 人に誇れるような過去なんてない。
俺は結局クズ人間なんだって」
とらは我に返るとスッと立ち上がる。
「行こうぜ兄弟。
相棒が待ってる」
この話は確かに創作だし、鬼吉なんて人物は存在しない。
だが、学校内でのいじめ、会社内のいじめと村八分。
集団でやれば罪が薄れる集団心理。
自分が直接手を出さなきゃ罪はない。
そう感じている人も少なくないのではないか?
筆者自身は小さいときいじめっ子であった。
そして幸運?な事にイジメられた事はない。
だが、陰口を耳にしたことはあった。
そこから罪の意識が生まれた。
この話を作るにあたって本を読んだり、サイトを見たり、様々な方のエピソードを調べていく中で
いじめはコミュニティ内で力を示すため人間が元来の人の性質自己顕示欲なんだと思った。
そして大部分がそれに気付かずにすごしているのだとも。
本当にあなたはいじめっ子ではないですか?
もし、いじめられているならそれを改善出来る事はありませんか?
逃げる事は恥ずかしいことじゃなく、生き延びる為に生き物が持っている素晴らしい技術です。
立ち向かう事は勇敢かもしれないですが多くの場合愚策です。
(逃げるといっても背中を向けたり縮こまったりすると相手の狩猟本能を擽ります)
大事なのはそうゆう人と会わないという事です。
もし、学校や会社にそうゆう人がいるなら家に閉じこもってもいいんです。
親や先生や上司が自分の事を見てみぬふりをするなら部屋から出なくてもいいんです。
パソコンとかゲームとか好きなものがあるならなおさらです。
ただ、何があってもいいように準備はしておきましょう。
家を追い出されても救ってくれる国の制度があるならいくつか調べたり。
虐待や暴力を受けるならもし裁判で勝てるように情報を集め証拠を集めたり。
ネットがあれば簡単に必要な情報は集まります。
準備はしておきましょう。
また、いじめる側
いじめは自分が強いんだと誇示するものではなく、むしろ自分の価値を下げます。
いじめる側はむしろ親からの何気ない教育、社会構造、人間の本能など、無意識に行われます。
金(学)を持ってるやつが偉い≒金(学)がないやつはクズだ
怪しいやつに近づくな≒異端者を孤立させろ
負けるな強くあれ≒弱いやつを倒せ
あなたもドキッとすることが多いのでは?
良かれと思った事が良くないことなど日常茶飯事なはず。
金がなくても弱い人でも人格的に素晴らしい人はたくさんいます。
新しいことに挑戦している人はみんな世間から見たら異端者≒怪しい人です。
あなたにとって何が重要か
何があなたの価値を高めるのかもう一度考えてみて下さい。
今一度あなたの胸に問いかけて頂きたい。