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55・クズのあぶり出し作戦

 丑三つ時を過ぎ、遼平との通信が遮断された後、双葉はそのまま作戦会議を始めると言い出した。


 唐突に思えるのも無理のない話だ。しかし現実は彼女達をせかしてくる。


 歩実は修助と誘拐されたクラスメイトの女子をダシにして一瞬で一千万円もの大金を手に入れたのだ。後はこれをロンダリングし、さらに増やしていけば、ウェルクの悲願である”人類への復讐”も、現実味を帯びてくる。


 新型の戦闘スーツや、戦闘に特化した処理装置バイブルの開発はもちろん、それを扱う人材の育成も、歩実の資金力を上手く使えばやりたい放題出来る。


 だから今すぐ手を打って、歩実を止めつつウェルクをもう一度葬る必要がある。その為の資金はあるが、計画がないから話し合うのだ。


「まずは歩実を探すところからね。ロンダリングが順調なら、もう顔を出すリスクも無いでしょうから、ロンダリングに失敗して修助からもらった一千万を溶かすか、ウェルクの目的の為に動き出すかのどちらかでしか、彼女が出てくる事は無いでしょうね。個人的にはロンダリングに失敗してほしい所だけど」


「どこからネットに接続して、金融市場に入り浸っているか調べる事は出来ないの?」


 双葉が一通り話した後、最初に手を挙げて質問したのは真琴だった。


 空手と料理は一流だが、それ以外がちょっと心配な真琴らしい質問だ。


「ロンダリングは元々は資金の出所を警察とかに解らなくする為の行為よ。揺りかごがいくら頑張ったところで、結局見失っちゃうし、そもそもネットに接続しているか、接続していてもそれを隠すやり口を使っている可能性もある」


「人質解放の条件がネット口座に一千万振り込みじゃなく、今回の一件は現金一括だったからなぁ。銀行にそれを渡す時間とか……スイス銀行ぐらい?」


「結局ネット使うとは言え時差の関係で取り引きしてくれるでしょうね。ともかく金をきっかけに歩実を連れ出すのは無理ね」


 ふくれっ面で頬杖をつく双葉。スイス銀行は適当にそれっぽい事をやってくれそうな銀行を修助が口走っただけで冗談のつもりだったが、どうやら現在の執行者の規模ならスイス銀行とも取引が出来るようだ。


(便利すぎんだろ……スイス銀行。さすがはサーティーンの異名を持つスナイパーが信用している銀行だ、機密保持への考え方が違う)


 修助は前世で読んだマンガに登場する凄腕のスナイパーが保持している口座の事に思いを巡らせていると、次第にメタトロンの艦橋は歩実というクズをあぶり出すための話し声でざわつき始める。


 修助も頭の中で歩実について色々と思い出してみようと、適当なイスに座って天井を見ながら情報を整理する。


(ヤンキー気取りの守銭奴で、筋金入りのマンガ・アニメ嫌い。駅広告に張り出されたアニメキャラに不快感を露わにしたあのバカはスプレーで落書きして器物損壊罪で停学。その後はクラスメイトの読書がラノベだったのを理由に取り上げてびりびりに破いてこれまた停学。現実だったら退学だけど、まぁここフィクションの世界だしな。どれもこれも停学で済むと思う。執行者に誘拐されたがそれがきっかけで執行者を知り、金目的で接触を図り現在に至る。俺が持ってる情報はこれぐらいだ、何が使えるか……)


 深呼吸して新鮮な空気を脳に送り込み、喉が乾いたので艦橋を離れ食堂にある自販機で大容量のウーロン茶を買って一気飲み下した時に、彼は思いつく。


 奴が絶対にノコノコやってくる方法を……。


・・・


「本当にこんな方法で上手く行くのかしら?」


 早朝、いぶかしげに数時間で仕上げた駅広告を眺める真琴と双葉。しかし修助には確証があった。


「あいつバカだから。昔これ見てわざわざホームセンターでスプレーのペンキ買ってこれに落書きしたんだよ。よりにもよって本橋先生の新刊の広告にな」


 修助と真琴と双葉の眼前に広がるのは、歩実の実家から近い駅の広告。茜が手がけるマンガのキャラクターがドアップの大迫力でかかれている。スケジュールがカツカツな中、わざわざ書き下ろしてくれたのだ。


「問題は来る時間だな。焼き肉のタレをうっすらと塗ったホウ酸団子みたいなもんだから、監視カメラで見張ってればそのうち歩実はここに来る。俺は学校の支度があるから家へ帰るよ。それじゃ」


 修助は言うと、双葉と真琴の二人に背中を向け、手を振りながら歩き出す。


「ちょ、ちょっと修助! お母さんを置いていかないでよ!」


 その後を真琴はあわてて追いかける姿を見届けた双葉は、再び駅の広告に視線を戻す。


「修助の言うとおり、こんなのでノコノコ来たら、歩実はホウ酸団子に引っかかる間抜けなゴキブリって所ね」


 呆れたため息を吐いた後、急に疲れた押し寄せてきた。危うく人質が爆殺されそうになったり、それを仕込んだ張本人をおびき寄せる作戦を考えなければならなかったりとやる事が多かったのだ。


「帰って仮眠を取りましょう、果報は寝て待てと言うし」


 双葉はそう言って、ステルス機能で地上付近に待機しているメタトロンに近づき、クルーに回収してもらう。


 駅前とは言えまだ始発すら動いていない時間帯。サラリーマンどころか学生の一人もおらず、その場に居るのは段ボールを敷いて寝床にしているホームレスぐらいだった為、双葉が突然その場から消えてもその瞬間を目撃した人間は誰もいなかった。


 それから半日以上が経ち、学生達に放課後がやってくる。いつの間にか歩実が学校へ来なくなった事で生徒達は安心した様子で伸び伸びと部活動や勉強に取り組む。


 もちろん歩実の取り巻きの心配もあったが、彼女らは歩実の居ない学校が退屈なようですぐに街へ繰り出した。


 目的地は歩実の家だ。学校をすっぽかした事をアレこれ言うのではなく、単に遊びに来ただけだ。


 その道中、駅を通らなければならないのだが、その駅広告、今朝揺りかごが茜と手を組んで歩実をあぶり出すために書き下ろした広告が目に映る。


「ねーねー。オタク臭いの出てるよー」


「うわキモッ。ホント空気読まないんだから」


「ウチに良い案があるんだけどー」


 一人の間延びしたしゃべり方をしたギャルが、駅広告に不快感を露わにする仲間達にスマートフォンの画面を見せる。


「歩実の近所の駅、オタクに占領されてるよってメッセ送っちゃった。これで歩実カンカンに怒ってうちらと暴れてくれるよね」


 そのギャルは、友人である潮賀 歩実という、自分の都合の良い事なら喜んで他人に危害を加えられる少女の性格をよく理解しているようで、この後どうなるのかが楽しみで仕方ないといった様子だった。


「ほら、歩実も反応した、一緒に暴れようって。久しぶりに一暴れ出来るし、修助のせいで溜まってた鬱憤、ここで晴らそうよ」


 歩実が来る事が確実になったと喜ぶギャル。その顔は今にも暴れたくて仕方のない本性を隠すような笑顔を浮かべていた。

こんばは、水です。


寒くなりましたね、皆さま体調はいかがでしょうか?


次週は茜に協力してもらった駅広告を燃料に物理的にあったかくなるお話になります。ノコノコやってきたゴキブリこと潮賀 歩実とその仲間たちによる着火にご期待ください。


それではまた来週、よい夢を。

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