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30・超展開☆執行者VSトンデモ夫婦実行編

 いよいよ襲撃の時間がやってきた。エレナに装備を装着するのを手伝ってもらいながら、真琴は未だ慣れないメカに必死に慣れようとする。その装備は息子をこの手で救い出す為の最強の武器だとエレナに暗示をかけられているようで、すっかりその気になった真琴は、出発前にこっそり圭一郎が待機しているベンチへとやってきた。


「あなた、これからする事に対する精神統一でもしているの?」


「逆だ。リラックス。真琴だって解らない訳じゃないだろう」


 言って圭一郎は中途半端に残ったペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干して、ため息を吐く。こうして一度リラックスした後が、最高のパフォーマンスを発揮できる秘訣なのは、真琴しか知らない。


「ええ、解ってる。私とエレナ、そして修助の友達みんなで、このカチコミを成功させるから、圭君もがんばってね。ドライバー」


「解っている。真琴、もう少し近づけるか」


「うん」


 圭一郎に言われて、何をされるのかを察した真琴は、少し頬を染めながらも、圭一郎に近づく。


 圭一郎はその手に吸い付くような柔肌に、自身の皺と傷だらけの手で触れ、そっと双葉の唇に自身の唇を重ねた。


 二人は前世で夫婦であり、何か大きな事が起これば、お互いの不安を絆で乗り越える為にこうしてキスをする習慣があった。修助と遼平がさんざん見てきた、仲良し夫婦のやりとり。


 だがこの世界では、どう見てもただの近親相姦である。法律によって許されない行為ではあるが、それ以上のヤバい事を前世で沢山してきて、今更キスの一つで騒ぐのはおかしな話だと、夫婦は開き直るのがオチだ。


 その場面を、真琴の後を追ってやってきたエレナに見られてしまう。エレナは少し固まってしまったが、直ぐに前世で二人が夫婦だった事を考えると、落ち着きを取り戻し、止めていた足を前へ進める。


 相手が弱いとは言え、油断は死に繋がる事をこれから起こすのだ。なら、最後のキスになるかもしれないと、覚悟を決めて唇を重ねるのも別におかしな話ではない。


 だがエレナのその考えが勘違いであるのは、真琴に見つかってから直ぐに訂正される羽目になる。


「エレナ、そこに居るんでしょ。アンタも出撃前にキスの一つや二つ、済ませて起きなさい。このキスはね、別れを惜しむものじゃないの。約束するの、絶対生きて帰るって。ゲン担ぎって言われて、ピンと来ないかしら?」


 言ってエレナは驚く、別れを惜しむキスではないのかと。むしろ再会を約束するものなのだと。


「今のアンタになら話しても良いかな? アタシと圭君はね、昔っから何かヤバい事に首を突っ込む時、大抵こうしてキスをして、必ず生きて戻ってくるって誓ってきたの。大丈夫よ、アンタも圭君の事、結婚するほど好きなんでしょ? なら、その唇はとっくに捧げているわよね?」


 煽るような言い方に、エレナはカチンと来たのか、私だって、とエレナは暴れる心臓を押さえながら、圭一郎の初老で皺が目立つ頬を両手で添えて、強引に自分の唇を圭一郎の唇に押しつけた。


 たまらず驚いて目を見開く圭一郎と、のんきにひゅーと口笛を吹いてエレナの度胸を真琴なりのやり方で褒める。


 その直後、館内放送で三人の名前が双葉の声によって呼び出され、妙な熱は直ぐに醒まして臨戦態勢に移るが、圭一郎だけ、妻である真琴以外の女性に口づけをしてしまったと、少しだけ罪悪感を感じていた。


・・・


「それじゃあ、作戦のおさらいと行くわよ」


 双葉は足を組み替えると、コンソールを操作して中央の大型モニターに今回襲撃をかける施設の衛星写真を公開する。


「欲を言えば、修助か北沢 雪江から茜の異能経由で間取りが欲しかったけど、何故か二人には異能が通じない。だから施設は極力破壊せずに戦力を削ぐ必要が有るわ。でなければ修助と北沢 雪江が、瓦礫の下敷きになってしまうのは、想像するまでもない事でしょう?」


