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87.【おまけ・スキップOK】天魔のシルビアは人生で二度目の敗北を喫する

 その自称・灼熱の魔女は黒髪の少女だった。

 このあたりの地域では珍しく、あきらかに異質な存在に映る。


 しかし、異質なのは外見だけではない。


 彼女は予想もしない方法で現れた。

 なんとサジタリアス辺境伯の城をモンスターに乗って襲ったのだ。


 そのモンスターは真っ白で、毛がふさふさに生えた狼だった。

 シルバーウルフによく似ているが、目鼻立ちが全く違う。

 見たことのない種類のモンスターだった。


 毛がもふもふとしており、一度、触ってみたい衝動に駆られる。

 実をいうと、私はこういう生き物が好きだ。

 普段はすました顔でいるけれど、あぁいった生き物が大好きなのだ。


 あの生き物の毛に埋もれてみたら、どんなことが起こるのだろう?

 実をいうとさっきからそれが気になって仕方ないのだった。

 う、羨ましくなんかないぞ……。



 だが、相手は灼熱の魔女を騙る女。

 決して油断することはできない。

 そう、私には任務があるのだから。




「ユオ・ヤパンと申します」


 彼女は貴族風の挨拶をした後、それから笑顔で自分の名前を名乗る。


「ヤパンだと!?」


 辺境伯様の側近たちからどよめきが起こる。

 ヤパンの姓を名乗ること、それはすなわち、禁断の大地の主であることを宣言することだからだ。


 屈強を誇るサジタリウス騎士団さえ開拓できない、あのヤパンの大地を領有する。


 彼女はそれを伝えに来たのだった。



 しかし、このまま彼女を無事に帰すことはできない。

 私には彼女の能力が偽物であることを暴く仕事が与えられているからだ。


 幼いころから魔力を研ぎ澄まさせてきた私は相手の魔力の大きさが手に取るようにわかる。

 そのユオとかいう少女からは一切の魔力が感じられない。

 おそらくは底辺。

 それもかなり下だ。


 魔法使いという視点で見れば、ごみ同然であり、私の前に立つことさえおこがましい。




「シルビア、出番だぞ」


 辺境伯様の声と共に現れた私は、金剛氷柱を出現させる。

 光り輝くその姿は美しく、きらきらと光を反射している。


 自称・灼熱の魔女に与えられた課題は私の金剛氷柱を溶かすこと。

 しかも、この氷柱はクレイモアでさえ割ることができなかった。

 

 ふくくっ、こんな底辺魔力の小娘が私に勝てるはずがない!


 私は内心、ほくそ笑むのだった。




「えいやっ」


 しかし、起きたことはありえない光景だった。


 私の生みだした金剛氷柱に魔力ゼロの小娘が亀裂を入れたのだ。

 しかも、あろうことか、なんの緊張感もなく、なんの力みもなく。


 どうして、「えいやっ」で!?


 どうして、横一文字に亀裂が入る!?


 この少女は最底辺の魔力量しか持ち合わせていないはずだ。

 そんな彼女が魔力の塊である氷塊に傷をつけるのは不可能なはず。


 ありえないし、あってはならない。

 私は背中にぞくぞくしたものを感じながら、全力で金剛氷柱を立て直す。

 こんなところで割れてしまっては話にならない。




「これはどうだっ」


 続いて彼女は赤い四角形を出現させる。

 魔力は感じられないが、おびただしい熱を発していることはわかる。

 おそらく、かなりの熱量だろう。


 しかし、あんな魔法はみたことがない。

 古代魔法の一種なのか、それとも禁術なのか。


 それはゆっくりと私の氷柱にめり込んでいく。

 何の抵抗もなく、まるでチーズにフォークをつきさす時のように。


 ど、ど、どうして私の金剛氷柱にそんなに簡単に穴をあけることができる!!???

