88.ローグ伯爵の野望:せっかく貴族に生まれたのだから好きに生きたいと思います。隣国の美少女と結婚するためにあの手この手を使ってみたら、いい感じに嫁にできそうです。
「ローグ伯爵さま、ついに聖女候補が見つかりました!」
私の名前はトラットリア・ローグ。
栄えあるリース王国の伯爵貴族様だ。
私は今、歴史的な瞬間に立ち会っていた。
「ふははは! よくやったぞ!」
聖女発見の知らせに私の胸は躍る。
聖女、それは生命を司る聖なる神より授かることのできる高位のスキル。
生命力を活性化させる最高位の回復魔法を使い、一度に大勢の人を癒すことができる存在である。
剣聖と同じく、各世代に一人か二人程度現れ、その力は国全体を大きく左右するとさえ言われているスキルなのである。
そのため聖女のスキルを発現した場合にはすぐさま有力者に召し抱えられたり、そのまま有力者の妻となるのが通例だ。
特に魔法の能力によって人間の価値を測るリース王国においては、聖女を擁することは大きな発言力を持つことに等しい。
逆に言えば、大陸中の貴族が聖女を見つけ出そうと、常に躍起になっている。
聖女を迎えるということは、その家の未来を大きく左右することなのだ。
ある日、私はある老婆から聖女に関する「予言」を引き出した。
この老婆は予言スキルを持ち、王国でも有数の神官でもある。
私はその老婆に多大な金銀財宝を与え、そのスキルを独占していたのだ。
「どこに生まれるのだ?」
「北の辺境伯の娘でございます。おそらくはザスーラ連合国、もしくは聖王国でしょう」
その予言とは「北の辺境の土地を治めるものに聖女が生まれる」というもの。
続けて、その髪の毛の色や背格好までを紙に書きだす。
・背丈は大きくなく華奢
・ピンク色の髪
・人目を引く美貌の持ち主
ふむふむ、なるほど、私にちょうどいい結婚相手ではないか。
「よいか! 草の根わけても、この娘を探し出せ!」
さっそく密偵を通じて、聖女に該当する女子が本当にいるのかを調査させる。
リース王国の塩を扱っている我がローグ家の財力は絶大だ。
ラインハルト家とも強いパイプを持ち、リース王国でも強い権力を有している。
そんな私にとって聖女候補を探すことなど造作もないことだった。
「ローグ伯爵様、この娘ではないでしょうか。名前はリリアナ・サジタリアス! サジタリアス辺境伯の一人娘です」
その調査の中で一人の少女が浮かび上がる。
それは隣国の辺境伯の娘であり、外見的な特徴は予言と一致する人物だった。
しかも、得意とするのは回復魔法。
これは明らかに信頼できる!
それともう一つ付け加えておかなければならないのは、リリアナの外見の情報は非常に私好みだったということだ。
大きな瞳に高い声。
起伏の少ない体も非常に好ましい。
どんぴしゃだ。
ぐふふふ、これはたまらん。
「リリアナ・サジタリアスがスキルを発現させる前に我が勢力に引き込むぞ!」
私は予言を真実であると判断すると、老婆に高い口止め料を支払う。
情報が洩れでもしたら大陸中の有力者が聖女を求めて殺到するだろう。
過去には聖女のより上位のスキルである「大聖女」を発現させた少女をめぐって、血で血を洗う大戦争が起こった例さえあるのだ。
もっともその時の大聖女は戦争が起きたことを苦にして、自ら命をたったそうだが。
「リリアナがスキルを授与されるまでにまだ時間はある。硬軟両方の手段を通じてサジタリアス辺境伯を調略せよ!」
私はリリアナを自分の身内に引き込むための策謀を開始させる。
運の悪いことに相手はザスーラ連合国で大きな勢力を持つ、サジタリアス辺境伯だ。
禁断の大地と隣接するサジタリアスは屈強な騎士団を擁し、その勢いは私の耳にも届いていた。
いくら私がリース王国の有力者だからと言って、そう簡単に嫁にもらえるとは思えない。
そこで、私はありとあらゆる手段を講じることにした。
私が注目したのが塩の取引だった。
サジタリアス辺境伯の属するザスーラ連合国は多数の諸侯が連合する形で国を形成しており、その権力構造は一枚岩ではない。
貴族どもは土地や資源の所有権を争い、水面下では激しいつば迫り合いが日常的に行われていた。
例えば、敵対する勢力には塩や魔石などの戦略物資を制限するといった経済的な争いが横行していたのだ。
ぐふふふ、これを利用しない手はない。
「サジタリアスを塩の取引で揺さぶってやるわ……」