「よりにもよって茜先生の異能が通じない奴をさらってくか……」


「これは偶然では無いわ。ウェルクは異能が通じない二人に興味を示したと考えるのが自然じゃないかしら」


 今まで執行者と対立し、嫌と言うほどウェルクについて詳しくなっていた双葉は、今回の一件は狙って行われたと断言する。


 何故か茜の異能を持ち、邪魔されないように根回しをして、最高の実験体を確保する為に修助と雪江を誘拐した。異能が通じないというのは、それによる攻撃を受け付かない反面、身体能力を上げる等の支援も受けられない諸刃の剣。


 それを有しつつ、別の異能を行使する兵士を作ろうと考えるのは、有る意味自然と行き着く結末かもしれない。


 その悪趣味さに、真琴と圭一郎以外の全員に緊張が走る。


 メンバーの心が悪い方向へ流れ始めたと感じた双葉は、再び皆を落ち着かせるように手を叩くと、誰がどこへ向かい陽動を行うのかを説明、そしてこの作戦で一番必要なのは、脱出した二人の逃走手段だ。


 メタトロンで回収してもかまわないのだが、そこへ近づくタイミングや、修助達が無事に脱出するまでの時間を考えると、一人で要塞一隻に匹敵する火力を持ちうる執行者の兵士との交戦は避けられず、それで損傷すれば、機能の一部を失いかねないリスクがある。


 だが今回は違う。メタトロンの代わりに改造車で現場へ向かい、脱出した修助達を回収して安全な場所へ運ぶというものだ。


 これは圭一郎が提案したことであり、この機動要塞に不必要なダメージを与えないよう、メタトロンは相手の射程外から無線で指示を出し、圭一郎はタイミングを見て飛び出すという提案に決まった。


 明らかに圭一郎が危険に晒されるだけの作戦にも思える内容だが、自分の夫なら必ず成し遂げてくれると胸を張る真琴の姿を見て、双葉は人質救出の為の切り札として、圭一郎の提案を受け入れたのだ。


「指令、まもなくランデブーポイントに到着します。戦闘要員の転送準備を」


「解ったわ。戦闘要員は直ちに転送サークルへと入って」


 一人の機関員がコンソールを操作しながら双葉に状況を伝えると、一や彼が助けた少女達が一斉にサークルに入る。


 それに少し遅れる形で真琴も入るのだが、双葉は戦わないのかと疑問に思った事をそのまま質問する。


 双葉も一応炎を扱う異能を持ってはいるが、使用時間に比例して自身の身体や精神も燃やしてしまい、最終的にその痛みで狂ってしまうという、これまた難儀な異能を有している為、司令官として指示を出している以上、狂った自分が他の味方に攻撃するのを望んでいなかった。


 真琴を除いて。


「双葉、アンタも戦えるでしょうに、何そこでふんぞりかってるの?」


「これはどうしようもない事なの。私が戦えば戦うほど、被害が広がり、最終的に地球を焼け野原にしないと気が済まない難儀な異能でね」


「あら、難儀な事ね。アンタもてっきり参加するのかと思っていた」


「真琴、司令塔の居ない軍隊なんて烏合の衆よ。今までどんな事をしてきたのかは知らないけど、一人で戦うのとは勝手が違うの」


 双葉が戦わない事に疑問を抱いていた真琴を制したのはエレナだった。彼女も双葉のようにかつてチームを率いて事あるごとに敵対してきた過去を持っている為、双葉のやり口は良く理解していた。


 そんなやりとりの後、クルーの一人が大人数を転送する為の準備を終えた事を報告する。一人や二人なら光の早さで転送出来るのだが、一〇人を越えているとなるとやはりそれだけ時間がかかる。


 その時間も双葉にとっては折り込み済み。表情一つ変えずに作戦開始の合図を出す。


「それじゃ始めるわよ! 救出作戦開始!」


 双葉の号令と共に、転送サークルに居た少女達は一瞬で居なくなり、映像を投影しているプロジェクターには双葉が指定した場所へ配置された少女達が早速戦闘を開始している映像が映し出されていた。


