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37・画面越しの再会・丑三つ時

「期待させてくれ、か……」


 湯船につかりながらぼんやりと天井を見上げる遼平、彼は恵津子に娘と画面越しに再会出来ると伝えた時の反応を思い返していた。


 あの会話の後、恵津子はまるで死んだ娘に会う為の代金を支払うかのように家事を始めた。真琴と遜色ない夕食の後に浸かっているこの湯船も、いつの間にか恵津子が掃除してお湯を張ってくれたものだ。


 家事をして貰おうとは微塵も思っていなかっただけに、恵津子の行動に調子を狂わされる。


「これで雪江先生の反応が薄かったら、俺殺されるのかな?」


 誰にも聞こえないような小声で、冗談混じりの物騒な独り言を言う。丑三つ時に顔を合わせたわけではなく、修助が送信してくれた資料で勝手に判断しただけの為、間違いの可能性も十分にあったが、その可能性を否定したくなるほど、資料に載せられていた写真やプロフィールが、彼の知っている雪江に一致していたのだ。


 だから彼は恵津子を誘って賭けに出た。本当に雪江が遼平の世界のその後を生きているのだとしたら、そのまま報われる人生を歩んで欲しいと願わずには居られない。


 長風呂に加え考え事をしていた為か、少しのぼせてきたのを感じた遼平は、転ばないようゆっくりと湯船からあがり、濡れた体を拭き、いつもの部屋着へと着替える。


(まだ時間じゃない。焦るな。だがいくら言い聞かせても、丑三つ時が待ち遠しくて気持ちが抑えられない)


 湯船に浸かった事に加え、雪江が本当に転生したのかの答え合わせが待ち遠しくて、遼平の心臓はうるさいほどに鼓動を早めていた。


・・・


 その後は遼平は自室で時間が来るまで企画書作り。恵津子は食器洗いに洗濯と家事の続きを自主的にやっていた。断ろうと思っていた遼平だったが、娘に会えるかもしれないという期待に胸が膨らみすぎて、その勢いに押されてしまい、最終的に恵津子の好きにさせる事にした。


 企画書が完成し、時計を見ると、あと五分で丑三つ時を迎える時間まで迫っていた。ラブコメは初挑戦で、色々と難産だったが故に時間がかかってしまったのだ。


「そろそろ支度しないと」


 彼は慌てて部屋を出て、恵津子が現在くつろいでいるリビングへ向かう。


 やる事がなくなったら適当にくつろいで良い、それが押し負けた遼平の提示した抵抗のようなものだった。


「恵津子さん、お待たせしました」


 言いながら遼平はノートパソコンを立ち上げ、いつものチャットソフトを立ち上げる。そこから修助に通話を発信すると、すぐに通話は開始された。


 画面に映る、自分の書いた登場人物に似てるようで似ていない自分の家族。そして自分の書いた登場人物と話す奇妙な感覚は、いつまでも慣れそうにない。


 だがそれを理由に時間を無駄には出来ない。遼平の目的を遂げる為に、修助に早速雪江の容態を尋ねる。


「修助。今日は雪江先生をこの会話に入れて欲しいんだ。容態はどうだ?」


『一応松葉杖無しで歩けるまで回復はしたけど。もしかして後ろにいる女の人と関係あるのか?』


「お前のような勘の良い弟は大好きだよ。紹介が遅れた、この人は雪江先生の母親の恵津子さんだ。よろしく頼む」


 画面に映ったアニメ調の人物と真剣に会話する姿が不思議な光景に映った恵津子は、名前を呼ばれるまで呆けた様子で遼平と修助のやり取りを眺めていた。


 突然紹介されて、我に返った恵津子は慌てて自己紹介する。


「あ、あの。初めまして。北沢 恵津子ともうします。雪江の母親です。遼平さんが、そちらに雪江が居ると聞いて、お邪魔させていただきました」


『遼平、彼女作れとは言ったけど、熟女趣味だとは思わなかったわ。まさかアタシが生きてた時はアタシの体を!?』


「母さんこんな時にふざけないでくれ。メタトロンのクルーにも聞こえてるんだろ? 恥ずかしくってしょうがない」


 反省の色無しに笑う真琴に、遼平は深いため息を吐いて、メタトロンクルーもそのお茶目に振り回されている様子だった。


『雪江ちゃんならすぐに連れてくるわよ。歩けはするけど、走らせるのはちょっと怖いから、お母さんがおんぶですっ飛んでつれてくる』


 言って真琴は誰の返事も待たずに画面から消えてしまった。恐らくエレナから教わった魔術を利用したものと思われる動きに、遼平はその吸収力の高さに驚かされていた。


(転生して若返っているとはいえ、母さんの飲み込みの早さは飛び抜けてるな。前世では存在しないモノを容易く会得してしまうなんて)


 と遼平は思っているが、なんだかんだで真琴もチートみたいな魔術をすぐに使えるようになったわけではなく、空手のカンを取り戻すのと平行して、エレナから指導を受けていたのだ。肉体が若いのもあるが、精神が成熟しているのもある。


