91.魔女様、トビトカゲにお気に入りのドレスを汚される。そして、久々にキレる
「ドラゴンへの攻撃を開始せよ!」
辺境伯が号令をかけると兵士たちは大きな機械式の弓でトビトカゲへの攻撃を開始する。
どぉんっとお腹にひびく音とともに発射される弓矢は弧を描いてトビトカゲへと向かう。
なんだか光っているところを見るに、魔法もかかっているのかもしれない。
私は魔力ゼロなので何が起きているのか分からないけど。
「だ、ダメです! 遠すぎます!」
しかし、あまりにも距離がはなれているため途中で失速。
敵にあたることはなく、やすやすと避けられてしまう。
「まだこちらに近づくそぶりは見えません。魔物除けが効いているようです」
トビトカゲたちは空を一定の間隔で旋回している。
どんよりとした曇り空の中なので、ちょっと不気味だ。
「よぉし、あたしがこれで撃ち落としてくれるのだ!」
クレイモアは衛兵の持っていた槍を次から次へと投げ始める。
どぎゅんっ。
槍は敵めがけてまっすぐに向かい、トビトカゲをメチャクチャな勢いで貫く。
な、なんていう力。
兵士の皆さんも大きな声で歓声をあげる。
「見てください! 槍が直撃したものでも飛行しております!」
「あれは死霊ドラゴンです!」
「死霊ドラゴンだと!?」
観測手の兵士が言うには、死霊ドラゴンというのはその名の通り、ゾンビ化したドラゴンなのだそうだ。
そのため、物理攻撃をしてもなかなかダメージが通らないらしい。
うちの村の近所にはあぁいうアンデッドモンスターっていないから、とても珍しい。
私に言わせれば死霊化したトビトカゲってことになる。
ちょっと気持ち悪いかもしれない。
「辺境伯様、いかがいたしましょうか!? 数はどんどん増え始めております!」
弓でも槍でも有効な対策を講じることができず、慌てた声を出す兵士たち。
トビトカゲは次から次へと集まってきているらしく数十を超えている。
地上にひきつけてから戦闘するとなると、こちら側にも損害が出るかもしれない。
私の熱視線とか熱平面なら届く範囲だとは思う。
だけど、お手伝いするべきだろうか?
都市防衛はあくまでもサジタリアスの問題だと思う。
他の地域の領主である私が頼まれてもいないのに勝手に動くのはまずい気がする。
勝手にしゃしゃり出ちゃって『余計な手出しをするな!』みたいに怒られるのは嫌だ。
さっき色々やらかしちゃったからね。
兵士の皆さんは優秀そうだし、クレイモアもいるし、私はできるだけ目立たずに自重したほうがよさそうだよね。
「くっ、シルビアさえ無事ならどうにかできるだろうに!」
「父上、シルビアは完全に抜け殻状態です。近くに引き付けてから騎士団が叩くほかありません」
「それしかあるまい。よし、奴らが降りてくるのを待つぞ! 市民の避難はできているのか!」
「はい、滞りなく進んでおります」
辺境伯とレーヴェさんたちが今後の作戦について話し合っているのが耳に入る。
そっか、シルビアさんが余興の場で魔力を使いきっちゃったのが問題だったのか。
確かに本筋とは関係ないところで本気出しちゃう人っているよね。
あの人もそういうタイプなんだろうな。
「よぉし、こっちに来たらあたしがなぎ倒してやるのだ!」
クレイモアはむしろ嬉しそうな声を出して剣をぶんぶん振り回す。
ちなみに彼女の大きな剣はドレスたちがしっかりと修復してくれた。
クレイモアいわく、包丁が入っていない方が思う存分振り回せる、とのこと。
今までは包丁が壊れないか心配だったとのことだ。
うーむ、あれで手加減していたの?
素でおっそろしいんだけど。
「死霊ドラゴンの動きを片ときも見逃すな!」
兵士たちは口を真一文字に固く結び、隊列を組んで迎撃態勢を整え始める。
上空のモンスターたちはこちらに攻撃の意思は見せておらず、直接的な被害があるわけでもない。
もしかしたら、カラスみたいに上空を旋回しているだけかもしれない。
だったら様子見をしていればいいかな。
かなり不気味ではあるけれど、悪意のない相手をやっつけるのは好きじゃないし。
私はどんよりした曇り空を見上げながら、そんなことを思うのだった。
どちゃっ……。
ぼんやりと空を眺めている時だった。
私の隣に何かが落ちてきたのだ。
最初は雨かと思ったけど、明らかに違う。
その『褐色の何か』は明らかに腐臭を放っていて、非常に残念なことに飛沫で私のドレスのすそを汚してしまう。
このドレスには破損耐性があるって言われたけど、汚れ耐性はついていなかったみたいだ。
なんていうか、泥みたいな、ソースみたいな汚れがついちゃったじゃん!
「はえぇええ……?」
ショックである。
絶句とはこのことで、言葉がしばらく出てこなかった。
「私のドレスがぁあああ!?」
それこそ悲しさと怒りで涙腺がじわじわと熱くなるのを感じる。
一刻も早く着替えたい。
だけど、怒りの方が勝るとはこのこと。
……あんの、腐ったトビトカゲ!!
メテオが頑張って手に入れてくれた生地で、ララがこれまた一生懸命に裁縫して作ってくれたドレスを汚すなんて!
私の内側で何かがメラメラと燃えるのを感じる。
それこそシルビアとの余興の時よりも何倍もの熱を。
「死霊ドラゴンの毒息が落ちてくるぞ! 総員、屋内に退避し、機をうかがえ!」
さらに悪いことには、どっちゃどっちゃと汚い液体が所かまわず落ちてくるではないか。
モンスター除けの結界というのは、こういうのは防げないらしい。
兵士の皆さんは屋内に戻っていってしまった。
「これには毒があるぞ!」
「広範囲すぎて防御しきれません!」
しかも、さっきのあれには毒があるらしく、兵士たちもたまらず屋内に退避する。
私はヒートドレスを即座に発動させて、落ちてくる毒息を防ぐ。
じゅわー、じゅわーと嫌な音を立てながら、私の周りの毒の塊が蒸発していく。
さきほど私のドレスについた毒息も熱で分解されてしまったようだ。
しかし、どういうわけか汚れ染みはとれてない。
シミが!
私のドレスに!!
できちゃった!!!
ぷちっと何かが切れる音がした。
なるほど、あのトビトカゲ、こちらに対して悪意がありあまっているわけね。
こんなに汚いのをまかれたら、街の住民だって被害を受けている人もいるだろう。
お洗濯ものとか絶対にひどいことになってるはず。
なにより、私のドレスを汚してくれた代償はきっちり支払ってもらわなきゃ気が済まない。
あのトビトカゲ、きっちりお灸を据えてあげようじゃない!
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「ひぃいい、殺戮が始まる……」
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