29・超展開☆執行者VSトンデモ夫婦計画編
「総員! 揃っているわね?」
双葉は艦橋にある自分のデスクに座ると、他のクルーや真琴と圭一郎の夫妻、そしてエレナに加え、一が助けてきた少女達も彼と一緒に集まり、かなりの大所帯になっていた。
全員居る事を確認すると、彼女は修助と雪江の救助作戦についてのブリーフィングを行う。
「ウェルクの奴が突然ではあれど、ようやく姿を現したわ。しかも、茜の異能である運命操作を使っているみたいで、このメタトロンの点検中を狙って二人を誘拐した。どういう経緯で運命操作を得たかは解らないけど、悪用されているのは解るのよね? 茜」
「ああ、最悪の気分だ。あげた覚えなんてこれっぽっちもないあたしの異能が、あたしの大事な大事な相棒である編集をぶっ殺して灰にした奴の手によって悪用されているって、考えただけでも吐くよ」
「ここで吐かないで我慢しなさい。それで、肝心の場所なんだけど、どうもアイツ、私達が動く事を想定しているかのような動きが観測されているのよ」
言うと双葉はクルーの一人に指示を出して、修助と雪江の居場所の地図や航空写真をプロジェクターへ投影する。
ぱっと見、更地で買い手が付かず野ざらしになっているように見えるが、脱法行為の為の機能満載のこのメタトロンの性能にかかれば、そこに、誰が、どのように配置されているかを、衛星の情報を利用してリアルタイムに観察出来るようになっていた。それこそプライバシーなんて丸裸である。
こんな高性能なモノを持ちながら、修助と雪江の誘拐を阻止できなかったのは、ウェルクがそれらから逃げられるような細工をして、タイミングを見計らって行動を起こした、と考えるのが妥当だろう。そして茜の異能によってもたらされた最悪の情報により、細工のからくりが明らかになる。
「今までウェルクの奴が揺りかごにバレずに潜伏して、今回の面倒事を起こした仕組みが見えてきた。あたしの異能のトリガーである”書いたものを触った人物の記憶を見る事が出来、その紙に命令が書いて有ればそれを実行に移せる”のを悪用したものだ。アイツ、一君に殺される数ヶ月前に自分のカネにモノを言わせて、別人になりすまして新聞の投稿企画に応募していた。新聞紙は大企業のものから地方新聞のような小さな規模まで様々で、触れる機会が必ずあるから、学生諸君の皆は古紙回収の手伝いや窓拭きなんかで触っている可能性がある。ウェルクの奴、あたしの異能以外も保持している、かつて一君が対決した時とはまるっきり別人になっているわ。完全に油断した。死んだ奴の記憶なんて、あたしは読む事は出来ないから、そこを突かれたって所ね」
茜は頭を抱えながら、ウェルクの現状について説明する。もしかすると頼んでいない新聞紙を、どこかで触れる機会、つまり古紙回収のようなゴミ捨ての日等にうっかり触れてしまった可能性を考慮に入れていた、でなければ、誰もウェルクの行為に説明が付かない。
さすがに新聞の投書に破滅的な命令を書くほどの文才が無かったようで、この場に居る全員や地域住民が不審な行動をした形跡が無い。強いて言えば麻薬の密売を行ってエレナに殺された歩実ぐらいだろう。
それでも、全員の記憶をのぞき見出来るという致命的な問題がつきまとっているのは変わりない。それにここで全員を集めて修助と雪江を助けると言うが、ウェルクに行動を読まれるのは火を見るより明らかだった。
だが今はウェルクの復活についてあれこれ話し合っている場合ではない。何をされても死なない修助ならともかく、骨折してギプスを巻いている雪江まで命の危機にさらされているのだ。
「ウェルクのあれこれについて話すのは、もうこれきりにしましょ。あれこれ策を練っても先読みされるのは変わらないけど、それを理由に捕まっている二人を放っておくなんて出来ない」
「なら双葉。アタシと圭君、それとエレナにこの一件任せて欲しいの。そこの修助の友達をむやみに危険に晒さずに済む方法よ」
