56・クズのあぶり出し作戦Ⅱ
『修助! 聞こえる!?』
放課後、雪江と歩いて帰っていると、突然スマートフォンに着信が入り、応答するや否修助が声を出す前に双葉が話しかけてくる。
「どうしたそんなに慌てて」
『歩実が顔を出した! 修助の見立て通りよ!』
「そらそんなに慌てるわな」
自分が考えたアイデアがこんなにも都合良く上手く行くと、かえって気味が悪く感じる。
それでも上手く行ったのなら御の字。後はもう一度永遠に眠ってもらうだけだ。
だが事態は修助が想像しているよりも最悪な方向へ進んでいる事に気づかされる。
『でも駅の被害が甚大だわ。既に揺りかごの人材を派遣して沈静化を図っているけど、歩実の奴、仲間とつるんで駅広告を駅ごと丸焼きにしているの。駅は今大火事になってて、電車も止まってる』
「燃やしてんのか!? 一体どうなってんだ!?」
『おそらく歩実が火炎放射器を持ち出して皆で分けているんでしょ。止めに入った警察官は拳銃で威嚇したけど、発砲前に燃やされて、一般市民や消防隊員にも被害が及んでいる』
歩実とその友人達が暴れた事により、罪のない市民や駅を守ろうとした警察官や消防隊員が犠牲になったと知らされる。
こうすればすぐにノコノコやってくると軽い気持ちで考えた作戦が、成果に見合わない犠牲を出す事になるとは思わず、もっと歩実の心理を理解していれば、こんな犠牲を払わずに済んだと修助は悔やむ。
そんな心中を電話越しで察したのか、双葉は渇を入れると、すぐ現場に行くように指示を出して通話を切った。
「悪い雪江。今の通話で言った通り、駅が大変な事になってる。向かわないと」
「それ、僕も着いていって良い?」
突然の雪江の申し出に、修助は慌てて首を振る。
「ダメだ、誰彼かまわず着火する連中の中に雪江を連れていけない。俺は服が燃えて全裸になるだけだけど、雪江はそうも行かないだろ?」
「それでも、確かめたい事があるんだ」
すがるような目つきで修助を見つめる雪江。歩実の友人によって、遊びで歩道橋から突き落とされ腕と足の骨を折られた彼女が、一体何を考えてそんな申し出をしたのか、修助には解らなかった。
ただ一つ解るのは、どんなに止めても彼女は着いてくる。それだけだった。
あきらめた修助は絶対に自分のそばを離れない事を条件に着いてくる事を許可する。
「その目はダメって言っても着いて来る目だな。仕方ない。俺のそばを絶対に離れるなよ」
・・・
問題の駅に到着するなり、修助は燃やされた市民の遺体に気づかずつまづいてしまう。事態はそこまでひどい状況に追い立てられていた。
「酷い……」
雪江もハンカチで鼻を覆いながら、周囲を見回す。酷い以外の言葉が見あたらないほど、あたりはめちゃくちゃになっていた。
駅広告だけでなく、駅そのものが大火に見舞われ、それを楽しそうに笑う歩実とその友人達。
「ウラウラ! こんな広告打ちやがって! 空気読まないオタクは撲滅だぁぁっ!」
元気に声を張り上げながら、火炎放射器の引き金を引くのは、頭部が半分機械化されている、執行者のメカニカルな戦闘スーツに身を包んだ歩実だった。彼女は歩きながら広告を燃やした後、止めに入る消防隊員や逃げまどう人々を次々とその火炎放射器で燃やしていく。
まるで庭の雑草狩りの感覚で、人の命を燃やしていく。その痛みが彼女には解らないのだ。
歩実の友人達も、自分の出した炎に巻き込まれないようにする為か、歩実と同じメカニカルな戦闘スーツに身を包んで暴れている。修助の記憶の中では、あのスーツには様々な機能が内蔵されており、火災の中でも歩けるのは、スーツが酸素を供給し、炎も防いでくれる優れ物だからだと、原作の設定を思い出しながら渦中へと進んでいく。
他人のあらゆる痛みが楽しくてしょうがない歩実に、ついに修助の堪忍袋の尾が切れたのだ。一緒に連れてきた雪江の事も忘れ、あの連中をぶちのめす為に、一人歩いていく。
