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94.魔女様はサジタリアスでも湯浴みする。案の定、わちゃわちゃになる。っていうか、クレイモア、あんたのせいだよ


「ユオ様、せっかくドレスを着替えるのでしたら、お湯浴びをなさいませんか?」


「する! します! させてください!」


 リリの部屋に行く途中、素晴らしい提案をしてくれる。

 あのトビトカゲをやっつける際にちょっとだけ思ったのだ。


 お湯に入りたい、と。


 もちろん、こちらには温泉どころか、お湯につかる文化がないのは分かっている。


 だから、お湯浴びだけでもできるのはすっごく嬉しい。



「それではこのお湯をお使いくださいませ」


 そいうわけで、湯浴みルームへと案内してもらう。

 リリのメイドさんが色々セッティングしてくれる。

 大きめの桶にほかほかのお湯。

 すっごくありがたいことだ。


 しかし、私は思ってしまうのだ。

 できることなら、お湯に浸かりたい。

 

 だって、一日に一回もお湯に入れないなんて、耐えられない体になっちゃったんだもの!

 もうちょっとこの桶が大きければなぁ……。


 そんなことを思いながら、辺りを見回すと、湯浴みルームには水道みたいなのがある。

 

 っていうことは……!!



「リリ、ちょっとお願いがあるんだけど……」


「ユオ様のお願いでしたら、なんなりと!」


「あのさ、大きな樽とか、桶とかないかな? なんていうか、人が入れるぐらいのサイズの」


「大きな樽? 桶? ……! わかりました! さっそく、ご用意しますね!」


 さすがはリリ、私の伝えたいことが分かってしまった。

 数分後、彼女のメイドさんたちは数人がかりで、大きな桶を持ってくる。

 頑丈そうな作りになっていて、大人が三人ほど入れそうなサイズ。


 しかも、水魔法の使い手まで呼んでくれて、桶に水を入れてくれる。


 さっすが、リリ!

 わかってるぅ!



「ふふ、お湯にしちゃうよん」


 私は水の中に手を入れると、適温まで温める。

 指先がじわじわと温まり、私は居ても立っても居られなくなる。

 

 よぉし、あとはこの中に入るだけだ。

 テンションは最高潮、いきなりマックスだよ。


 うししし、このお湯もけっこういい感じだぞ。



「あ、あのっ、ユオ様! わ、私もご一緒してはいけませんか?」


 そう思っていたら、リリはまだ部屋に残っていた。

 確かに、お湯を見せられちゃったら入りたくなるよね。


 私としたことがお湯への欲求を甘く見ていた。

 本当にごめん。



「もちろん! そうだ、クエイクも呼んできてくれない? みんなで一緒に入ろ!」


「わかりました!」


 そういうわけで、大広間に置いてけぼりにしていたクエイクも呼び出すことになる。

 せっかく大きな桶を用意してもらったのだ。

 みんなで入る方が楽しいよね。

 


「ユオ様ぁあああ、どこに行っちゃうんですかぁああ! 辺境伯とか、レーヴェさんとか、めっちゃ大変そうでしたよ!」


「いやー、ごめん、ごめん、反省してるってば、ごめんね」


 クエイクが血相変えて現れる。

 ちゃんと謝る私なのである。

 話を聞くに、やっぱり皆さん後片付けに奔走しているとのこと。

 


「それじゃ、お湯に入っちゃおうよ。うしし」


「なんだか新鮮ですね……」


「うひひ、つかの間の休息や」


 私達三人は比較的華奢なので、一緒に桶の中に入ることにした。

 

 すると、どうだろうか。

 体中を包むお湯の力は健在!

