77.魔女様、騒音騒動を解決する
「今日こそはお茶日和よね」
窓から差し込む柔らかな日の光、爽やかな風がレースのカーテンを揺らす。
クレイモアたちのごたごたも解消され、塩づくりもめどが立ち、今日は久しぶりにお茶を飲める日なのである。
お茶を飲んだら、美味しいものを食べて、ゆっくりと温泉に浸かりたい。
うん、絶対にそうしたい。
クレイモアが朝焼いてくれたスコーンは絶品の一言だった。
だけど、彼女いわくバターがないので力が出ないらしい。
なるほど、確かにおいしいけどあっさりしているかもしれない。
バターかぁ。
うちの村には牛も山羊もいないんだよなぁ。
街道さえあれば家畜を他の場所から連れてこれると思うんだけど。
今度、クエイクに頼んで持ってきてもらおうかしら。
「むふふ、クレイモアはいい戦力やで。さすが暴力で勧誘しただけあるわ」
「ユオ様が包丁をつきつけて脅した時はほんまどうなるかと思ったけどな」
スコーンの焼ける香りにつられたのか、いつのまにかメテオとクエイクの姉妹が現れる。
猫人だから鼻がいいのだろうが、それにしても一言多い。
この間のクレイモアの包丁を手渡した感動的なシーンは『私が彼女を包丁で脅して料理させた』に変換されているらしい。
「それって最悪すぎるじゃん! 私はそんなにバイオレンスじゃないんだけど!」
メテオたちに抗議するも、どうも角度によってはそう見えたとのこと。
あの場面は井戸端会議の話題や酒場での話題になっているとのこと。
村の中の強者ランキングとやらでも、私は堂々のSSS++クラスとかいう訳のわからない領域に祭り上げられている。
正直、やめてほしい。
いや、やめさせなければならない。
今度、それを作ったやつを見つけたら一言言ってやらなきゃいけない。
……メテオかクエイクの気がするけど。
「まぁまぁ、ご主人様、お茶を召し上がってくださいませ」
ララは笑顔でハーブティを差し出し、私の気分を取り直してくれる。
「うん、美味しい」
禁断の大地の花で作ったお茶はバラのような香りがして、心がとっても華やいでいく。
こうやってお茶が無事に飲めるのはこの上ない喜びだ。
あとは誰も私の屋敷のドアを叩かなきゃいいけど。
どっがぁああああああん!
「うわっ、なんやねん!?」
「ひぃいいいい、ドラゴンやろ、ぜったい!」
屋敷のドアを叩くものはいなかった。
しかし、屋敷が壊れるかと思うぐらいの音がどこからともなくやってきた。
耳をつんざくような大音量で、耳の奥がきぃんっとする。
「な、なんなのよ、いったい!?」
屋敷の振動が収まるのを待って、私は外に出る。
どうやら村の外からとんでもない音がしているようだ。
呆然としているとさらに、どっかんどっかんと爆発音が響く。
普段ならハンナが呼びに来てくれるはずだけど、交戦中なんだろうか。
「ララ、とりあえず、行くわよ!」
こうなったら仕方がない。
村の平和を守るため私は村の外へと駆け出すのだった。
◇
「どりゃああああ! 喰らうのだ! 撃滅質量保存の打撃!」
「あははは、悪いけど受け流します!」
……轟音の理由はこいつらか。
村のまわりにはレンガでできた壁がある。
その外側でハンナとクレイモアが戦っていたのだった。
あたりには土煙が舞い、地面には穴が開いている。
この間、仲直りしたはずなのに、また仲違いしたのだろうか。
「ハンナ、もっとしっかり受け流すんじゃ! クレイモアは動きが単調じゃぞ! 身体能力だけに頼るな!」
そう思っていたら、村長さんもいてハンナに何やらアドバイスを送っている。
村長さんとハンナとクレイモアの三人がそろってトレーニングでもしてるんだろうか。
「おぉっ、魔女様! お元気そうで何よりですじゃ。はて、何かありましたかの?」
「魔女様、ひょっとして魔物ですか? 今日は平和だと思ってたのに」
「おぉっ、黒髪魔女っこ様なのだ! あたしのスコーンは美味しかったのだ?」
私に気づいた三人がこっちのほうに駆け寄ってくる。
三人とも瞳がキラキラしてまぶしい。
いやいやいやいや、何かありましたかじゃないわよ。
あんたらの音がうるさくて魔物かと思ったんでしょうが!