突然真琴が双葉に意見を言う。その声音は穏やかで冷静を装っているが、瞳は今にも人を殺しそうな程怒りに燃え上がっていた。
それはエレナも同じのようで、自分にウェルクの事を忘れさせるような事をしておきながら、今更ノコノコやってきて好き放題し始めているのが気に入らないのだろう。圭一郎との幸せ結婚生活を邪魔されたのも、彼女の怒りに拍車をかけている。
「たった三人でなんて無茶よ! 相手は下手な軍隊より強力な火力を持っているのよ!」
真琴の意見に悲鳴を上げるような声で抗議したのは、修助の事を嫌っている筈の結花だった。彼女は以前、通学中にはち合わせた修助に、自身の異能である風の剣で切りかかったが、鼻であしらわれた事があった、根は優しい性格の彼女はどうしてもその窮地を放っておけないのである。
それは修助の父親である圭一郎に助けられた風峰姉妹も同じようで、不安を和らげる為にお互いの手を握り、結花の後に続く。
「そうです、それに私達が誘拐された時とは話が違います。関根さんの言う通り、本隊は空を飛び、このメタトロンと同等の火力を個人個人が有しています! 迂闊に飛び込めば、命の保証は有りません!」
「ですから、私達の事も頼ってください! お願いします!」
涼歌と涼鳴はそう言って頭を下げる。それでも真琴は譲らなかった。
それは彼女達を信頼していないからではない。もし彼女達に何かあって、修助が悲しい思いをするのは、自分が傷つくよりも辛い事だからだ。ここにきて、行き過ぎた息子思いが裏目に出てしまっている。
「はいはいあなた達、落ち着いて」
手をパンパンと叩いて、双葉はヒートアップする少女達を押さえようと試みる。言い合っていた真琴達も、頭がいくらか冷えたのか、言い合いをしてもしょうがないという事に気づき、双葉の方を向く。
静かになったのを確認すると、双葉は続けざまに口を開いた。
「執行者は一度没落している。使える戦力が限られているわ。目的はあくまで修助と北沢 雪江の救助であって、執行者本隊を叩くわけではない。むしろ使える戦力をさらに分散させるようにすれば、いくら個人個人が強くても、一が助けた彼女達の足下にも及ばないわ」
「双葉……もしかして彼女達をコマにするつもり!?」
「落ち着きなさい真琴。全盛期の執行者ならまだしも、片腕であるエレナが居ない上に、不良生徒や麻薬を使わなければ資金集めもままならないほど衰弱した組織よ。それに彼女達は一の友達を救いたいと心から願っている。その気持ちを無碍にするつもり?」
言われて真琴は答えに窮する。真琴は修助が読破した愛読書であり、遼平が執筆したアビリティーガールズがどのような物語であるのか知らないし、そもそも自由に活動して欲しいという願いからあまり干渉しないようにしてきた。
だが、自分の息子である修助を助ける為に駆けつけ、真剣な眼差しで訴えかけるその勇敢さに、なぜそこまで出来るのかを尋ねたが、帰ってきた答えは一つだった。
――修助を助けたい。
一〇人を越える少女達の意志は、誰一人としてぶれる事はなく、むしろ力強ささえ感じた真琴は、これではいくら言っても無駄である事を悟り、大人しく引き下がる。
「わかった。そこまで言うなら、お願いするわ。なんだか皆、その歳に似合わず色んな修羅場や地獄を切り抜けてきた目をしているみたいだし。でも一つだけ約束して」
真琴は少女達の絆に心を打たれ、流しそうになった涙を拳を握る事で堪えると、ゆっくりと口を開いた。
「怪我だけは絶対にしないで。もし自分のせいで怪我をしたって修助が知ったら、絶対に悲しむから」
「真琴……」
双葉は開いた口が塞がらなかった。以前から兄である一ともっと仲良くするようにからかう事はあったが、今の彼女は見た目こそ中学生のそれだが、話し方は慈愛に満ちた母親のそれであり、困惑していたからだ。
その困惑は、救助を志願する少女達にも広がるが、彼女達の意志を変えるきっかけにはならなかった。
ただ全員が”はい”と答え、真琴との約束を誓ったのである。
