89.ローグ伯爵の野望:まず好きな子の国をモンスターに襲わせるだろう?そして、僕がさっそうと現れて撃退するだろう?そしたら、僕は英雄扱いされて女の子にもモテモテだよね?
「なっ、何!? あれが失踪しただと!?」
「はっ、サジタリアスは否定しておりますが……」
婚姻の話が進んでまもなくのことだ。
肝心の花嫁であるリリアナ失踪の知らせが届く。
なんと儀礼のためにリースに向かう前日にリリアナが失踪してしまったとのことだ。
サジタリアスの「消えた令嬢」の話は貴族たちの間で瞬く間に噂になった。
「まずい、このままではまずいぞ……」
彼女はあと一年もすれば聖女のスキルを賜るはずだった。
それがいなくなってしまうとは全てのシナリオが狂ってしまう。
私のハーレムが遠ざかってしまう。
「お、おのれっ! お前ら、血眼になって見つけ出せ!」
私は部下どもを必死に激励し、リリアナを探させる。
だが見つかることはなかった。
サジタリアス辺境伯の領土からきれいさっぱりいなくなったのだ。
手下どもがいくら探しても、影も形もみつからない。
そうこうするうちに私の脳裏には嫌な想像が芽生えてくる。
もしかすると、道ならぬ恋にでも落ちて駆け落ちしたのかもしれない。
もしかすると、自分自身で命を絶ってしまったのかもしれない。
こんなことを考えると、わなわなと足元が震えてしまう。
「こ、こんなことがあっていいのか……!? 私のハーレムはどうなるというのか……」
続報を待つこと1か月あまり。
しかし、この失踪事件はあっけなくかたがついた。
リリアナはなんと禁断の大地に住む蛮族に囚われていたらしい。
彼女を奪還するためにサジタリアスが大規模な派兵を行なったとの知らせが届いたのだ。
かつて魔王との戦いで最前線にあったサジタリアス騎士団は武勇で知られていた。
騎士団には剣聖や天魔もおり、その武力だけならかなりの実力がある。
続報はなかったが、屈強な騎士団が蛮族を平定し、リリアナを取り戻したのは明らかだった。
「ええい、一刻の猶予も許さぬ! さっさと結婚の日取りを再調整するように伝えよ!」
胸をなでおろしたのと同時に、一刻も早く婚姻を成立させなければと焦り始める。
今回の件で痛感したのは、まだまだ婚約破棄される可能性があるということだ。
もしも、リリアナのスキル授与が終わってしまうと、辺境伯は心変わりをする可能性だってある。
有力な貴族が殺到する可能性も高い。
サジタリアス辺境伯に結婚式の日取りを早く決めるように伝え、それまでは塩を売らないことも合わせて伝えるのだった。
私は焦っていた。
すべてが上手くいくと思ってはいたが、それでも一抹の不安をぬぐいきれないでいる。
もちろん、悪いことなど起こるはずがない。
私こそが圧倒的に正しいのだから!
◇
「サジタリアスからの返事はまだか!」
予想に反して、サジタリアスからの返事は滞ったままだった。
確かに婚姻に好意的ではなかったものの、貴族間の政略結婚はよくあることであり、珍しいことではなかった。
魔法の能力も低いリリアナを我がローグ伯爵家がめとるというのは決して悪い話ではないはずなのだ。
それなのに返事がない。
もしかすると、別の要因ができて婚姻に渋り始めたのかもしれなかった。
どこかの商会が塩を売りつけ始めた?
どこかの貴族がリリアナと恋に落ちた?
邪推がつのり、心の中がざわざわしてくる。
「こうなったら、奥の手を使うぞ!」
私は奥歯を噛んで、別の計画を実行することにした。
いざという時のために用意していた奥の手である。
それはサジタリアスの危機を演出し、自分が英雄として現れるという計画だ。
「聖王国に使いを出せ! とびきりの魔獣使いを呼び寄せろ!」
そのために鍵になるのが、聖王国だ。
聖王国とは我々とは相いれない価値観で生きている。
やつらの特徴はある種のモンスターを操ること。
人間には忌み嫌われているモンスターであるが、それを使役する力をもっているのだ。
「聖王国ですか!?」
部下の一人は驚いた顔をする。
それもそのはず、はっきり言えば、聖王国の奴らなどと手を組むのは恥だ。
なんせ邪悪なモンスターの力を借りるというのだから。
しかし、手段を選んでいられる状況ではない。
なんだか悪い風が吹いている気がするのだ。
数日後、聖王国から魔獣使いが屋敷に現れ、我々はさっそく商談に入る。
「ぎひひ、さすがはローグ伯爵様。ここまで対価を頂けるとは思いませんでした。とびきりの死霊ドラゴンを群れでご用意しましょう」
かなりの代金を積むと、聖王国の魔獣使いはそう言ってほくそ笑む。
それにしても、ずいぶんと品のない笑い方をする。
「ぐひひっ、よろしく頼むぞ」
私はやつとがっちりと手を組む。
目的はただ一つ、モンスターをあやつってサジタリアスを恐慌状態に陥らせること。
空からその威容を見せつけて、人々を恐怖に陥れるのだ。
つまりは、サジタリアスの危機を自作自演するという計画なのである。
「ローグ伯爵、襲撃の際にはこちらをお使いください」
魔獣使いはそう言うと、指輪を2つわたしてくる。
話を聞けば、その指輪は魔道具で魔物を操り、魔物と視界を共有できるものなのだそうだ。
自分が一つを付けて、操る対象の魔物にもう一つをつければよいとのことだ。
「これを使えば、サジタリアスの市民たちが驚き焦る様を楽しめますよ。ぎひひ」
「なるほど、それは楽しめそうだ」
やつは品のない笑みを浮かべ、そう言うのだった。
私は指輪を受け取ると、どんな光景が見えるのかとニヤニヤする。
「計画が成功したら、さらに倍払ってやるからな」
「ぎひひ、必ずや成功させてみせます。サジタリアスを脅かしてみせましょう」
我々は二人で大笑いするのだった。
◇
「これで私が英雄となれる!」
私はワクワクしている。
死霊ドラゴンが空を覆い、サジタリアスの人々が恐怖している中、さっそうと私が現れるのだ。
『サジタリアスの民よ、心配するな! この私がついている!』
そんなことを言いながら、私が光魔法を発する。
そして、その合図と共に魔獣使いがモンスターを操って退散させる。
はたからみれば、大量のモンスターを私が退治した感じになるだろう。
そうなれば、私はサジタリアスから救国の英雄として称えられることになる!
『さすがはローグ伯爵様!』
『すごいです!』
『お嫁さんにしてください!』
サジタリアスの人々は私をこんな風に褒めそやすことだろう。
そして、私は英雄としてリリアナを連れ帰ることになる。
英雄と結婚できるのだ、きっとリリアナも誇らしいことだろう。
ぐふふ、我ながら、なんと見事な作戦なのだ。
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