76.別視点:天魔のシルビア、影からこっそり話を聞く
「ふふふ、灼熱の魔女だなんて……。辺境伯様、レーヴェ様はひどくお疲れのようですね」
レーヴェが部屋を出ていったのと同じぐらいに、リストの執務室には魔法使いの姿をした女性が現れる。
彼女の名前はシルビア。
天魔の異名を持つ、優秀な魔法使いである。
彼女は屈強で知られているサジタリアス騎士団の魔法騎士の団長でもあり、これまでにいくつもの武勲を獲得したことで知られている。
サジタリアスの所属するザスーラ連合国の至宝と言われる存在でもある。
彼女は今の今まで隠ぺいの魔法を使って、リストたちの会話を聞いていたのだ。
「……シルビアよ、レーヴェが嘘を言っていた可能性はあるか?」
サジタリアス辺境伯である、リスト・サジタリアスは彼女を部屋に待機させ、レーヴェの報告に嘘がないかをチェックさせていた。
その理由は簡単で、サジタリアスに入ったレーヴェの様子がこれまでと明らかに違っていたからだ。
顔色は悪く、明らかに何かを思いつめている様子だった。
さすがに実直なレーヴェが陰謀を企てているとは思ってもいない。
だが、敵方に洗脳や暗示をされている等もありうる。
辺境には魔族が現れることもあり、未知の魔法を使われる可能性もあるからだ。
「いえ、一度、何を言うべきか迷っていたようですが、嘘はおっしゃっていません」
「嘘は言っていないと……。そうなると、クレイモアがやられたというのは本当だということか?」
「はい。あのクレイモアのバカが倒されるなんて、私も信じられませんが……」
シルビアは首を左右に振って、「まったく信じられません、あのバカが」と口にする。
彼女とクレイモアはサジタリアス騎士団の二枚看板を背負っている。
相手を疎ましく思うことはあるが、実力自体は認めていた。
「クレイモアは黒ミスリルの鎧を着ていたのだぞ?」
「わかっております。つまり、相手はかなり高位の魔法使いということになるでしょうね」
先日の出征の際にクレイモアは魔法をある程度無効化する破魔の鎧を着用していた。
それなのに、鎧を破壊するというのは尋常の魔力ではない。
「お前と同程度の魔法使いということになるか……」
辺境伯は眉間にシワを寄せる。
敵に魔法使いがいるとなると、かなり厄介なことになる。
シルビアは無言で頷くのだった。
「とはいえ、相手が本物かどうかは計りかねます。おそらく、村人含めて、その女を灼熱の魔女だと思い込ませているという方が適当だと思います。その邪悪な女は無垢な村人を洗脳したのです」
「そうか……。確かに、お前の言う通り、灼熱の魔女なんてものはこの世界に存在しないはずのものだからな」
「そのとおりです、辺境伯様。灼熱の魔女を名乗ることで、何かを得ようという魂胆があるのでしょう」
「ふむ、灼熱の魔女とやらが来訪した際に何が目的かを見定めるほかないか」
「ははっ、その際には私にお任せください」
リストはシルビアの言葉に同意し、今後の対応について考え始めるのだった。
眉間にしわを寄せるリストはどうやって娘を奪還すべきか考え始める。
今度は自分自身が辺境に攻め込むことすら選択肢に入っているほどだ。
しかし、レーヴェの話が本当であれば、それは危険行為であることもわかる。
万が一、相手が灼熱の魔女だった場合、サジタリアスは最前線にさえ変わってしまうのだ。
自分も諸侯としての意地はあるが、稚拙なやり方で相手を刺激するのはまずい。
「リリたんが無事であればよいのだが……」
リストは両手をあわせて神に祈る。
それを横目に眺めるシルビアは「リリたん」の響きに複雑な表情をするのだった。
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