82.魔女様、サジタリアスの二枚看板の一人、天魔のシルビアと対決する
「副団長の言い分では、お前が本当に灼熱の魔女かはわからぬ」
場所はサジタリアス辺境伯の居城。
今、私はサジタリアス辺境伯にかなりきつめになじられている。
向こうは私を野蛮人もしくは、<<灼熱の魔女>>を名乗る痛い女だと見ているようだ。
うむむ、これでは塩の取引について切り出す暇もない。
「リリが世話になった手前、私も鬼ではない。城に攻め入ったのを不問にしてほしいのなら、その能力を見せてみよ」
「私の能力を、ですか?」
辺境伯は落ち着いた口調でそんなことを言う。
うーむ、私の能力を見せてほしいねぇ。
私の能力なんてお湯をわかすことぐらいしかできないんだけどなぁ。
「そうだ。無事にこの城から出たければ、の話だが」
そういうと、騎士たちは剣を抜いて構える。
さっきまでの乱れた空気とは異なり、明らかに統率された動き。
「ひぃいいい、そんな殺生な!?」
刃物を向けられたクエイクは私の後ろに隠れる。
あっれぇ、どういうわけかケンカ腰なんだけど。
まぁ、お城を壊しちゃったし、弁解の余地もないけど。
ぐーむ。
塩をもってきた恩人として大歓迎されるはずが大変なことになってきた。
レーヴェさんあたりが私をフォローしてくれると助かるんだけど。
とりあえず、レーヴェさんに『助けて』と視線を送る。
「父上、彼女をこれ以上、刺激するのは危険です!」
レーヴェさんは辺境伯に大きな声で抗議してくれる。
その顔色はかなり青白くなっていて、危機感がありありと伝わってくる。
さっきはつれない態度だったけど、私のことを思いやってくれているのだろう。
しかし、私を刺激すると危険ってどういうわけ!?
それだと、私がものすごくヤバい存在みたいじゃん。
案の定、「き、危険なのか!?」などと、辺境伯の周りはざわざわしている。
私はどこからどうみても人畜無害ないたいけで薄幸そうな女子でしょうが。
「レーヴェ、お前は甘いのだ。相手が誰であろうと、ここはわしの城だ。貴族たるものいかなる脅威にも屈してはならない」
「しかし、彼女はその気になればこの場にいる全員を」
「黙るのだ。サジタリアスの住民を守り、ザスーラ連合国の辺境を守るものとして、無礼な侵入者をただで帰すことはできない。それはわかるな?」
「くっ……」
レーヴェさんは辺境伯に諭され、苦い顔をして引き下がるのだった。
彼は私に対して目を伏せて謝罪を伝えてくる。
うん、相変わらずいい人だ。
それにしても、レーヴェさんは何を言いたかったのだろう。
私がその気になればこの場にいる全員を……?
……温泉に全員ご招待しちゃうぞ、とか?
それぐらいしか思い浮かばない。
「シルビア、出番だ。真偽を確かめるがよい」
それから辺境伯が右手をあげると、その右側から魔法使い然とした服装の女の人が突然現れる。
おそらくきっと魔法か何かで姿を消していたのだろう。
「仰せのままに」
彼女はそう返事をすると、こちらに歩み寄ってくる。
とんがり帽子に刺繍の入った黒いドレス。
かなりミステリアスな雰囲気。
胸元ががばっと開いたドレスなんか着ちゃって、大きなお胸を強調したいらしい。
ふん、羨ましくなんか、ないもんね。
っていうか、ちょっと露出し過ぎなんじゃないの?
「私はシルビア・フォートレイク。天魔なんて呼ばれてるわ。よろしくね、自称、灼熱の魔女様」
女の人はニヤニヤしながら自己紹介をする。
天魔のシルビアなんて人は聞いたことないけど、なんかかっこいい雰囲気。
「シルビア様だ……」
「あんな小娘に天魔をぶつけるなどと……」
彼女は有名人らしく、周りの人々はざわざわと声をだす。
「ふふふ、あはは、おっかしぃ。灼熱の魔女だなんてリアルで言ってるの初めて見た。こんな貧相な娘が魔女なわけないじゃない」
彼女はそう言って大笑いする。
そりゃあ、私だって目の前に灼熱の魔女を自称するひとが現れたら笑っちゃうよ。
だけど、バカにされるのは性に合わない。
私だって自分が灼熱の魔女だって心から認めてるわけじゃない。
ただちょっと熱を扱うのに長けているだけだし。
本職は熱でレンガを焼いたり、熱でモンスターを撃退したり、熱で村の気候を変えたり……。
あれ、私って何者なんだっけ?
「辺境伯様の手前、暴れるのは求めてないわ。……この氷を溶かしてくれれば認めてあげる」
シルビアはそういうと私たちの面前に巨大な氷の塊を浮かばせる。
見た感じ、ララの氷柱撃の魔法で出てくる氷を10倍ぐらいに大きくした感じだ。
どうやらこれを溶かすことで私の能力を見てくれるのらしい。
ふーむ、氷ね。
それぐらいなら訳ないと思うけど、溶かせっていうのなら蒸発させないようにコントロールしなきゃ。
「それぐらいの氷ならあたしだって簡単に破壊できるのだよ! 素手で十分なのだ!」
取り掛かろうと思ったら、クレイモアが腕をぶんぶん振って自分にやらせてほしいという。
彼女が空気を読まないのは相変わらずだ。
いや、勝負事にはしゃしゃり出ないと気が済まない性分なのかも。
「せいやっ!」
クレイモアは氷の前で拳を構えると、少しだけ精神を統一させる。
彼女の筋肉から発せられる猛烈なパンチの威力は私だって知っている。
ぶおんっとものすごい音をして繰り出される、大ぶりのパンチ。
一撃でももらったらすぐに命がなくなるやつだ。
氷の塊なんて粉微塵になってしまうだろう。
ぎしいぃいいいい。
——だが、しかし。
破壊音がしたものの、氷の塊は砕けなかった。
一瞬、ヒビが全体に入ったものの、すぐに固まってしまったのだ。
クレイモアは「あれぇえええっ!?? おっかしいのだ」と声をあげる。
彼女的には手ごたえがあったのかもしれない。
「くっ、馬鹿力が……」
シルビアはクレイモアの一撃をみて、少しだけ忌々しそうな顔をする。
とはいえ、氷柱に入ったヒビは何事もなかったかのように修復され、宙に浮かび続けている。
岩を砕くクレイモアの一撃でも割れない氷柱。
つまり、この氷柱は普通の氷の塊じゃないってことだ。
それを溶かしてほしい、ね。
「それじゃ、やってみます。皆さん、ちょっと離れていてくださいね」
「おいおい、やるつもりらしいぞ」
「くふふっ、自称、灼熱の魔女のお手並み拝見だな」
私が大きな氷の塊の前に歩み寄ると、周囲から苦笑の声が漏れる。
どうやら、この氷を溶かすことなどできないと踏んでいるようだ。
確かに私みたいな細腕の少女がどうこうできるとは思えないかもしれない。
だけど、熱を扱うのなら得意なんだよね。
……それと、シルビアっていう、お姉さん。
私のことを「貧相」って言ってくれたこと、忘れてないからね!
ちょっと華奢なだけだし、まだまだ成長期だし!
いつか、あんたみたいな服を着てやるんだから!
私は静かにメラメラと闘志を燃やすのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「どう見ても魔女様を刺激してもうてるやん……!?」
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