 

 気づいた時には、氷柱に真四角の穴が開いていた。

 しかも、そこから大量の水がこぼれ落ちていく。



「ぐっ……」


 そして、私の体からはおびただしい量の魔力が流出していく。

 クレイモアによって受けたヒビを修復するだけでも相当の魔力を必要としたのだ。

 並の魔法使いなら1日は寝込むだろう。


 私が行なっているのは割れた氷を自動で修復する術式であり、水を補充する術式だ。

 高速で大量の魔力を費やすからこそ、桁外れの硬さを維持できる。


「おぉっ、再び固まったぞ!」


 兵士たちから声が上がる。

 そう、奴の出したわけのわからない赤い四角形は消え、私の氷柱はなんとかその姿を保っていた。


 当初の形からは大幅に崩れており、見栄えは悪い。

 しかし、それでもまだ溶かしたとは言えない。


 そうだ、勝ち負けで言えば私の勝ちだ!

 勝った!

 私は身の程知らずな蛮族の娘に勝ったのだ!


 はぁはぁ、と肩で息をしながら、私は自分の勝利を確信する。




「……くっ、どうだ! 私の魔法の恐ろしさがわかっただろう! お前もいい加減、あきらめたらどうだ!」


 もっとも、私の精神と肉体には非常に大きな負荷がかかっていた。

 この勝負の後、私はしばしの休息を必要とするだろう。


 しかし、それであっても禁断の大地の田舎者に負けるよりは遥かにましだ。

 ましてや『灼熱の魔女』を騙る不届きものに泥を付けられるなどあってはいけない。


 師匠は常に言っていた。

 いざという時に力を発揮できないのならば、その力は偽物だと。


 私は天魔のシルビア。

 サジタリアスを守るものであり、ザスーラ連合を勝利に導くものだ。


 絶対に負けられない!!




「しょうがない、これでいくか」


 少女はそう言うと緊張感なく氷塊へと向き合い、何かを念じるように目を閉じる。


「う、嘘でしょ……。まだ、力が残ってるなんて……」


 まさか嘘であってくれと心から願う。


 『しょうがない』程度の覚悟で、私の金剛氷柱を溶かさないでくれ。

 私は半ば願うような気持ちになるが、それでも渾身を振りしぼり魔力を氷柱に込める。


 負けてたまるか!


 私のこれまでの人生すべてが込められているのだから!




「な、なんだ、あの四角いのは!?」


 辺境伯様がつぶやいた次の瞬間、真っ赤な直方体が空中に現れる。


 それは私の氷を囲い込んで、まるで閉じ込めるような様相を呈する。


 そ、その赤いのでどうするつもりなのよ!?



「ぐっうううう」


 刹那、私の体に大きな負荷がかかる。

 あの直方体から猛烈な熱が伝わり、私の氷柱を溶かし始めたのだ。

 一切の加減もなく、一切の躊躇もなく。


 じわじわと氷が溶けだしていくのを感じる。

 

「負けるかぁあああ!」 


 それでも私は必死に自分の魔力全てこめて水を生み出し、それをすべて氷へと変換していく。


 私の体から一気に魔力が抜けていく。


 だが、負けられない、天魔の二つ名にかけて!




 ……ばしゅっ。




 だが、私の頑張りは及ぶことはなかった。


 突然、目の前が真っ白になり、前後不覚の状態におちいってしまう。

 薄れ行く意識の中で私はあるものを目撃する。

 

 私の目に映る少女の髪の毛は、燃えるように赤かった。

 

 どんな炎よりも真っ赤だった。


 熱い。

 体が熱い。

 

 それを見ているだけで、つま先から髪の毛まで問答無用で焼き尽くされるような感覚が私をおそう。

 

 うそ、まさか、あれって本物の——————


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「シルビア、相手がアレすぎたね……」


と思ったら


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― 新着の感想 ―
[一言] 小話長すぎてこれだと読者離れるから 一旦章完結させてから裏話的な感じでまとめて出すといいと思います。
[良い点] なし [気になる点] ものがたりをはやくすすめてほしい。
[一言] 全然話が先に進まんな アザーサイドの視点なんか要らんやろマジで
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