99.魔女様 伯爵の512倍強い召喚獣(どこかで見覚えがある)と対峙する
「げほっ、げほっ、もう逃げられないのだ! ローグ伯爵!」
伯爵が逃げ出した先は大広間だった。
中央にはローグ伯爵がへたり込んでいて、兵士のみなさんが何事かと囲んでいる。
「リリアナ様を返さなければ、ようしゃしないのだ! お腹に穴があくのだぞ」
クレイモアは剣を抜き、降伏するように勧告している。
どこからどう見ても、絶体絶命だと思う。
ただし、クレイモアも大きく咳き込んでいる。
伯爵のさっきの魔法が直撃したからなんだろうけれど、けっこう苦しそうだ。
部屋にいた辺境伯やレーヴェさん、クエイクは後ろのほうで手当てを受けている。
私はと言うと、どういうわけか、平気だった。
「ぐひひひひ、私が逃げるだと? 甘いわ。お前らなど、私にかかれば、こうだっ!」
伯爵はにやりと邪悪な笑みを浮かべる。
これまではどっちかというと品のない嫌らしい笑い方だった。
だけど、今度のは明らかに敵意のある笑い方。
「トラットリア・ローグの名において命じる! 悪夢のザガリアよ、現れるがいい!!」
伯爵は懐から巻物を取り出し、私たちの眼前に掲げる。
巻物には赤い線で、様々な魔法陣が描かれていた。
次の瞬間!
ぐごっぁああああああああぁああ!!
地響きのような音とともに、頭をたくさん持つモンスターが現れた。
モンスターは怒号のような声を上げる。
どこかで見たことがある気がするけど、なんていうかでっかい。
大広間にぎりぎり入るってぐらい。
それにひどい臭いがする。
「何こいつ!?」
私は思わず、鼻を覆ってしまう。
うわぁあ、目にもしみる臭いがする!
兵士の中には匂いだけで戦意喪失する人もいるほど。
「ふはははは! これぞ、先の聖魔大戦のザガリアを死霊化させたものだ! 私の全財産と引き換えに貸してもらった100年に一度の化け物だ! サジタリアスごとき、こいつ一匹が粉砕してくれるわ! ぐはははは!」
驚いたことに、ローグ伯爵は私達を攻撃するためにモンスターを召喚したのだ。
他国でこんなことをしたら、貴族籍を抹消されるはず。
このおっさんはもはやまともな判断はできていないんだろう。
「ひひひ、死にたいやつからかかってこい!」
ぐがぁああああああ、っと、そのモンスターは私達を威嚇する。
明らかにローグ伯爵に操られていることがわかる。
見た目はかなり不気味な化け物。
なんていうか、腐っているし。
粘液をぽたぽた床に落としているさまは、ううう、気持ち悪い。
その異様な姿に兵士のみなさんは近づくことさえできない。
リリは「ひきゃあああ!」って悲鳴をあげているし。
「ごほっ、ごほっ。こういう展開を待っていたのだ! クレイモア、参るっ!」
クレイモアは剣を抜いて、モンスターに切り込む。
頭が何倍あろうが、体がいくら大きかろうが、彼女なら、きっと一刀両断にしてくれるはずっ!
ずがっっっっっっ!
地面にスコップを突き刺すような音。
続いて、どすん、どすんっと重いものが床に落ちる。
「ふんっ、ぞうさもない! もったいないけど、すぐに終わらせるのだ」
斬り落としたモンスターの頭に足を乗せ、クレイモアはびしっと剣を構える。
さすが、クレイモア!
一振りでモンスターの頭を2つ落としたようだ。
「ひぐっ!!!??」
しかし、まさかのまさか!!
次の瞬間に吹っ飛んだのは、クレイモアだった。
彼女はモンスターの尻尾攻撃を食らってしまったのだ。
ふっとばされた彼女は広間の壁にぶつかり、壁を抜いて向こう側に落ちる。
うっっそぉおおおお!?