・・・
そんな諍いがあって、本題に入るのに遅れてしまったが、ようやく計画を立てれる段階に入った。
計画そのものはシンプル。一が助けてきた少女達に加え、真琴やエレナも本隊の妨害に参加。その隙に圭一郎が車で施設に突入し二人を回収。ウェルクの運命操作がどんなに優れていようとも、それと同じモノを茜が所持している為、圭一郎にはそもそも修助と同じように異能の対象にならず、このメモは肌身から離れない場所に入れて持ち歩くという命令を書き込み、彼に持たせた。茜によれば、圭一郎は普段から新聞を読んでいる為、ウェルクの異能の対象になっているが、新しく命令を書き込めば、追加や上書きといった行為も出来る為、ウェルクの命令を上書きする形で茜の命令が新たに書かれた事になる。
つまり、今の圭一郎は、異能に限っての話ではあるが、無敵の人と化したのである。
試しに結花の風の剣で小さな切り傷を作るよう圭一郎は自らの手を差し出してみた。結花は恐る恐ると言った様子で圭一郎に異能を行使するが、圭一郎の手には傷一つ付かなかった。
修助に対して強めに異能を振るった時と同じように、彼は異能によって生命を脅かされるリスクが無くなったのだ。
これで異能という、真琴と圭一郎にとって未知で不気味な驚異は排除される形になったのだが、そのきっかけが茜の異能なのだから、とんだ皮肉である。
そして真琴とエレナは、施設を襲撃する為の作戦会議を行う為に、異能を持つ少女達の元へ向かう。残された圭一郎は、双葉と交わしていたある約束について話す為に彼女に近づいた。
「双葉ちゃん。例の車は用意出来ているかな?」
「ええ、揺りかごお抱えのレースチームによる特別な一台よ。そこに圭一郎さんの知識も加わった、レースは勿論逃亡だって無敵の一台。彼女達が出撃すると同時に、乗り込んで貰うわ」
「解った。ただ、一つ気がかりな事がある」
「ウェルクが何故今攻撃を仕掛けてこないか、よね?」
「そうだ、私の息子と未来の花嫁をさらった不届き者の事だ。今この瞬間を狙って、この船ごと始末出来る筈だが」
「ウェルクは独特の感性を持っていてね。自分の優先順位を曲げたくないのよ。そしてその優先順位として、異能の対象に出来なかった修助に強い興味を持った。その体質を知る為に、私達が襲撃の準備をしている事を知った上で実験に興じている」
「自信家なのかな? 先手を打たなくとも迎撃出来るという、根拠の無い確証でも持っているのか」
「そうね。ウェルクはそういうきらいがある。その自信で、一度死んだというのに、学習していないようね」
双葉は半ば呆れ、小馬鹿にしたようなため息を吐くと、車のキーを圭一郎に手渡す。
「或いは、我々を下に見ている可能性がある。なら今回の一件で下に見た事を後悔させてやろう。全てを見通す茜さんの異能を持っているから、警察官が新聞紙に触れる事も折り込み済み。私が出た瞬間、最大の厳戒態勢で追跡してくる。通りが賑やかになるぞ」
圭一郎はそう言うと、キーを受け取りながら、前世で若い頃派手に暴れて警察に恥をかかせた事を思い出したのか、わずかに微笑む。
「だが警察程度で私を止められると思うとは、随分とナメられたものだ。私を止めたければ、装甲車を多数持つ自衛隊にでも泣きつくんだな」
独り言のようなその言葉は、年齢に対し不相応な人生経験を持つ双葉さえもその表情を強ばらせた。彼女はあらゆる人間と出会い、そして指揮官として皆を導いてきたが、こんな野生の狂犬のような本性を秘めた穏やかな人間とまともに会話した経験が無かったからだ。
こんばんは、水です。
今回は襲撃計画を立てるお話となります。と言っても、変に策を立てた所で黒幕であるウェルクに全て見透かされているので蛮族な感じで殴り込みのカチコミに向かいます。脳筋少女達と無謀運転ドライバーの活躍は、次回にて大暴れします。何もかもをぶっちぎる圭一郎のテクにご期待ください。
それではまた来週。よい夢を。




