58・母達の体験談
「さて、修助はエレナがどこまでやらかしているか知っているだろうけど、お母さんがどこまでやらかしているかまでは知らないわよね?」
真琴はメタトロンにある個室のテーブルに腰掛けると、修助にそう訊ねる。彼の心と記憶の現状整理だ。
「ああ、母さんの事に関しては俺が生まれる前の話だから、知りようが無い」
「結構。まさか自分の息子にこんな話をする日が来るとは思わなかったわ」
「真琴、修助、二人で勝手に話を進めないでちょうだい。それに修助。まるで私がしてきた事を全て知っているような素振りを見せるじゃない」
エレナの言葉は図星だった。これは兄の遼平が書いた原作知識としか言いようがない。遼平と画面越しに会話した今なら、原作云々の話をしても信じてもらえるだろう。
「エレナ母さん。厳密には全て知っている訳じゃない。兄貴が書いた作品内で一部が抜粋されてるだけで、それ以上の事は原作には書かれていない。今夜辺り兄貴に聞けば教えてくれるかもしれない」
「そうね、私の失われた記憶も、もしかしたら取り戻せるかもしれない。それが不幸の始まりだとしても、犯した罪は受け入れるしかないの」
エレナはうつむきながらも、自分がしてきた事がどれだけあるのかにおびえている様子だった。真琴はそんな彼女を放っておいて、自身の経験談を修助に伝える。
「まぁそれは丑三つ時にゆっくり話しなさい。今は修助に人を殺してしまった時、どう向き合えばいいかを親として教えなければならない場面よ。まぁ子供が人殺し働いている時点で、ビンタの百発はぶっ叩かないといけないけど」
「わけありでも、母さんのそれを受け入れる。やるか?」
「まさか。今は時間が惜しい。ねぇ、修助は駅の火災を止める為にその原因を殺したけど、何か残ったのはあった?」
「感謝やお礼は駅員や救急隊員に言われたけど、残ったのは不快感だけだった。マンガやラノベは暴力に対して痛快な結末を約束する事が多い、けど、俺が味わったのはシンプルな不快感と、あの凄惨な現場に居たという恐怖感だけだった」
「そう。お母さんもね、修助みたいに友達を助ける為にやくざを相手に喧嘩ふっかけて、何人か死なせちゃったの。友達は怖がって離れていって、逆にやくざが復讐の為に沢山やってきて、お母さんは必死に逃げたり戦ったりした。修助と同じ、感じたものは不快感と恐怖感だけだった。だからね、修助」
そう言って真琴は向かいに座る修助の手を握る。
「その不快感と恐怖感を、忘れないでほしいの。確かに暴力は物事を楽に解決出来るわ。それに今は揺りかごの保護もあって、物事の解決法の選択肢としての暴力が現実味を帯びている。でも、それだけだといつか心が壊れて、傷つける必要のない人まで傷つける人間になってしまうわ。私たちは修助にそう言う人間になってほしくないの」
言うと真琴はエレナにも顔を向ける。彼女にとってみても、エレナは修助の母親なのだ。だから暴力の不快感に心を壊してしまう事を心配している。
母親達の願い、それを感じ取った修助は小指を出す。
「解った。そうならないように、子供の頃以来の指切りをやろう」
「指切り?」
エレナが首をひねる。指切りの意味が解っていないのだろう。
修助は指切りの意味を説明すると、三人で小指を絡めて、子供のような声を出して、母親の願いを裏切らないよう約束する。
「ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」
こんばんは、水です。
修助はやらなければならない使命感とやってしまった事の罪悪感の間で揺れ動く中、二人の母はそれを克服する為のきっかけを修助に話します。
今回は短めの内容となってしまいましたが、次回からいつも道理の文字数になると思います。よろしくお願いします。
それとこれが今年最後の更新となります。皆様今年一年色々あったと思います。なろうで面白い作品に出合えたり、何か良いことがあったかもしれません。そんなゆるい感じで来年度もよろしくお願いします。
それではまた来年、よいお年を。