『でも兄貴、どうして北沢さんを?』


「確認したい事があるだけだ。まぁ反応を見ればすぐにわかる」


 深い意味を持たせるような言い方をする遼平に、修助はますます困惑するが、その困惑はすぐにどこかへ吹き飛んでしまった。


『おまたせー! 雪江ちゃん、立てる?』


『はい。ありがとうございます』


「っ!? 雪江!?」


 声を聞き、顔を見るや、恵津子は半狂乱になり、画面に釘付けになる。


 その声に反応した雪江も、その顔を見て固まる。


『お……お母さん』


「雪江! 雪江なのね!?」


『そうだよ! 僕だよ! 気持ちは分かるけど落ち着いて!』


 今の恵津子ははっきり言って冷静ではなかった。今にも遼平を突き落として、ノートパソコンを占有しようとしている有様だ。


 それをなだめるように声をかける雪江だが、その雪江も、死後初めて再会する母親を前に冷静で居られる自信が無かった。


 お互いの興奮が落ち着いてくると、少しずつ親子の会話が始まる。


「三年ぶり、かしら」


『うん。ごめんね、お母さん。ひとりぼっちにしちゃって』


「謝らないで。これからこうして会えるのが解ったから。いつまでこんな夢みたいな時間が過ごせるのかは解らないけど、それまでは寂しくないから」


 画面越しで触れ合えないとはいえ、娘との再会に涙を浮かべながら、少しの間だけ二人の時間を設け、お互いに過ごしてきた事を話し合った。


 ここで一つ大きな問題が生まれてしまう。修助達と雪江の時間が被って、ただでさえ少ない時間の取り合いになってしまう事が解ったのだ。そこで緊急会議として、残りの二〇分は今後どのように丑三つ時へアクセスするかを話し合う事にした。


 まず遼平の住んでいる家でこの怪奇現象が起きている為、恵津子の自宅で同じ環境が再現できるか怪しいのがまず一点。これに関しては、昔娘の為に買ったパソコンがまだ家に残っていると恵津子は言うので、必要に応じて別々の部屋でお互いの家族の時間を過ごそうという結論に至った。


『じゃあ兄貴、色々準備とか大変だろうけど、北沢さんのお母さんをがっかりさせるようなヘマするなよ』


「よく言うよ。また骨折ったら許さないからな」


 兄弟でそうじゃれ合っていると、骨を折ったいきさつを知ってしまった恵津子が心配そうに娘に声をかける。


 だが娘の返事は虚勢でも何でもなく、はっきりと安心するような返事が返ってきた。


『心配しないで。この世界の医療技術は、骨折程度なら一晩で直るから』


 嘘は言っていないが、誇張表現な気もするその口振りに、修助と遼平はヒヤヒヤしたが、現に二本足で立っている雪江を見て、恵津子は納得するしかなかった。


・・・


 それからしばらくは今後の予定についての話だった。雪江は住所が執行者に漏れてしまった為、揺りかごが新たに住居を用意し、そこへ引っ越す事になり、それの手伝いに修助と真琴はかり出される事になった。


 娘が物騒な事に巻き込まれたと聞いて、顔を青くした恵津子をなだめながら、今度は娘と二人きりでゆっくり話せる環境を、遼平が住んでいる自宅に整える必要があった。


 それに関して許可を経て、何だったら今住んでいる公営アパートを引き払って居候すればいいと真琴があっけらかんと言い出した。


『前々から心配だったのよ。遼平一人暮らしで、ちゃんとご飯食べてるのか、無理してないかってずっと心配だったけど、それが無用になる人が来てくれてお母さん一安心だわ』


 幼い背丈で胸を張って言うものだから、恵津子は思わず真琴の今の姿が生前の真琴の姿なのかを遼平に尋ねると、全然違うと否定して、さっき仏壇で顔を見ただろうと、遺影を思い出させる。


 それだけ、この死者との交流は頭を真っ白にさせる行為だというのを改めて実感した三〇分間だった。


 結局、遼平は引き続きリビングから、恵津子は修助の部屋からアクセスして、必要ならお互いの家庭と一緒に話し合うという取り決めを行った。


 平行して引っ越し先でも母親と交流が出来るよう、雪江は揺りかごから端末を貰い、遼平との交信に使っているチャットソフトと同じモノをインストール。使えるかの確認を行い、その日は眠りについた。


 明日からは恵津子がアパートから退去する為に色々やらなければならない。遼平はそんな彼女が一人で全てを抱え込まないよう、梱包業者を探したりと色々忙しい一日になりそうだと、新たに始まる奇妙なやり取りに心が踊り始めていた。

こんばんは、水です。


遼平の思い付きに巻き込まれた恵津子は、その怪奇現象により娘と再会する事が出来て驚いていると同時に半狂乱の喜びを示します。これからは死んだ修助の部屋を間借りして、一家公認の居候として、恵津子は棗家に出入りするようになります。


それではまた来週。よい夢を。

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