52・修助だけの救助活動
執行者が律儀に約束を守ってくれるか怪しいところではあるが、揺りかごが現場となるセントラルパークの駐車場を調べたところ、人質の少女と思われる生体反応が、駐車場中央に駐車されている赤いセダンタイプの車から検出された。
それを知ったのは、夜の十一時。早めにメタトロンへ向かい、対策を打とうと、集まったのだ。
だが相手の要求は修助一人で一千万を持たせて来る事。修助以外の介入が発覚した瞬間に報復に出るのはもちろん、修助が現地に着いた所を裏切る可能性も否定できない。
修助自身はどんな攻撃を受けても、どんな毒物を摂取してもびくともしないタフな体ではあるが、人質の少女はそう都合良く行かない。狙うとすれば、その少女の命だろう。
「犯人が新しい情報を提示したわ。セントラルパーク駐車場に赤いセダンを停めている。鍵は開いているから現金と中の女を交換しろ。ただし、午前二時以降他人が先にドアを開けたら車にセットしてある爆弾が爆発する。だそうよ」
「なんと卑怯な! 我々も手助け出来ればいいのだが……」
修助一人だけしか行く事が許されない事と、犯人のやり口に憤慨する和奈だったが、修助はそんな彼女をなだめるように言う。
「そう怒るな。金を置いて、女の子を助ければ良いだけの話だろ?」
「そう単純に行くと良いわね。相手は執行者。調停を結ぼうと向こうから誘っては、大抵向こうが裏切るろくでなしの集まりよ。ましてや今回は修助だけに行かせる。修助を誘拐するのか、それとも別の目的があるのか。不透明な事だらけだわ」
修助のお気楽な発言に苦言を呈したのは、一の妹である双葉だった。
だからといって誘拐された少女を見捨てるつもりも無いようで、結局修助一人で行く事になる。
そろそろ転送サークルへ向かう準備を進めていた所に、真琴に肩を叩かれる、振り向いた修助は、自身の両親が心配そうなまなざしで見つめていた。これから誰の助けも無しに一人で作戦を結構するとなると、やはり心配で仕方ないのだろう。
「修助、気をつけてね」
「もう少しで丑三つ時だ。遼平には変な心配をかけさせるなよ」
「ありがとう、母さん、父さん。行ってくる」
現金一千万円の入った鞄を背負うと、セントラルパークから少し離れた位置へ転送する為に、転送サークルへ向かう。
「修助、必ず無事に帰って来いよ!」
「一は心配性だな。まぁ無理もないか」
修助は今回も執行者側が取引を装って裏切るんだろうなと、前世で培った原作知識でろくな事にならないと確信を持つ。それだけ執行者は信用が無い。だが言う事に従わなければ、揺りかごが助けようとしている少女を殺すなり実験体にしてしまう。
揺りかごの理念としては、その二つだけは避けたい為、裏切られるのを解っていながら誘いにのるのだ。
「必ず生きて帰る。そして捕まったクラスメイトも助ける。一はただ和奈と見守っていればいい」
一方的に修助は言うと、それを聞いた一が何か言おうとしたが、その前に転送が成功してしまった為、修助の耳にお小言が届く事は無かった。
・・・
「よっと。ここがセントラルパークか。近くにはムーンライトガーデンってカフェがあって、一と和奈はそこのオープンテラス席でデートしてたっけ」
メタトロンではお気楽な発言が多かった修助も、いざ一人にされると不安になるようで、前世で読んだ兄の作品での一と和奈のデートシーンを思い出し、独り言をつぶやく事で恐怖を振り払おうと試みる。
周囲に人が居ないという不気味さ。活発に鳴いていた虫達も静まりかえる深夜、修助は駐車場を目指して歩き出す。
「でもあれはデートって言うより、和奈がドカ食いして、それを微笑ましく見守っているってだけだったな。母さんもびっくりしてたっけ、和奈の食べっぷりに」
修助は和奈と交流を持った真琴の話を思い出す。真琴の手料理が余りにもおいしいから、つい食べ過ぎてしまったと和奈は申し訳なさそうにしていたが、消えた食材は重量にして五千キロ、金額にして数十万円ほど消し飛んだ事に、真琴は理解が追いつかずにいた。
それはライトノベルのキャラだから。個性だから。で済ませるには無理があるし、真琴はそもそもその手の本を読まない為、余計真琴を混乱に陥れた。
人生で経験の無い事に直面すると、頭が真っ白になる。それはどんなに精神が熟達した人物であっても例外ではないというのを、修助はその話で学んだのだ。
それまで真琴と和奈の馴れ初めを思い返していると、だんだんと目的の赤いセダンに近づいている。いつの間にかセントラルパークの駐車場へ足を踏み入れていたようだ。
さっさと終わらせたい修助は、もう一踏ん張りと、一千万円の重みを我慢しながら走り出す。そして後部座席のドアを開けると、そこには四肢をガムテープで拘束されて身動きがとれなくなっていたクラスメイトの女の子が涙目で修助を見つめる姿が確認できた。
「待ってろ、今助けるから」
修助は助手席に鞄を放ると、クラスメイトの拘束を解放する。口に張られたガムテープを剥がすと、次に両腕両足を拘束していたガムテープもぐるぐる巻きにされていたが、揺りかごに持たされていたナイフを器用に使い、ガムテープを切っていく。
「ぷはっ! ありがとう、棗君」
ようやく自由の身になれた少女を車から降ろすと、その少女が居た場所に置き手紙が置かれていた。
インカムを初めとした通信手段も、使えば誰かと一緒に行動していると判断されてしまう恐れがあった為、現在揺りかごと連絡を取り合う手段が無い。こんな時に執行者の誰かが書いたと思われる手紙が車に放置されているとなると、読む読まない関係なくひどい目に遭わされる事は確定しているので、時間稼ぎの意味合いを込めて修助は手紙を無視しようとする。
その時、少女の足下に火花が散る。弾痕が残っている事から、少女を狙った狙撃の可能性が出てきた。
突然撃たれた事に驚き、恐怖のあまりへたり込んでしまった少女。どうやら手紙を無視すると殺すぞと警告しているようだ。
仕方なく修助は折れる形で手紙を手に取り、読み始める。
——棗 修助、アンタはずいぶん暇みたいだね、そんな女の為に体張って、こっちは忙しいのにさ。それはそうと、執行者様の盛大な復活を記念して、心を込めた花火をプレゼントしてやるよ。まぁ中身は実験に失敗して廃人になっちまった女どもだけどね。
追伸:くたばれ、カス野郎! 潮賀 歩実より。
読み終えたと同時のタイミングで、バイクや車の排気音が響きわたる。停まったバンからは丸坊主に爆弾のみと前衛的すぎる格好の少女が奇声を発しながら修助と人質の少女に向かって走り出し、バイクを止めた少年達はニヤニヤしながら逃げまどう修助達二人を眺めている。
丸坊主の少女がある程度修助に近づくと、狙い澄ましたように爆発し、丸坊主の少女は粉々になる。まさに走るリモート爆弾と言ったところだ。
「くそっ! 逃げようにもバイクのガキどもが邪魔して……」
修助はどうすれば人質の少女を無傷で連れて帰るか。それだけを考えながら駐車場を走り回っていた。
こんばんは、水です。
双葉の言う通り、執行者はろくでなしの集まりということがわかった獄でなく、何故か殺されたはずの歩実まで蘇生されてるのが手紙で解りました。
しかしそれについてじっくり考える暇はなく、今は爆弾となった被験者の成れの果てと、歩実の手下の少年達を何とかしなければなりません。
それではまた来週。よい夢を。