「改めてみると不思議な光景だな。異能を持っていると、無条件で空を飛ぶことが出来るのか?」


「異能を行使している状態ならね。それじゃ圭一郎さん、準備を」


「済ませているよ。いつでも出れる」


 そう言う圭一郎の格好は、これから戦場のど真ん中を突っ切る為の装備などではなく、休暇でゆっくり過ごす為のラフな格好だった。とてもこれから限界まで改造された車を運転する格好とは思えないその服装に、クルーの内の数名が不安の表情を滲ませる。


 それでも双葉の表情は司令官として凛としたものに変わりなく、圭一郎も久しぶりの全開ドライブにそわそわした心が隠せない様子で、転送サークルへと足を踏み入れたのだった。


・・・


 一方その頃、外で真琴が武装集団相手に素手で大暴れしている事も知らず、修助はいつの間にか昏倒させられていたのか、ゆっくりと目を覚ます。


(……これアレだ、和奈が一度執行者に連れ戻された時のシーンだ)


 修助はのんきなもので、手足を金属製の枷で拘束され、強制的に大の字にされている状態に有るというのに、兄がかつて描写したシーンの回想をしていた。


(てことは、ここは執行者の施設か。マズいな、俺はともかく、北沢さんの身に何かあったら手遅れだぞ)


 様子を伺うために、左右に首を動かす。そこに雪江の姿は無く、また自分の居る部屋には誰もいない。


 いくら人手不足でも、頑丈な枷を填めて大の字に転がしておけば大丈夫だろうという考えはあまりにも不用心な気がするが、そんなつっこみに答えてくれそうな人は誰もおらず、ただただ苦痛に感じる時間を過ごす羽目になる。


 何より辛いのが、近くに雪江の姿が確認できない事、少しずつ目が覚めてきた修助の感情は次第に苦痛から焦燥へと変わりつつあった。


 このままでは雪江がひどい目に遭わされ、変わり果てた姿になってしまう。それだけは受け入れられないと、この場から出る為に必死に身体を動かしてみる。


 だが枷は頑丈で、修助が動いただけではびくともしない。そんな時、彼の頭の中で三つの選択肢が現れた。


(一つ、異世界転生モノ特有の荒唐無稽なチート能力を急に得た俺はそれを使ってぱぱっと解決。二つ、自分ではどうにもならないが、心配性な父さんと母さんに加え、真の主人公である一が沢山の女の子を連れて助けてくれる。そして三つ、助けも来なければ北沢さんは無惨に改造されてしまう、現実は非情である……)


 時間が経てば経つほど、彼の希望は潰え、頭の中が選択肢その三で埋め尽くされていく。


 絶望するにはまだ早いが、絶望する以外の選択肢がない。この世の地獄とはこの事を言っているのかもしれない。


 最早諦めムードすら漂っていた中、突然室内に警告音が響きわたり、照明も非常事態を知らせる為なのか、正常な白色から赤色が交互に点滅するようになる。


『非常事態が発生しました。被験者保護の為、拘束装置を解除します。担当者は速やかに被験者を安全な場所へ避難した上で、再度拘束し、実験の再開を行ってください』


「なんつー無茶な館内放送だ。和奈が捕まったシーンでは、アニメでも見たけどこんな演出無かったな。いきなり施設が吹っ飛ばされて、こんな悠長な放送を流している場合じゃなかったしな」


 修助は警報によって自動的に枷が外され、自由の身となり、警報が響く中で雪江を探し始める。


 それは無茶であるのは承知の上だ。歩いていれば、他の警備員や研究者に容赦なく捕らえられてしまうだろう。


 だがその程度でビビっていては始まらないし、何よりこの施設の出口が解らない以上、とにかく雪江を捜して互いの知恵を絞ってここから脱出しようと考えた修助は迷ったり悩んだりするよりも直ぐに走り出していた。


「北沢さん、無事でいてくれ!」


 いつの間にか制服から着替えさせられていた白衣のせいで走りづらかったが、それでも修助はその足を止める事無く、片っ端から扉を開けて雪江の姿を探し始めた。

こんばんは、水です。


いよいよ戦闘が開始されますが、詳細な戦闘は来週になります。幸運な事に、非常脱出装置が作動して自由の身になった修助は、一番危険な場所に居るであろう雪江を探して施設内を駆け回ります。


それではまた来週。よい夢を。

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