そのためザスーラ連合国の諸侯に働きかけ、サジタリアス向けの塩の取引を制限させる。
塩は市民生活の必需品だ。
これが無くなると一気に生活は貧しくなる。
結果、いとも簡単にサジタリアスを揺さぶることができたのだった。
塩の流入が極端に少なくなくなった辺境伯は、泣きつくように直接取引を打診してきた。
サジタリアス辺境伯が相当困っていたのだろう。
わざわざリース王国の王都までやってきて、私と面会したのだ。
しかし、ここで素直に受け入れるほど私は甘くない。
「……申し出はありがたいが、ザスーラ連合国の塩の取引は他の貴族様を通しております。サジタリアス辺境伯殿が信じられないとは申しませんが、やはり、信頼関係というのは一朝一夕には築けないものですからね」
「なっ、何か条件があるのならおっしゃってください。できるかぎり善処いたしましょう」
「ふふ、辺境伯どの、私は妻に離別され、寂しいかぎりです。そろそろ次の伴侶をと考えていたのですよ。確か辺境伯には妙齢の娘さんがいらっしゃったはず」
「そ、それはつまり、リリアナを伴侶に欲しいと……」
ここで私が示したのが「関係強化」のためのリリアナとの政略結婚だった。
当然、娘を溺愛するサジタリアス辺境伯は難色を示す。
しかし、塩が入手できない領民たちは次第に不満の色を濃くしていくのは明白だった。
これに加えて、私はサジタリアス辺境伯の領土に間者を放つ。
『塩が手に入らないのは辺境伯のせいだ』
そんな噂を村々に流すことで、領民たちの不満をさらにあおった。
辺境の民は気性が荒く、サジタリアスでは過去に何回も反乱が起きている。
数十年前に起こった反乱ではいくつもの村が焼け落ちてしまったと聞く。
つまり、辺境伯は治安と私情を天秤にかける事態になってしまったのだ。
◇
「ローグ伯爵殿、先日の話を前向きに受けようと思う……」
数か月後。
領民の不満を抑えきれないと判断したサジタリアス辺境伯はリリアナの婚姻について前向きな返事をしてくる。
この言葉を聞いた瞬間、私は踊りだしたい気分だった。
実際に顔合わせをした際にはもっと踊りだしたい気持ちだった。
ドレスに身を包んだリリアナ・サジタリアスは報告以上にかわいらしく、まるで花のようだった。
小動物のように少し怯えた様子も私の嗜虐心をくすぐる。
よぉし、さっそく婚約だ。
ふくく、私の人生、まさに始まったぞ!
「ぐわはは! 上手くいったぞ。ついには我がローグ家に聖女を擁することができる!」
聖女を通じて国家の中枢に食い込める。
そう心の底から歓喜した。
そして、聖女を擁することにはもう一つのメリットがあった。
それは我が盟友、ラインハルト家が蜂起をする際の旗印として聖女を担ぎ出すということだ。
現在のリース王国のハーフエルフの女王は見た目は少女のようで素晴らしい。
しかし、性格が最悪なのだ。
貴族の行動に目を光らせ、常に震え上がらせている。
姿は若いが、内面は醜悪な化け物だ。
姿は最高に好みだが。
とはいえ。
持ち前の魔力で人を震え上がらせ、自分の意見を押し通す女王。
そんなものについていきたいと本心から思う貴族がいるだろうか?
いるわけがない。
そして、もし、蜂起の際に美しい聖女が『邪悪な女王を誅すべし』と号令をかけたらどうなるだろうか?
おそらく大半の貴族は女王に反旗を翻すだろう。
「ぐふふふふふ。これでハーレム作り放題だぞぉ」
そして、私はリース王国を『正しい人間の国』に変えた偉人として、人々から尊敬されることになる。
もちろん、美少女だらけのハーレムを作ることになるだろう。
リリアナをその筆頭に据え、世界中から美少女を集めよう。
ザスーラ連合国南部に住む猫人も愛らしい。
ドワーフ王国の女ドワーフも筋肉質で素晴らしい。
忠誠心のある美貌のメイドも必要だ。
それに剣を扱える女騎士もハーレムに加えるべきだ。
あとは優秀な魔法使い、これもまたいい。
私は未来予想図にうっとりする。
だからこそ、聖女の存在は不可欠なのだ。
絶対にどんな手を使ってでも手に入れなければならない。
ぐふふ、輝く未来はもうすぐやってくるぞ。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「ローグ伯爵のハーレム、どっかで聞いたことあるな……!?」
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