 はぁ、すっごくいいよ、普通のお湯でも気持ちいい。


 そりゃあ確かに温泉みたいにぽっかぽかになるって感じじゃないけど。

 うん、ストレスはしっかり消し飛びそう。



「そうだ! うち、えぇもん持ってきてたんやん!」


 クエイクは慌てた様子でお湯から出る。

 そして、彼女は自分のバッグから小袋を取り出す。



「うちの村の塩です!」


「塩!?」

 

 それは私達の村の塩だった。


 彼女いわく、村の温泉からとれた塩をお湯に入れてみるといいんじゃないか、とのこと。

 塩には邪気を払う効果があると聞くので、メテオと二人で考えてみたという。

 なるほど、面白いことを考えるものだ。


 さっそく、お湯の中に入って塩を溶かしてみると……。



「いいよ、これ! すごくいい!」


「す、すごいです! 芯までぽかぽかです!」


「めっちゃ、ええやん、これ! 次のヒット商品、間違いなし!」


 桶に浸かった我々は歓声を上げる。

 さっきとはぜんぜん違う。

 熱が体を貫いていく感じだし、肌にとろっとからみつく感じもある。

 温泉とは言えないけど、これはこれでいい感じ。


 クエイクの言うとおり、うちの村の特産品になるんじゃないだろうか?

 まぁ、塩はここいらでは高級品って話だけど……。




 だだだだだっ!


 三人で、ほぉおおと最高のお湯タイムを味わっていると、無理やりドアを開けるやつがいる。

 ドアの鍵をぶっ壊して開ける人物なんて一人しかいない。

 そう、現れたのはクレイモアだった。


「話は聞かせてもらったのだ! あたしもお湯に入る! ドラゴンがいなくなったので暇になったのだ!」


 彼女は自分がいかに残念だったかをまくしたてる。

 ドラゴンがいきなりいなくなったので、不貞腐れていたらしい。


 しかし、この子、どこで話を聞いたんだろう……。



「ふひひ、じゃんぷなのだっ!」


「ちょっと、クレイモア!? 順番がぁあああ」


 華麗なるはクレイモアの早着替え!

 ほとんど空中で服を脱ぐ、恐るべし身体能力!?


 彼女は三人ぐらいしか入れない桶に無理やりに体をねじ込む。

 リリはほとんどクレイモアに包み込まれる感じになる。


 ざっぱぁんとお湯が溢れ出し、クエイクが「あちゃあ」と声を上げる。


 お行儀が悪すぎる!


 だが、クレイモアはそんなことお構いなしだ。



「にゃははっ! これはいいのだ! 村の温泉並のあったかさ!」


 彼女はそう言って嬉しそうに笑う。

 うーむ、みんなで入るお湯っていうのはいいものだけど、定員は大事だよね。うん。



「よいしょっと。魔女様の背中を借りるのだよ〜」


 ……っていうか、クレイモア、人の背中の上にそれをのせるな!







「あっ、このドレス、かわいい!」


「ユオ様にそう言ってもらえると嬉しいです」


 それから私はリリに服を借りることになった。


 リリはさすがは辺境伯の令嬢だ。

 彼女の衣裳部屋はとっても充実していた。


 彼女のメイドさんがいくつかドレスを出してくれたんだけど、どれもかわいい。

 縫製も丁寧で素晴らしい。

 リリのドレスはリース王国のデザインとはちょっと違っていて、わくわくする。

 うーん、こういう時間っていいよね。

 そもそも私は追放されて以来、こういうかわいい服は着ていなかったし。



「ユオ様にはこれが似合うと思います!」


「いいね、これっ! やばい、超かわいい!」


 リリの提案するドレスはどれもかわいいものばかり。

 正直、結構迷ってしまう。


 複数枚、試着すると、私はあることに気づく。



 なんていうか、胸のところがちょっと、ほんのちょっとだけ「すかっ」としたのだ。

 なんていうか、ほんのちょっとだけだよ。

 誤差の範囲だけどね。


 私とリリは瘦せ型で、体型は似ていると思う。

 身長はちょっと私の方が高いけど。


 じゃあ、この「すかっ」っていう感覚はどうしてなの?