「お、棗 修助じゃねーか! こないだはありがとよ! 良い研究データに加えて金までくれて、なんだか申し訳がねえ気分だ」
これっぽっちも申し訳なさを感じない態度で、歩実は言いながら火炎放射器の先端を修助に向ける。
「次は駅前で裸踊りでもやってもらおうかい!」
「裸で踊るのはてめーだ!」
修助は燃えている消防隊員の遺体の側に落ちていたホースを拾うと、その先端の金属部分で思い切り歩実の頭部めがけて振りかぶる。
しかし歩実は喧嘩慣れした筋金入りの不良。ラノベを読みふけて頭の中でキャラクターが戦っているのを想像した事しかない修助の単純な振りかぶりは簡単によけられてしまう。
「やめとけって、慣れない事はするもんじゃないよオタク」
「うるせぇ黙れ!」
なおも怒り任せにホースを振り回す修助だが、一向に当たる気配がない。気配を消して遠くから眺めていた雪江は、このままでは埒があかないと考え、心の中で修助に謝ると、彼らの視界の届かない場所へ身を潜め、自身の異能を、修助や双葉に絶対に知られてはならない秘密を発動させる。
「世界執筆。全ての戦闘用処理装置の機能を停止するように……」
雪江はぶつぶつと独り言をつぶやきながら、異能によって生み出された原稿用紙と鉛筆を使い、修助がこの場を丸く収めるように展開を書き換える。
人を直接操る事は出来ないが、その人がどんな末路を送るかを小説のように書くことにより、それが現実の物になる異能。その効果を知ったのはつい最近の事、直接人物の名前を書いて自分に関心を無くすように書いたにも関わらず効果が現れなかった時からだ。
自分でもいまいち効果があやふやで解っていない異能だったが、解っている範囲でやれる事をする。今のこの状況は、彼女が求める理想の”終わり”ではない。意志を持ってしまった登場人物に対して、加筆修正を加える必要があった。
(これで修助君の攻撃が当たって、その衝撃で頭の精密部品が壊れる。修助君は自分のお母さんから教わった空手で全員をぶちのめす。潮賀にはもっとみっともない退場を用意したかったけど、存在するだけでここまでの惨事を起こすのであれば、考え方を変えなきゃダメだ)
物陰に身を潜めている雪江はスラスラと原稿用紙に作品をしたためると、それを鉛筆と共に放り投げて異能を起動させ、様子を伺う。すると、それまで楽しそうに放火していた歩実達に異変が起きる。
処理装置の機能の一つである酸素供給が停止したのだ。それで火災の真ん中に立っていれば窒息するのは想像するまでもない。
皆が酸欠でひざをつく中、修助はまず歩実に近づき、ホースの先端の金属部分で歩実の頭部をぶん殴る。鈍い金属音と共に、歩実の頭がへこみ、地面へと這うことになる。
修助はそれでもお構いなしに歩実の胸ぐらを掴み無理矢理立たせると、今度は両頬を持ち、そのまま首を明後日の方向へ回す。首の骨が折れる音と共に回転する首、修助は力を入れ続け、引っ張り上げ、首と体を無理矢理引き抜いた。
「これで一丁上がり」
首と胴体が分離した歩実を見て、修助は興奮が収まらないのか、次々と歩実の取り巻きの少女の首を回して引っこ抜いていく。彼の中ではもうこいつらは一生反省をしなければ、大人しくする事も無いので殺した方が社会の為になると考えてしまっている。
それは雪江が間接的に異能を行使した結果だったというのを、修助はまだ知らないし、雪江が隠している以上彼が知るにはもう少し時間が必要だった。
秘密というのは時間が経つにつれ、隠す事が難しくなっていくからだ。
こんばんは、水です。修助は自分の力で事態を収束させたと思っていますが、実は雪江がこっそりと動いていたから解決できた、という内容になります。
最後にも書いた通り、彼が雪江に異能を持っているのか気づけるのか、もう少し先の話になります。
それではまた来週、よい夢を。




