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45・結ばれた二人の丑三つ時

 出かける前に真琴に言われた言葉から逃げるように玄関を後にした修助は、先に待っていた雪江のそばへ駆け寄る。


 別に雪江の家へ上がり込もうとか、そういう魂胆は無いと言えば嘘になるが、まるでそれをする事が当たり前のような関係に見られているのに、修助はたまらなく恥ずかしく、その顔はヒーターのように赤くなっていた。


「修助君。そう言う顔は、可愛い女の子がするから良いんであって、君みたいな主人公の親友という体裁のモブキャラがするような表情じゃないよ」


 そんな修助の心を全く解っていない雪江は、転生者同士でかつ熱心なオタクか、そんなオタクを相手にしている作家でなければ理解できないようなメタ発言をぶつける。


 言葉で殴るとはよく言ったもので、人の気も知らないで幸せそうに、と修助は心の中で毒づきながらも、その手を優しく握り、雪江をエスコートする。


「んなの言われなくたって解ってる。でも親に冷やかされる身にもなれ」


 その一言とともに握られた手は、雪江にとってとても暖かく、彼の優しさそのものを表現しているといっても良かった。そのせいで修助のお小言は、右から左へと流れて行き、ただ修助の声を聞くだけで心が弾み、ただ修助の手を握るだけで報われたような気持ちになっていく。


(何だろう、修助君と手を繋いで歩いているだけなのに、今まで散々だった人生が、何もかもが消えちゃえばいいのにって思えた無意味な生が、否定されて新しい形に生まれ変わろうとしている。僕は修助君や揺りかご、そして何より棗先生には絶対に言えない秘密を抱えているのに、それが漏れるリスクよりも、修助君が受け入れてくれた事が嬉しくて、リスクが消えそうになる)


 雪江にとってそのリスクが消える事が恐怖だった。気が抜けた時にバレたくない自身の異能の事がバレてしまう。かといってそれを隠し通そうとするといつか見抜かれる。その板挟みとも言える中で、雪江は手探りであるものの、居心地の良い場所を探して修助と会話を重ねるのだった。


・・・


「道のり、あっという間だったね」


「ああ。暑さのせいも有るだろうけど、家に行く時は結構歩いた気がする。でも今は違う、もっと一緒に居たい」


 素直にしかなれない修助は、思った言葉をストレートに雪江へぶつける。名残惜しいのは修助だけではないのだが、先にそう言われると心臓が跳ねてしまうほど、彼の言葉は好意に満ちあふれていた。


「僕も、もっと一緒に居たい……」


「な、ならさ。来週の休み、揺りかごが許してくれる範囲でどこか出かけようか?」


 修助の提案はただのデートの誘いだった。揺りかごの許してくれる範囲というのは、ウェルクにマークされてしまった以上、また誘拐されてしまうかもしれない事を危惧して行動範囲を管理、掌握されているのだ。


 誘拐の恐ろしさを身を持って体験している修助は、それもやむを得ないかと思う一方で、男としての本能が不満を漏らしているのも感じていた。初めて想いを通わせた女の子と好きに出かける事が出来ない。その不自由さはストレスでしかない。


 雪江もそれは感じているが、彼女も分からず屋というワケではなく、揺りかごが許してくれる範囲でのデートでも、修助と一緒に居られるなら、と受け入れてくれた。


「うん。そうしよう。揺りかごの行動制限があるから、行けるところ少ないけど、逆に考えるとあまり選ぶのに時間使わなくなって、その分修助君と一緒にいられる時間が増えるよ。やったね」


 仕返しのつもりなのか、雪江は照れながらも制約の中で精一杯の幸せをつかみ取ろうともがいている。やはりというかお約束というか、そんな恥ずかしい言葉を直に受け取った修助は、異性との交際経験が無いまま死んでいった前世のせいで、心臓が痛むほどの強い鼓動を続けていた。


「そ、そうだな。今は追われている身。それらしく、慎ましいデートにしようか……」


「そうだね……今は一緒に居る事が、特別で、幸せだから」


 雪江はまるで修助の言葉を一つ一つかみしめるように聞きながら、それが出来る幸せに身を委ねていた。


 が、今居る場所はほぼ女子寮となっている揺りかごが保護した少女達が暮らすマンション。あまり立ち話をしていると迷惑になる。


「それじゃ、また学校で」


「うん。また」


 だから二人は短く挨拶を交わして、それぞれの家路へと向かった。今日が終われば次の日学校で会える。それで妥協すればいいじゃないかと言い聞かせても、結ばれたばかりの二人の熱は、物理的な距離が離れれば離れるほど会いたいという気持ちになって燃え上がっていく。


 二人はこんな気持ちを抱えたまま、丑三つ時を迎えても大丈夫なのだろうかと不安を抱えたまま、夜を過ごす羽目になってしまった。


・・・


 勿論修助には雪江と結ばれた事を兄の遼平に報告できる度胸など有るわけ無く、それをべらべらと喋る真琴でもない。ただ、淡々と情報交換が進む中で修助一人がそわそわしているのが遼平にとって気がかりだった。


『修助、さっきからそわそわとどうした?』


「いや、何でも……」


 隠そうとすればするほど、ボロが出てくるようで、真琴は我慢できずくすくすと笑いをこらえ、エレナはそんな真琴を注意する。


 圭一郎に至っては、一体何が起きたのか、置いてけぼりにされてため息をつく始末だ。


『隠し事は無し。だろ? その様子じゃ、良いニュースのようだが、あえて聞かないのも兄のつとめという奴か?』


「そんな大した事じゃないよ。ただおおっぴらに言うのは恥ずかしいデリケートな内容でさ……」


『ははーんさては女だな? お兄ちゃん解るぞ。今書いてる新作はラブコメで、結ばれた後のカップルの初々しさと来たらこっちまで恥ずかしくなってくる。今の修助はまさにそれだ、合ってるだろ?』


 仕事で疲れている上に深夜テンションもあって、遼平が高い声でめちゃくちゃ語る。それは修助にとって一種の羞恥プレイであった。


 だから、修助はもうさらけ出すしか方法が無かった。


「ああそうだよ! 雪江と付き合う事になったんだ! これで満足か!?」


『なん……だと……』


 耐えかねて叫んだ言葉に、フリーズする遼平。もうあと数分しか残っていないのに、弟が彼女を作っていちゃついているという事実が受け入れられない遼平はそのまま何も喋れなくなり、丑三つ時の交信は時間切れを迎えてしまった。


「なんて言うか、自分から聞いておいて何も言わなくなるって、情けないわね。どこで育て方を間違えたのかしら」


 その誰も触れられない、いたたまれない空気の中で、怖いもの知らずの真琴だけが腕を組んで自分の前世の教育方針を反省していた。勿論、その場にいた全員がそう言う問題ではないと言いたかったが、それを覆せる反論を持ち合わせていなかったので、誰も何も言わなかった。

遅れて申し訳ありません。水です。


初めて知った通じ合う喜び、それを手放したくない修助と雪江は、一歩一歩を大事に踏みしめながら家路につきますが、それでも彼らにとっては短い道のりだったようです。


次週は雪江と恵津子の丑三つ時パートになります。雪江は修助との関係を打ち明けて、それを聞いた母親は遠くに行ってしまっても成長していると涙を流します。


それではまた来週、よい夢を。

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