 リリのドレスは私の体にしっかりとフィットすると思っていたのに。

 いや、もっと言うなら、私の方がちょっと大きいぐらいかなぁ、なんて思っていたのに。



 うっそぉおお、リリ、あんたもか!?


 そんな風に絶望していると、リリはこんなことを言う。

 

「ユオ様、そちらは私の母親の形見のドレスなんです。ユオ様の身長にはそちらのほうが合うと思いまして……。ご迷惑ですか?」


「なぁんだ、お母様のなの!? それはもう、大歓迎だよ!」


 リリの言葉に小躍りする私である。


 お母様のドレスなら、ちょっと胸元が大きくてもしょうがないよね。

 どーりで、すかすかすると思った!


 私の内側に再び自信というか、安心感みたいなものがよみがえってくる。



 そして、気づく。


「リリ、私、あなたとずっと友達だよ!」


 リリと私は無二の親友であり、戦友であると。

 私は彼女の手をぎゅっと握りしめるのだった。




 追記


 ちょっと心残りなのが、このドレス、お母さんの形見って言っていたことだ。

 つまり、リリはこのサイズまで成長する可能性があるってこと。

 ララやクレイモアみたいに大きいわけじゃないとは思う。

 だけど、それなりに「ある」。


 リリもいつかそうなっちゃうのかなぁ?


 一抹の不安を感じながら、私はドレスをぎゅっと引き締めてもらうのだった。


 はぁ、私のお母さんはどういう具合だったんだろう……。

 



【魔女様が手に入れたもの】

魔女塩(お風呂用):いわゆるバスソルトといわれる代物。お湯に入れることで、温泉のような効能を示す。体を内側からぽかぽかに温め、湯冷めを防止する。塩はサジタリアスでは高級品であるため、普及するかは謎。しかし、回復効果からすると、あんがい、割に合った代物かもしれない。





◇ 一方、その頃ローグ伯爵は……生きとったんかいワレェ




「くっそぉおお、私のドラゴンがぁああ。大金をかけた計画がぁぁああ」


 死んだかと思ったが、私は生きていた。

 なぜかというと、あくまでも私はドラゴンと視界を共有していただけだからだ。

 私の本体はサジタリアス近郊の森に横たわっていたのだ。

 

 しかし、まるで悪夢のようなことが起きた。

 私のドラゴンが、私の英雄になる計画が消えてしまったのだ。


「ローグ伯爵様、これではもう打つ手はありません……」


 魔獣使いはそんなことを言うが、ここで諦めるような私ではない。


 まだ奥の奥の手、すなわち最終手段は残っている。



 それに私はあくまでもサジタリアスの恩人だ。

 私がいるからこそ、サジタリアスは塩を得ることができるのだ。


 サジタリアスに行けば、リリアナの婚約者として手厚く迎え入れられるに違いない。

 それに、リリアナが帰っていれば、すぐに結婚させる他ないはずだ。


 そうだ、別にドラゴンなどいなくても良かったのだ!

 私さえいれば、愛さえあれば、それで完了なのだ!

 

 ぶひゃひゃはははは!



「ロ、ローグ伯爵様、どちらに行かれるのですか!?」


「決まっておる。サジタリアスに花嫁を貰い受けにいく! すべては愛のために!」


「愛のために!?」


 そして、私は馬を走らせる。

 目指すはサジタリアス辺境伯の居城。

 リリアナを絶対に我が手におさめるのだ!


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「体は大人、頭は子供、その名は剣聖のクレイモア……」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 乗るような大きさ…(ごくっ
[気になる点] 湯浴みルームって、ようはお風呂場の事だよな? わざわざ水魔法使いまで連れてきたのなら、普通にお風呂に入れば良いのでは?
[一言] 女性のルパンダイブは珍しいw 四人で入れる風呂用桶の作成が急務ですね
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