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50・デートⅢ

「ありがとうございました」


 どんな偶然か、結花がレジを担当し、修助達の食事の会計を受け取り、レシートを渡すと、事務的な挨拶をしてホールへ戻って行ってしまった。


 改めてレストラン内を見回すと、結構お客さんで賑わっており、結花がレジを打った後すぐにホールへ戻って接客をするのも納得のいく盛況ぶりだ。


 決して自分の事が嫌いだからだとか、そういった個人的な理由は無いと思いたい修助だった。


(あんなに忙しくしてちゃ、おちおち雪江と世間話も出来やしないもんな。まぁ俺と雪江が付き合ってるの知ってて世間話しようなんて根性持ってんの、結花ぐらいだと思うけど)


 原作でも主人公の一とメインヒロインである和奈の仲を取り持つ為に色々根回しをしていた結花。和奈が異性として一を意識している事に気づくまで結構時間がかかり、世間知らずな和奈の恋を後押しする、といった事があり、その経験が雪江へデートの為に可愛いワンピースを和奈がプレゼントしてくれたというのだから、きっと和奈ツテで雪江と付き合っているのがバレているだろう。


 尤も、バレたところで空気を読んでそっとしてくれる一と違い、雪江には仲のいい友達として話しかけたり、何かとちょっかいをかけたりするかもしれない。原作知識で結花のひととなりを知っている修助は、少なくとも学校ではいちゃつけないかもしれないと少し残念に思いながらも、その分を今楽しもうと気合いを入れて再び雪江と手を繋ぐ。


 雪江も無言でそれを受け入れるようになり、おっかなびっくりで恥ずかしがっていた午前中と違い、だんだんと慣れてきたか、恥ずかしいのを我慢して修助とくっついていたいか、あるいはその両方かの感情が雪江の中で巡っているのだろう。


「にしても、昼飯食ったらほぼやること無くなっちまったな。遊べそうな所は軒並み揺りかごの管轄外で行けないし、それ破ってトラブったら元も子も無いし」


「別に僕は図書館で本を読むんでも、公園でおしゃべりするんでも、どっちでも良いよ。僕は修助君と一緒に居たいだけだから」


「嬉しい事言ってくれるじゃないの。じゃあもっとお互いの事を知る為に公園でおしゃべりしようか」


「解った。付いていくよ」


 修助の提案に嬉しくなった雪江は、自分を受け入れてくれる修助なら何を話しても良いと思う一方で、自身が異能持ちである事は隠さなければならないと心の中で念を押す。


 揺りかごのビルを後にした二人は、少し広い公園へと歩いて向かい、すぐに近くにあったベンチに隣同士くっついて座る。


 その暖かさとやわらかさが心地よくて、つい修助の肩を枕代わりにして眠ってしまいそうになるが、そんな時間の使い方をしたくはない雪江は眠気を殺して修助を見つめる。


 その熱い視線に、修助は少し照れながらも、お互いどんな事を話そうかと面と向かって聞いてみる。


 丑三つ時でのやりとりで解った事が、修助は元ブラック企業勤務で心を壊した社会人、もう片方は大嘘も良いところの、ネットの悪意が引き起こした盗作騒動で白紙にされてしまったが、新人賞で大賞を受賞した中学生。話がかみ合わないのは承知の上だ。


 それよりも修助がずっと思っていたのは、転生した今でこそ、同じ高校生の同じクラスだが、前世の感覚が残っている為、成人している自分が中学生に手を出しているこの状況に罪悪感が無いわけではない。これで捕まったらせっかくの異世界転生シチュが台無しになる方が問題だ。


 そう言い聞かせても、相手をしているのは中学生というだけで、手を出している訳でもないのに罪悪感と特別感で昂揚してしまう自分が情けなく感じてしまう修助だった。それだけ未成年、とりわけ若い中学生と男女のお付き合いをするというのはそう言うことだ。


 一人であれこれ悶えている姿を、雪江は話題が出ないから必死にひりだしていると捉え、こんな自分の為に話題をあわせてくれようとしている事にうれしさを感じていた。こうなったら自分から話しかけた方が、精神年齢が遙かに年上な修助の助けになると思った雪江は、自身が最も得意としていたライトノベルの話題を振ってみる事にしてみた。


