44・我慢
雪江がどこへも出かけず、部屋でゆっくりしたいと言い出して一〇分。修助の心臓は今まででも経験の無いほど強く熱い鼓動を続けていた。
理由はシンプル。告白して受け入れた雪江が、ソファ代わりに二人で座っているベッドで彼の腕を組んでベタベタと甘えてくるのだ。据え膳食わねばと言う悪魔の修助と、相手は無垢で男を知らないからと制する天使の修助が心の中でハルマゲドンを繰り広げている、地獄の様相を呈していた。
「なぁ、俺の腕、そんなに落ち着くか?」
「うん。こうして誰かに甘えたの、生まれ変わってから一度も無いから」
言って彼女は頬をこすりつける。その仕草が可愛く、また一段と、修助の心臓が跳ねた。
単純すぎる気もするが、修助の好みの女の子が告白して彼氏彼女の関係になったとたん、ベッタベタに甘えてくるのだ。仕草の一つで動揺してしまうのも、致し方のない事だ。
その上生まれ変わって一度も誰かに甘えたことが無いという一言が、彼の心を苦しめる。
(そうだったな。思えば、あの一件がなければこうして知り合う事も無かったワケだし。ずっとひとりぼっちだなんて耐えられるワケが無いんだ)
そう思った修助は、左手でその頭を優しくなでる。
「どうしたの? くすぐったいよ」
「撫でたくなった。ダメか?」
「僕がこうして修助君の腕にくっついているのに、撫でるのはダメって、めちゃくちゃじゃない? 良いよ、好きに撫でて」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
そう言うと、修助は髪の毛を乱さぬように優しく撫でる。さらさらとした短い髪が、修助の手を滑っていく。
その優しい愛撫に対し甘えるように、ぎゅっと修助の腕に抱きつく雪江。
そんなシンプルで、端から見れば何が面白いのかさっぱりな行為。だが恋人に成りたてで、初めてだらけな二人はそれだけで何時間も潰せる気がした。修助の中にある仄暗い性欲こそ混じっているものの、まだ我慢できる範囲であり、清い交際と言える範囲ではある。
二人はそうやっていちゃいちゃとくっついているだけで、数時間も過ごしてしまったようで、時計を見ると夕方にさしかかっていた。
二人の母親に彼女バレするぶんには我慢できるが、普段職場にいて、浮ついた場面を目の当たりにする事のない父親にバレるのは流石にまだ心の準備が出来ていなかった修助は、そろそろ帰る時間だろうと雪江へ声をかけ、名残惜しそうに帰り支度を始めるのだった。
その際、家を出る直前の真琴の言葉が、余計に二人を意識させるようになったのは言うまでもない。
「雪江ちゃんを送ったらまっすぐ帰ってくるのよ! そのまま家へ上がり込んだら許さないんだから!」
こんばんは、水です。
雪江の告白を受けた修助。その返事を聞いた雪江は大喜びで修助に甘えます。
結局修助は体は同い年だし、と前世が中学生の女の子と付き合うことになりました。
それではまた来週、よい夢を。




