98.魔女様、ローグ伯爵の悪事を暴くと逆ギレされる
「二人とも待ちなさい!」
変装は完了。
辺境伯とローグ伯爵の二人に向かって、できる限りの大声を出す。
貴族様相手に無礼だけど、こっちに意識を向かわせるためだ。
「な、なんだ貴様は!? この私に声をあらげおって! 私は貴族だぞ!」
ローグ伯爵はこちらに向き直って、因縁をつけてくる。
眉間にシワを寄せて、いかにも陰険な顔つき。
「なんだその仮面は? それに、その髪はどうなっとるんだ!? ふざけているのか!?」
伯爵は私の仮面や髪のことについて喧嘩をふっかけてくる。
確かに仮面をつけたまま人前に出るのはちょっと無礼なのはわかっている。
とは言え、外すわけにはいかない。
「ひいっ、な、何ごとでしょうか!?」
ヒートアップしているローグ伯爵とは異なり、辺境伯は少し冷静になったようだ。
どういうわけかわからないけど、直立不動の姿勢になっている。
顔色も落ち着いてきているし、これなら話を聞いてくれそう。
「レーヴェ、あの仮面はなんなのだ!? 髪に赤い筋が浮かび上がっておるではないか」
「知りませんよっ、あんな仮面! しかし、騎士団を失神させたときも似たような感じでした」
「つっっ、一旦、落ち着いたほうが良さそうだな」
辺境伯はレーヴェさんとこそこそ何かを話している。
まぁ、私の変装がかっこいいとか、そういうのだろう、きっと。
「辺境伯様、今回のトビトカゲじゃなかった、ドラゴンの一件ですが、もしも、自然現象じゃなくて、誰かに操られていたとしたら、どうします?」
一呼吸おいて、私が話し始めると、一同の視線はこちらに集まる。
あんなに騒いでいたローグ伯爵は「ぎっ」と言ったまま、動きも止まってしまう。
時間を止められたかのように、引きつった顔のままで。
「あれが操られていたですと!?」
「えぇ、そうです。犯人はこのひと、ローグ伯爵様なんです!」
そして、私はびしっと伯爵に指をさす。
さぁ、ローグ伯爵、餌にちゃんと飛びついてくれるかしら。
「な、な、なにを言っておるんだ、お前は平民のくせに。私が犯人だと!? ドラゴンを操っていただと!?」
ローグ伯爵は引きつった顔のままで喚き散らす。
二言目には『平民のくせに』だなんて、相当の特権意識があるみたいだ。
あまりの動揺ぶりに、私は彼がクロであると確信する。
「私があのようなドラゴンを操れるはずがないだろうが! 証拠もないくせに、無礼者め!」
伯爵はそう言ってどんどんっと地団駄を踏む。
あまりにもわざとらしい脅迫方法。
私は彼が『証拠』という言葉を出すのを待っていた。
ふふーん、証拠ならあるもんね。
「ローグ伯爵様、あなた、この指輪に見覚えがありますよね?」
とはいえ、何事も単刀直入だ。
私はさきほどの指輪をローグ伯爵に見せつける。
「ひいぃっ、なぜ、お前がそれを持っておる!?」
伯爵の顔はひきつり、信じられないという顔をする。
「私が偶然歩いているとトビトカゲじゃなくて、ドラゴンがいて、その中から出てきたんです。ぽーんって」
「ぽーんだぁ!? そ、そ、そ、そんなもの知らん、知らんぞぉおおっ!!?」
ローグ伯爵はまずいと思ったのか、自分の右手を隠すような素振りをする。
おそらくきっと指輪を外そうとしているのだろう。
そう、そこには例の指輪がはまっているのだった。
「クレイモアさん、ローグ伯爵様の手を広げてあげてください。きっと指輪があるはず」
「わかったのだ! ほらほら、伯爵様、パーってやるのだよ」
私はクレイモアにお願いして、ローグ伯爵の手を広げてもらう。
「ぬぉおおお、何をするかっ!? 何だこいつの力は!? お、折れ、折れる!??」
ローグ伯爵は手をグーにして必死の抵抗を見せる。
しかし、クレイモアの力に通じるわけもなく、彼は手を机の上に広げることになる。
「同じものですね……」
リリがぽつりとつぶやく。
私の推測通り、ローグ伯爵の指には私が持っているもの同じものだった。
「ひ、ひひひ、これは、あのぉ、リース王国では流行っておりまして」
伯爵のひきつった笑いとともに、場の空気が凍っていくのがわかる。
こんな指輪が流行っているなんて、絶対にうそだと思う。
だって、禍々しいし。
「これは聖王国の魔獣使いの指輪ですやん! ふたつ一組でモンスターを操る魔道具でっせ! 一つがドラゴンの中から出てきて、もう一つが伯爵様が持っとった!? こりゃあ、えらいことですわ!」
クエイクがひょこっと現れて、ナイスなフォローをする。
ちょっと説明臭すぎる気もするけど、逆にいい感じ。
「これを使ってモンスターが操作できるかどうかはしっかり検証せなあきまへんなぁ」
クエイクはさらに続ける。
っていうか、彼女もメテオに似てきたなぁって思う。
「……ローグ伯爵、貴殿は、いや、貴様はわがサジタリアスをモンスターを使って攻撃したというのか!?」
「ひ、ひひ、そんなことは、そんなことはないぞ。花婿の私がそんな真似をするはずないではないか? 私を信じるのだ、辺境伯。こんな平民の言葉になど」
辺境伯は真っ赤になって激怒している。
この場で剣を抜きはしないかとヒヤヒヤする。
対するローグ伯爵の額からは脂汗がびっしり。
「このことはリース王国の女王陛下に報告させていただく! この商人の言う通り、指輪について調べてもらえば、白黒はっきりするだろう」
そして、辺境伯は伝家の宝刀を抜く。
リース王国の女王はめちゃくちゃ怖い人なのだと聞いている。
今回の件がバレてしまえば、ローグ伯爵の地位はかなり危うくなるだろう。
「そ、そんなぁ、それだけは……」
女王陛下の名前を出された伯爵はへなへなと床に崩れ落ちる。
ふふん、これにて一件落着ってね!
「ええいっ、あの女王などもはやどうでもいいのだ! リリアナ、お前だけでも私と来い! お前さえいればどうにでもなる!」
ローグ伯爵は床にお尻をつけて観念したかのように思えた。
血迷った伯爵は一瞬のすきを突いてリリの手を無理やり掴む。
「喰らえっ!」
「なぁっ!?」
伯爵は部屋の中に何かの魔法を放ち、クレイモアに直撃させる。
白い煙のようなものが充満して、前が見えない。
クレイモアが盾になってくれたけれど、煙が目にしみるし、呼吸も苦しい。
「ぶはは、リリアナはもらっていく!」
ローグ伯爵はドタドタと部屋の外に駆け出していく。
突然の魔法攻撃と逃げ足の速さにあっけに取られる私達。
「げほっ、げほっ、あのおっさんを取り押さえるのだよ!」
続いて、クレイモアの声。
もちろん、リリを連れ去らせるわけにはいかない。
私も急いで伯爵を追うのだった。
【魔女様の発揮したスキル】
髪の色変化:感情の高ぶりや熱の使い方に応じて魔女様の髪の色は変化する。現状では赤い筋が浮かび上がっている。たまに毛先だけ赤くなることもある。その髪の赤い部分は炎のように微妙に揺らめいており、見るものの心に『魂が燃えるような』感覚を与える作用がある。魔女様はまだ気づいていない。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様の髪、どないやねん……」
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