「ねぇ、前世でのラノベの話になるんだけどさ。ハメスキって知ってる?」


「”自分をハメた女の子だけど好きになってしまいました”だっけ? 懐かしいな。五年ぐらい続いたんだっけ」


「うん。僕は小学生の頃から、少ない小遣いをラノベに費やしていたんだ。その最初の作品が、ハメスキだった」


「あれ小学生が読むような内容じゃないだろ。表紙買いか?」


「そうだよ。イラストが他のラノベと違って、柔らかくて可愛いから買ってみたんだ。中身は全然雰囲気に合ってないけど」


 初めての失敗を懐かしむように笑う雪江。彼女はそこからラノベの興味を持ち、やがて自分でそう言った作品を作りたいと願うようになった。


「僕はいろんなラノベを読んでいく内に、文章で自分を自由に表現できる凄さに気づいた。当時タブレットなんて無かったから、ノートにそれっぽいの書いて。今思うと恥ずかしくて読み返すのもおっくうな内容だった」


「だけどそれが雪江の作品の礎になったんだろ? 読んでみたいな」


「やめてよ、女の子のスカートの中に頭をつっこむのと同じような事言わないで」


「そんな表現する雪江も、だいぶラノベの汚染されてると思うけどな」


 確かに、と二人はおかしな会話をしている自覚があるのか、くすくすと笑いあう。


 そんなくだらないやりとりがいつまでも続けばいいのにと思うほど、この時間が好きになっていく。


 だが時間は有限。ずいぶん話し込んでしまったのか、公園の時計は夕方の時刻を指していた。


「寂しいけど、そろそろ帰らなきゃだね」


「あまり遅くなると、母さん達だけじゃなく、揺りかごにも怒られちまう」


 修助と雪江は未だ執行者に狙われている身、あまり遅くなると夜に紛れて執行者の人員が二人を狙ってくる可能性がある。


 もちろんそれらは全て揺りかごが監視している上、執行者自体組織としての体裁を保つのもやっとの状態なので、再びおそわれる可能性は無いに等しいが、油断は出来ない。


 もっと一緒に居たかったが、自分達のわがままで皆が迷惑になるような事は避けたい。そう思った二人はベンチから立ち上がり、まずは雪江の自宅へ向かう。


「雪江、家まで送っていくよ。俺は一人でも何とかなるからさ」


「わかった。じゃあお言葉に甘えるね。本当はもう少し一緒にいたかったけど……」


 もう何の抵抗も無く手を繋ぐ雪江、その暖かさと柔らかさにドキドキしながらも、修助は雪江の次の言葉を待つ。


「修助君、少しかがんで、目をつむってくれる?」


「ああ」


 言われるまま、修助は少しかがんで目を閉じる。


 時間にして十秒ちょっと。彼の唇に暖かいものが重なる。


 驚いた彼は思わず目を見開くと、そこには自分の唇を重ねる雪江の姿が映った。彼女はキスをしたかったが、直接頼むのはまだ照れくさかったようだ。


「あ、その、ごめん。我慢できなかったんだけど、言うのも恥ずかしかったから」


 唇を離した雪江は頬を染めながら言い訳をする。


 キスをしたければ言えばいいのにと思う人ほど、恥ずかしく思う気持ちが薄いのかもしれない。今日のデートでキスするタイミングはいくらでもあった、だが臆病になっていた彼女はその機会を逃し続けていた。


 離れてしまう時間が迫るにつれ、焦った彼女が取ったのは、修助に対する不意打ちだった。もうこれしかキスする方法が無いと感じたのだ。


 付き合ってまだ日は浅く、キスは早すぎかもしれないし、エッチな女の子だと思われるかもしれないと思う一方で、一人の作家としてキスはどんな感触と感情をもたらしてくれるのかが純粋に気になっていての行動だった。


「こ、これからは、ちゃんとキスしたくなったら言うから……」


「あ、ああ……」


 修助は雪江のそんな言葉に上手い返事が出来なかった。


 生まれて初めての異性のキス。それは彼から思考を奪ってしまうほど強烈なインパクトを与えるほどだった。


 その後、二人は手をつなぎ、黙って雪江の家を目指す。その間修助はしきりにキスをされた唇を指でなぞりながら、不意打ちで奪われたファーストキスの余韻に浸っていた。

こんばんは、水です。


デート回最終回です。付き合い始めてからキスまでの時間が少し早い気がしますが、それはまぁ人それぞれだと思います。


次週は平日になり学校へ行くことになる修助ですが、隣の席に座っている、よく勉強を教えている女子生徒が欠席してしまいます。その欠席はただの欠席ではないのが揺りかごによってわかります。


それではまた来週、よい夢を。

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