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43・雪江の告白Ⅳ

「ふーん。棗君の部屋ってこうなってるんだ」


 修助に案内された部屋を見渡す。昼ご飯を食べたらリビングでゆっくりするか出かけるつもりで居たので、片づけらしい片づけは全くしていない。


 だが部屋自体は新築されたというのもあって清潔そのものだ。ゴミ一つ落ちていない床に暖かな日光を通すガラス窓。整頓された本棚。ノートパソコンがぽつんと載っているだけの机と殺風景な部屋。


「面白いものはあまりないけど……北沢さんが喜びそうなのは本棚ぐらいかな」


「うーん。今は本棚って気分じゃないな」


 雪江は突然そんな事を言い出すと、一瞬で空気が変わったのがわかった。それまで食後も相まって緩い雰囲気が流れていた中で急に張りつめたので、修助はその変化に戸惑いを抱いていた。


「どうしたんだ? 急に」


「僕、棗君に大切な事を伝えたくて、二人きりになりたかったの」


「母さん達が居ると不都合な話をするのに、わざわざこの場所を選んだのか?」


「うん、それにあの二人はこの部屋に来ないよ。ちょっと考えれば解る事じゃないか。年頃の男女が部屋で二人きり、そこへわざわざ入る親は毒親以外の何者でもないよ」


「妙にとげがある言い方だな……それよりも、大切な事って?」


 修助が知りたい、大切な事。その言葉を待っていたとばかりに、雪江は言葉を紡ぐ。


 その言葉は、修助の頭を真っ白にしてしまう衝撃的な一言だった。


「棗君は誰かを好きになった事はある? 僕はある。僕は棗君が好き。友達としてとかじゃなくて、恋人として」


 真剣な眼差しで告白する彼女に、交際経験の無い修助はどうしたらいいのか解らず黙っている間にも、彼女はどんどん言葉を紡いでいく。


「歩道橋から落とされた時、自分が死ぬかもしれないのにクッション代わりになってくれた。骨折で入院していた時はずっとお見舞いや身の回りの世話をしてくれた。退院して学校に居る時も、一緒にお昼を食べようと誘ってくれた。こんなに優しい人、初めてで、僕はどうしたらいいか解らなくて……気づいたらずっと君の事を考えてた……」


 畳みかけるように今までの修助の行動を羅列する雪江。歩道橋のくだりは咄嗟の出来事であったが、それ以降はほぼ下心で接していたにも関わらず、ここまで慕ってくれた事に、彼は少しずつ喜びを露わにし始める。


「ごめんね、突然。でも、押さえきれなくて……」


「それ、本気にして良いんだな?」


 お互いに人同士は分かり合え無いと知っている身。修助はわずかに残された冷静さで雪江がどれだけ修助を愛しているのかを確かめ、雪江もまた、そう言われるのを知った上で更に押していく。


「うん。嘘も何もない、けど結局は君の人生。ここで僕を振るのも受け入れるのも、君次第」


「なら、俺の答えはこうだ」


 修助は、その告白を受け入れる事を、言葉ではなく行動で示す。優しく、壊れ物を扱うように、ゆっくりと雪江を抱きしめる。


「実を言うとな、北沢さんの事、意識はしていた。めちゃめちゃ俺の好みだった。けど、初めて会っていきなり馴れ馴れしくされるのは嫌だろ?」


「そうだね。少なくとも、僕の事を色々助けてくれるまでは、他人だと思ってた。今では揺りかごとメタトロンの乗組員達のおかげで、棗君は棗先生の弟だって解ったけど、最初は単なる赤の他人だった」


 急に抱きしめられて、お互いの心音が聞こえるぐらいの距離で交わされる会話。馴れ初めを話し合い、お互いをもっと深く知ろうとするやり取り。抱えているものが恋心だと確信した今は、もう止められない。


「そこからだんだんと、気持ちが膨らんでいって、今では名前で呼びたいぐらい好きになってた。ねぇ、名前で呼んでも良いかな?」


「勿論だ。俺も名前で呼んで良いか?」


「良いよ、すごく嬉しい」


 二人は抱きしめあったまま、しばらく互いの名前を呼び合う。


 それはまるで、産声を上げたばかりの愛情を確かめ合うかのように、繰り返される。


「雪江」


「修助君」


「呼び捨てには出来ないのか?」


「ごめん、ちょっと無理かも」


「なら、それで良い。無理は心に毒だもんな」


「ありがとう、修助君」


 理由は深く聞かない。今はこれぐらいで良いし、これからもこのままが良い。暑い日差しの中で芽生えた絆は、名前の呼び方程度でほころびはしない。


「あのさ、今日はこのまま俺の部屋に居るか? それともどこか出かけるか?」


 昼食を終えたばかりな為、出かける時間はある。正直な所修助は自分を受け入れてもらえた嬉しさからこのまま雪江を押し倒してしまいそうなのを我慢する為の提案だった。


 今は互いに高校生の同級生だが、心の方はというと、片方は心の壊れた社会人、そして片方は未熟さが残る二次成長期期間の中学生。お互いの精神年齢に差が有りすぎる為に、修助はそのような提案を出したのだ。


 しかし、雪江はそれに気づけなかったのか、修助の煩悩を刺激するような回答をしてきた。


 このまま二人で、帰る時間までゆっくりしたいと。


 破壊されそうな理性を何とか持ちこたえる修助の一人我慢大会の幕が切って落とされた瞬間だった。

こんばんは、水です。


雪江は修助に秘密を抱えたまま告白に踏み切りました。一方で修助は舞い上がって押し倒してしまわないようどうにか自分を抑えて悶々とする時間を過ごす羽目になります。


次回以降の更新はそんな初心な二人が少しずつイチャイチャする話を書いていきます。よろしくお願いします。


それではまた来週、よい夢を。

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