あと、クレイモア、人のことを魔女っこって呼ぶのは止めなさい。
「あちゃー、音がうるかったかいのぉ。最近、耳が遠くていかんのぉ」
村長はそう言ってとぼけている。
「ふふふ、ここからもっともっと大きくなりますよ!」
ハンナは趣旨を履き違えている。
「スコーンには森キャロブが入ってたんだけど、どうだったのだ? 美味しかったのだ?」
クレイモアは自分の料理の感想に夢中な様子だ。
要するに、三人はすっとぼけているわけなのだ
こいつらわざと天然なふりをしてるんじゃないでしょうね。
「いや、だから、あなたたちの音がうるさくて、村のみんながびっくりしてるのよ!」
私は溜息を吐いて、村長に轟音についてどうにかできないかとたずねる。
そりゃあ、村を守るためにトレーニングすることは素晴らしいとは思うけどさ。
「魔女様、ハンナもそろそろスキル授与の年頃ですじゃ。そのため白昼の剣聖に訓練してもらってるんです。これから強い敵も出てくるかもしれんし、許してやってくれんかの」
村長さんはそう言って「がははっ」と笑う。
口調と笑い方が相変わらずミスマッチだ。
「ハンナは強いのだ。なんていうか、しゅばっと速くてびしゅっと斬りこんでくるタイプなのだよ!」
クレイモアはハンナの剣技を絶賛するけど、あまりに感覚的で分からない。
しかし、その熱い口調から、クレイモアもハンナの腕を認めているのはわかる。
どうやら二人ともしっかりとハンナを育てたいという思いがあるようだ。
「魔女様、わしももうずいぶん、いい年です。いつぽっくり行くかも分かりません。そこで、後継者を育てたいと思っとるんじゃ。どうにかご容赦いただけませんかの?」
村長さんは私の瞳をじっと見てお願いしてくる。
うーむ、この頑強な爺さんがなくなるなんてことがあるんだろうか。
剣聖なのに素手で魔獣を倒すようなじいさんが。
「剣聖、騒音、後進の育成……! これはビジネスチャンスやでっ! クエイクいくでぇ!」
「ひえぇえ、お姉ちゃん、なんやねん!?」
メテオは何かを思いついたらしくクエイクを連れて村に帰っていく。
相変わらず何かを企んでいるみたいだけど、案外役に立つことも多いので放っておこう。
「私からもお願いします! このテクニック皆無の巨女に勝てないなんて、あってはならないことです!」
ハンナは私の手を取って、目に涙を浮かべて懇願してくる。
必死なのはいいけど、巨女っていうのはクレイモアにナチュラルに失礼でしょ。
「キョンナーってなんなのだ? 強いってことなのだな?」
「えぇ、悔しいけど強いです」
「ふふふ、こう見えてあたしはザスーラでも指折りなのだからな。ザスーラの偉い人には白昼の悪夢と呼ばれていたのだ」
クレイモアは褒められたのと勘違いしたらしく、どんっと胸を張る。
彼女は多分自分のあだ名——白昼の悪夢——を褒め言葉だと思っているのだろう。
まぁ、たしかに悪夢だよね、うん。
彼女たちがトレーニングできる環境を早急に整えなくちゃいけない。
とはいえ、普通の施設じゃすぐに壊れてしまうよね。
「ふふふ、ユオ様、うちらにええアイデアがあるんやけど」
振り返ると、メテオとクエイクがにまにまして揉み手をして近寄ってきていた。
こいつら人の背後をとるのが異様にうまい。
うむむ、この子達、絶対に何か企んでやがるよね……。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「あの猫人姉妹、また何か企んでやがる……」
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