表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/62

48・デート

 デートの日程が決まると、それが楽しみで学校が早く終わってほしいとしか考えられなくなり、その日程を丑三つ時に報告すれば、遼平と恵津子で正反対のおもしろい反応が返ってくる。


 着実に大人の階段を昇っている事に焦りを見せる遼平。


 殺されてしまったとはいえ、娘の成長に胸が躍る恵津子。


 ウェルク率いる執行者が大人しいのもあって、丑三つ時は常に笑い声の絶えない、心の安らぐ団らんの一時となっていた。


 そして週末。デート当日。


 約束の時間の一時間前に、既に集まる場所にたどり着いていた修助は、もう一度身だしなみを確認する。


 その服装は、親友である一に見繕ってもらったものだ。彼も複雑な経緯を経て和奈という少女と彼氏彼女の関係を築いている。すると人間不思議なもので、特に一の年代は背伸びするように服装に気を使うようになる。


 その辺が全く無頓着なまま、一度目の生涯を終えた修助は全く解らず、藁にもすがるような思いで経験豊富な一に頼んだといういきさつだ。彼も初めての頃は苦労したと苦笑いを浮かべ、修助の頼みを二つ返事で聞き入れた結果、普段の修助とは違う、少し大人びた修助ができあがったのだ。


「さすがに早く来すぎたな。母さんの言うとおり、家でもう少し落ち着いてから行った方がよかったかもしれない」


 そわそわと落ち着かない気持ちで、彼は雪江を待つ。彼女もずいぶんマンションの住民達に可愛がられているようで、普段着がジャージかアニメプリントのシャツである茜以外の手によって、別人のように変貌を遂げたのを、修助はその声を聞いて目の当たりにする。


「あっ。修助君、おはよう。お互い決めた時間より早く来るなんて、なんだか僕たち似たもの同士みたいだね」


 そう言って微笑むのは、小さなイヤリングを光らせ、リップクリームでしっとりとした唇を見せる雪江だった。


 化粧に抵抗があった雪江だったが、何もファンデーションなどをベッタベタに塗る必要は無いと言われ、唇が少し荒れていた為、和奈に勧められたリップクリームを塗っただけだ。なのにその唇に今すぐキスしてしまいたいほど、修助の視線は唇に釘付けだった。


「どうしたの?」


 あまりにもまじまじと見るものだから、不審に思った雪江は首を傾げながら修助に訊ねる。


「あ、いや。何でもない。まだ時間に余裕があるから、どこかで休んでから行くか? 動物園」


「うん」


 真っ白なワンピースのスカート部分を揺らしながら近づき、修助の手を握る。


 腕を組まれるよりマシとはいえ、その突然の手つなぎに思わず修助は生唾を飲み込んでしまった。


「どうしたの?」


 その音を聞かれたのか、それとも様子を不審に思ったのか、雪江は彼の顔をのぞき込み、どうしたのか訊ねる。


 一方の修助は。


「な、何でもない。行くぞ」


 としか言えない、情けない男になっていた。



・・・



 動物園の開園時間まで、付近の公園で雑談に興じる。不思議なもので、改めて恋人として付き合って、手を握っただけでもまともに会話が出来なくなるというのに、他愛のない雑談は出来てしまう。これを修助はきっと気が合うから出来るんだろうと思い、雪江も似たような事を考えていた。


 最近読んだライトノベルの話題だけであっという間に時間が過ぎてしまい、いよいよ開園時間を迎える。


 入園料の二百円を支払い、靴の裏を専用のブラシでこすり余計な外来種の種などを払い落とすと、眼前に広がるのは穏やかに生活する動物達。そしてあらゆる動物の体臭が混ざった独特の空気。最初は戸惑ったが、二人でゆっくり動物の仕草を見ているうちに、臭いについてはどうでも良くなっていた。


「見て、カワウソが歩き回ってる」


「お、そのままプールに入っていったな」


 二人は動物達を驚かさないよう、ゆっくり歩きながら、雑談より少し小さめの声量で会話する。


 動物園自体の規模は小規模な上、飼育が難しい珍種を飼育している訳でも無いので、動物園巡り自体は一時間ほどで終わってしまった。そこで二人は餌やりなどのアトラクションで時間を潰すと、ふれあい広場の方へ向かっていく。


 時間が来ると、飼育員の手によってモルモットの体型に合わせた簡単な橋が組み立てられ、そこへトコトコとモルモットが列を成してこちらへやってくるのだ。規模は小さいといえど、直にふれあえる事自体が貴重な体験な為、これ目当てでやってくる人が殆どだ。


「うわぁ……柔らかくて、暖かい」


 飼育員の指示に従って、モルモットを抱き抱えると、その命の暖かさに触れた雪江は感動を覚える。


「こういう経験、無いのか?」


 同じようにだっこしながら、モルモットの体をくすぐる修助は、そんな彼女の反応を見て訊ねる。


「うん。動物はそんな身近な存在じゃなかったし、修助君に話を持ちかけられるまで、興味もなかった」


「小学生の頃は飼育委員とかあるだろ」


「僕が通っていた小学校にはそう言うの無かった。正確には僕が入学した時点で動物は皆死んでいて、物置になってたな」


「動物園でする会話じゃないなこれ……」


「僕も言ってて思った。でも事実だから仕方ないじゃないか」


「まぁそうだけどさ」


 互いに苦笑いしながら、モルモットにかまれない程度にじゃれる。しばらくすると時間が来たのか、再び橋を組み立てた飼育員の手によってモルモット達は誘導され、元の展示小屋へと戻っていく。


 これでここの動物園で出来る事全てやってしまった。もう後は一度みた動物の様子を見るぐらいしかやることがない。


 そこで修助は時計が正午付近を指している事に気づく。そろそろ腹が減る頃だろうと思い、彼は手を洗った後、雪江に声をかけた。


「なぁ、一旦出て飯にしないか? 午後は食べながら決めるって事で」


「わかった。じゃあ修助君がお店を案内してくれるの?」


「そうなるな」


「楽しみ。どんなお店でも良いよ。僕こう見えて好き嫌いとかアレルギーとか無いから」


「好き嫌いはともかく、アレルギーが無いのは良い事だ。行動範囲も狭い事だし、揺りかごが保有しているビルのテナントになるけど……」


 気づくと自然と手をつないで、二人は揺りかごが所持しているビルのレストラン街のページをスマートフォンに表示させる。


 動物達のおかげで、朝はぎこちなかった二人が、自然と手をつないで歩けるようになったのだが、その功労者である動物達からすると、普段通りに生活を全うしていただけなので、特別何か行動を起こすような事はしなかった。

こんばんは、水です。


デート回です。ですが、一度ウェルクに誘拐された身分である為、揺りかごが管理している施設のみしか回ることが出来ません。


しかし修助と雪江は、その不自由を何とも思わず、楽しみ続けます。次週は食事から午後のお散歩になります。彼らの温かい時間を優しく見守ってください。


それではまた来週、よい夢を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