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57・無自覚な殺戮と後悔

 興奮して周りが見えなくなっていた修助を我にかえしたのは、未だ轟音を立てて燃え続ける駅の音と、自分の右手に掴んでいた、歩実の取り巻きのギャルの頭。


 髪の毛を乱暴に掴むように持っていたそれを、情けない悲鳴を上げながら投げ捨て、自分がした事を思いだし腰を抜かしてしまう。


「お、俺がやったのか? こいつらの首、全部……」


 辺りに転がっている首の無い遺体。それらは全て修助が怒りに身を任せて引っこ抜いたものだった。だが人殺しはおろか、人に危害を加えた経験すら禄に無い修助からすれば、その光景は顔面が蒼白になるほどの恐怖感をもたらした。


 元々自分が企てた歩実をおびき出す作戦。それがこうした惨劇を引き起こし、止める為に怒りに身を任せた。しかしやるにしたってここまでする必要はあるのかと言う疑問があった。もう少し待てば一達がやってきて丸く納めてくれるのに、修助は自分が押さえきれず、原作で読んだ歩実の傍若無人さに苛立っていたのも手伝って、一暴れしてしまった。言い逃れなど出来やしない。


 そんな激しい自責の念に囚われている修助に、双葉からの通信が入る。


『今一達を送ろうと思っていたんだけど、あの煙じゃ逆に死んじゃうから、対策会議を行っていたところだったけど。その必要は無かったみたいね。修助、後は消防士に任せて、メタトロンでゆっくり休んで』


「ああ、あぁ、解った」


 不安が拭えないまま、一方的に双葉の言葉に返事をする修助。確かに殺したいほど憎くはあったが、本当に自分の手で殺してしまったというのは、想像した以上に心が恐怖心で染め上げられていく。


 この殺人は揺りかごがもみ消してくれるだろう。何せ執行者の下っ端になってしまった歩実が、その装備を持ち出して仲間と共に気に入らない駅広告を駅員や駅、さらに彼女達を止める為に拳銃まで抜いた警察官や、消火活動にやってきた消防隊員ごと燃やしているのだ。


 揺りかごもただ異能を持つ少女を助け、支援する団体ではない。警察を始めとした公安から見逃してもらうようにごますりをして行かなければ、警察に阻まれて助けられる少女も助けられなくなってしまう。


 そう言う記憶を修助は必死に掘り起こして、殺人の記憶を上書きしようと試みるが、首を明後日の方向に向けた時の感触、そしてその首をそのまま引き抜いた時に浴びた返り血。その生々しい痕跡が、忘れさせまいと必死に修助の記憶にこびりついてくる。


「修助君!」


 そこへ少し離れた場所で隠れていた雪江が、様子のおかしい修助に声をかける。彼にここまでの凶行を行わせておきながら、傷ついた修助に寄り添おうとする精神は、端から見ると異常者のそれに見えなくもない。


 だがこの事態を解決するには、何をしても死なない修助が必要だった。雪江もこれは必要悪だと考え、狂っていると解っていて異能を行使したのだった。


 今の雪江の願いは、自分が異能を行使した瞬間を、揺りかごが観察していない事。一応異能を用いて筋書きを描く際に揺りかごのあらゆるシステムに引っかからないように都合のいい事を書いてやり過ごしていたが、一抹の不安までは取り除けない。


 読者受けの悪い展開になってしまったと、雪江は前世の栄光を思い出すようなため息を吐くと、修助の手をつないで、共にメタトロンへと向かった。


・・・


 メタトロン艦橋内では、現在戻ってきた修助と雪江に事情を聞いていた。


 一は、人を殴った経験のない親友の修助があそこまでの殺人を働くのは疑問に思っており、その事を話すと、雪江の心臓が跳ね上がり、押さえようとしても押さえられない冷や汗があふれ出てくる。


「そうよねぇ、確かに修助は学校にいる女子のスリーサイズ全員分知っているけど、殴るどころかさわる事もしないはずなのに」


 畳みかけるように結花が話すと、皆が一斉に修助を見る。雪江はこのままでは怪しまれると思い、皆に倣うように修助を見つめた。


 その修助はというと、突然沸いてきた怒りに我を忘れて豹変したとしか言えないと、言い訳にしては内容が薄すぎる回答を皆に出す。


 だが実際にメタトロンの衛星で撮られた映像を見てみると、普段は優しい顔立ちの修助が豹変したかのように怒り、歩実を始めとした取り巻きの女子生徒を殺害するシーンが映し出されていた。


 本当に我を忘れていたようで、どうしてそのようになったのか修助自身も覚えていない。あり得そうな事としては、無抵抗だろうと関係なく焼き殺して回っていた歩実達に、今まで胸に秘めて来た怒りを解放してしまった結果だという説が濃厚になる。


「まぁどのみち、修助が居なかったらもっと大変な事になっていたのは明白。気分は良くないかもしれないけど、よくやったわ。ありがとう、修助」


 もうこれ以上修助を責めるような議論は無駄だと判断し、双葉は手を叩いて解散した。揺りかごにとって見れば、懸念が一つ減ったぐらいにしか感じないのだろう。


 だが、修助自身からすれば、人を殺してしまった事がこんなにも心に負担のかかる行為なのかと相変わらず自責の念に囚われていた。


「修助」


 そんな時、真琴が修助の右手を握りながら名前を呼ぶ。


「お母さんが初めて人を殺した時の事、話してあげようか。そこからどうやって今みたいに振る舞っているか、参考程度に」


 傍から見ればそれは、親が働いた犯罪行為を子供に指導するような事にしか見えなかった。だが前世での経験が生きるのであれば、それで息子の心が救われるのであれば、真琴は喜んで自分の経験を語る覚悟を固めていた。


「私も、執行者に居た頃、どれだけの事をしてきたか、双葉さんに教わったから、どうすれば修助が怖くなくなるか、協力できると思う」


 同じ母親として見捨てられないのか、エレナも修助の左手を握り、自身の経験を語る事で修助の傷を和らげようとしたのが伺えた。修助は居心地の悪い感情を覚えるが、結局は二人の母親に甘える形で双葉から個室の使用許可を得て、艦橋から去っていった。


 その後ろ姿を見守っていた圭一郎は、誰かを守る事は誰かを傷つける事になる事を教わるんだろうなと思いながら、黙ってテレポート装置へと立ち、自宅へと向かうように頼んだ。


 男同士で話すのは、母親の体験談を聞いてから遅くはないだろう。圭一郎はそう思いながら、テレポートによって体が消失していった。

こんばんは、水です。


ラノベでよくある主人公が無双する展開となりましたが、修助はいざその立場に立たされると、人の命をこの手で奪ってしまったという恐怖と後悔の不快感だけが残りました。暴力はいつも痛快な結末をもたらすわけではないのです。


そして雪江も、自分が望んでいる結末とは違う方向にゆがみ始めている事に気づきますが、自分の異能が、たとえ恋人である修助であっても秘密にしなければならない事がプレッシャーとなり、だんだんと修正が効かなくなってきている事に気づき始めます。


今後は雪江が少しずつおかしくなっていく展開になります。その瞬間を迎えた時、この作品は終わりへと向かっていきます。読んでくださっている皆様、どうぞ最後までよろしくお願いします。


それではまた来週、よい夢を。

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