「ぐははははは! お前ごとき筋肉バカが勝てると思うな! こやつの尻尾は8つもあるのだ! お前を死角から殺すことができる!」
伯爵の言う通り、クレイモアは背後から一気にふっとばされた。
しかも、あのモンスターの尻尾は伸びるみたいで始末におえない。
「お、おい、クレイモア様がやられたぞ!」
「救護兵! はやく回収しろ!」
「おのれぇえええ!」
ざわざわと声をあげる騎士のみなさん。
まさかクレイモアが一発で退場させられるとは思ってもみなかった。
「クレイモアぁああ!」
リリは泣き出しそうになっている。
必死に逃げ出そうとするが、ローグ伯爵は彼女の腰を抱えてはなそうとはしない。
「ぐひひ、なぜこいつが恐れられているか知っているか? それはこいつの頭と尻尾の数だ! 頭は8つ、尻尾も8つ! さらに、体は4倍! しかも、死霊化で2倍! すなわち、通常のグレイトアースドラゴンの512倍の力を持っているのだ!」
そして、伯爵はこのモンスターの解説をご丁寧にしてくれる。
言いたくてしょうがなかったんだろうけど、512倍っていう謎計算はなんなんだろう。
そもそも、クレイモアに頭を2つ落とされたから、6つの頭にならないだろうか。
そうなると、えーと、6かける8かける4かける2で、えーと、まぁいいや。
「ひゃはは、通常のグレイトアースドラゴンでさえ尋常ならざるモンスターだ! お前たちに勝ち目などない!」
伯爵は私達を煽りに煽る。
ん? グレイトアースドラゴン?
大きな、土の、竜?
違うよ、あれって、よーくみたらアナトカゲじゃん!
どこかで見たことあるなぁって思ってたけど、うちの村の近くの森にいてコソコソしてるやつ!
頭や尻尾がたくさんあって、大きさや皮膚の色も違うけど。
うちの村って頭がいっぱいあるモンスターがたまに現れるんだよなぁ。
頭がここまでたくさんあるのは初めて見たけど。
「ぐはははは! 剣聖がやられた以上、お前らに手出しはできぬ! リリアナはもらっていく! 悔しかったらリース王国まで出向くことだな!」
そういうと、伯爵は腐ったアナトカゲに守られながら、大広間から出ていこうとする。
アナトカゲのしっぽはかなり器用らしく、城に大きな穴を開ける。
兵士のみなさんが追いかけようとも、うねうねしてる尻尾に阻まれて近づきようがない。
魔法兵が魔法を飛ばしても、皮膚が固くて届かないようだ。
「行くぞ、リリアナを救え!」
「なにが512倍だ! 384倍ではないか!」
レーヴェさんは男気あふれる声を出して、騎士団を鼓舞。
あの副団長は暗算が得意だったようで、つっこみを入れながら突撃。
しかし、次の瞬間。
「おうふわっ!?」
騎士団はめちゃくちゃに蹴散らされる。
あの尻尾はものすごく射程が長い。
迂闊には近づけず、呆然と立ち尽くす兵士さえ現れる。
どがっ!!
ものすごい音がしたので、見てみると、モンスターの体に穴が開いている。
どうやら誰かが石を投げたらしい。
「こんの、腐れドラゴン!」
現れたのはクレイモアだった。
彼女はなんとか無事だったらしい。
「油断したのだぁあああ!」
壁に空いた穴から這い上がってきた彼女は大きな声をあげる。
その顔は私と戦ったときみたいに怖いものに変わっている。
本気の顔、なんだろう。
彼女は剣を構える。
並々ならぬオーラ。
だけど、打ちどころが悪かったのか、ちょっと軸がフラフラしているように見える。
ぐるるるるるっ……!
そうこうするうちに、騒ぎを聞いたシュガーショックが現れる。
体に葉っぱがついているとこを見るに、どこかで眠っていたらしい。
シュガーショックはアナトカゲをにらみつけながら、低く唸る。
このアナトカゲをシュガーショックに任せるのもいいかもしれない。
だけど。
「ま、魔女さまぁああ……」
リリの泣き顔が私の心を焚きつけるのだ。
びりびりと私の中に熱が湧き起こるのがわかる。
私の大事な仲間を泣かせるなんて、あの男、許せない!
それに他人の城を破壊したりなんて、ぜったい、やっちゃ駄目なことだ。
誰かを恐怖の渦に落とし込むなんて、人間としてありえない。
「クレイモア、シュガーショック、悪いけど、私にやらせて」
私はローグ伯爵をにらみつける。
このオッサンには私の手でお灸をすえてあげようじゃない。
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「アナトカゲ、逃げてぇええ……!!」
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