74.魔女様、塩を本格的に量産する
「ぬわぁあああ! し、塩がこんなにあるのだ!」
次の日、温泉リゾートの裏手にて私たちは塩の量産に取り組み始めた。
現状は塩を大量に含んだ温泉の水を、私の作った自動加温鍋で煮立たせる方法で回収している。
村の消費量からすればこれで十分な量だけど、それでも見る人によっては多いだろう。
「す、すごいのだ! 宝の山なのだよ!」
クレイモアは幼いころから塩は貴重なものだと教わったらしい。
こんな村にここまで潤沢に塩があることが一番の驚きだという。
「まさかこんな山奥で塩が採れるなんてありえへんやろ。品質もべりぃぐっどなんやで」
「うん、きりっとした塩味の中に甘さがあって、いいお味なのだ! ローグ伯爵のぺらっぺらな塩より全然美味しいのだ」
いつの間にか仲良くなったメテオとクレイモアは塩の味についてなんやかんや言っている。
メテオは他人との距離の取り方が絶妙にうまく、まさしく商人だと感心する。
「あとはこの塩を量産するだけなんだけど……」
「ご主人様、サジタリアスは10万人を超える都市です。啖呵を切った手前、かなり大規模にやらないと交渉になりませんよ」
ララの言うとおり、現状の小さめの鍋では供給量はたかが知れている。
レーヴェさんに約束したのは塩の大量供給なのである。
現状の小さな鍋での生産では無理があるのは誰がみてもわかるだろう。
「そういうだろうと思って、今日はこういうのを用意したんだよね。みんな、こっちに来てみて!」
心配する面々をよそに、私は含み笑いをして、近くにある倉庫の中に手招きをする。
なぜなら、私はあるものをドワーフのドレスたちと作っていたからなのだ。
「ご主人様、この巨大な鍋はいったい!!?」
そう、倉庫の中にあったのは巨大な鍋!
それも複数置いてある。
直径が3メートルほどもある巨大なものであり、実を言うと昨日、工房で一緒に作ったものだ。
鍋は土台を通じて地面に直置きされていて、びくともしない作りになっている。
「魔女様の要求は本当に尋常じゃないですからねぇ。こんなでかい鍋、見たことないぜ」
ドレスは苦笑いをするけど、自分の作った作品にまんざらでもない様子だ。
彼女の言うとおり普通の鍋の数倍、いや数十倍の大きさになっている。
「しかし、どーしてこんなにたくさん作ってんねん?」
メテオが不思議そうに首をひねる。
今までは一つの鍋に温泉水を入れて、蒸発させたら塩を回収するというとても単純なものだった。
しかし、今回のサジタリアスとの取引を機に、私は生産工程を見直すことにしたのだ。
全ては塩の品質をもっとアップさせるために。
「塩の品質をアップさせるのだ? このままでも十分美味しいのに!?」
クレイモアは驚いた顔をしているけど、私は現状に完全に満足しているわけではなかった。
それは温泉水から直接とりこむ方法だと、どうしても砂や小さい石が気になったからだ。
今まではそれを目視で取り除いていたが、大量生産となるとそうもいかない。
「ふふふ、鍋に水を入れておいてしばらく放置しておくと、まずは砂とかそういうのが下の方に沈むのよ」
「なるほど! 塩水と不純物を分離しようっちゅうわけやな。ポーションの作り方で同じようなのがあるで!」
「そのとおり! だから、砂を取り除いた水だけを別の鍋に入れて、改めて塩をとりだすわけ」
勘の鋭いメテオは手をぽんと叩く。
メテオはこういう時に本当にするどい。
「せっかく取引するんだし、より高品質な塩を提供したいじゃない?」
私はそう言って種明かしをすると、みんなは「へぇええ」などと言って驚く。
調子に乗った私は実際に塩を作って見せてあげることにした。
ドワーフのおじさんたちが準備してくれているので、私は単に熱を送るだけだけど。
「よっし、今から塩を作るからみんな見ててね」
私は不純物を取り出した鍋に手を置くと、ゆっくりと息を吐く。
目標はできるだけ早く塩を作ること。
だけど、溢れたり、塩が固まりすぎないようにと注文を付ける。
ごぽっごぽぽぽぽぽ……
いい感じの音を立てて、鍋の水が沸騰し始める。
「なるほど、ここであのレンガを応用したっちゅうわけかぁ」
勘のいいメテオは私たちのやったことが、ほぼほぼわかってしまったらしい。
そう、肝心なのはレンガでつくった、この鍋の土台なのだ。
今回の鍋の構造自体はとても簡単なものだ。
しかし、その中に水を入れるとなると話は違う。
あまりにもたくさんの水を入れると、その重さで鍋自体が決壊したり、傾いてしまったりするのだ。
レンガで作ったこの土台ならば、巨大な鍋を置いてもびくともしなくなったのだ。
「それもこれも、ドレスのおかげだからね。ドレス、ありがと!」
「へへへ、魔女様にそう言われるとてれちまうな」
ドレスと私はガッツポーズをする。
本当にこの村にドレスがいてくれて、感謝しすぎることはない。
「魔女様、そろそろ出来上がりだぜ!」
鍋はぐらぐらと水蒸気を吐き、水分がなくなったところで温度が下がる計算になっている。
こうやってみると、私のスキルはものづくりと相性がいいようだ。
最近ではレンガをつくったり、塩をつくったりで領主の仕事と言えるのか分からない。
だけど、人々の暮らしを便利にできるのは素直に嬉しい。
「よぉし、順調だね。あとはこの鍋を量産するだけだから、頑張っていこう!」
「ユオ様、すごいです! これなら、サジタリアスの塩不足は解消できます!」
万事うまく行きそうなので、リリが嬉しさのあまり抱き着いてくる。
この調子で塩の量産を開始できれば、かなりの産業になること間違いなしだ。
ふふふ、あのローグ伯爵が吠え面をかくのが正直、楽しみだよ。
「このレンガの土台すごいですね。ご主人様の巨大な立像だって支えられますね!」
「おぉっ、それはええな! 新たな観光名所のできあがりや!」
「あはは、魔女様の立像か! おぉし、腕が鳴るぜ!」
私がリリと喜びを分かち合っていると、ララやメテオは全く違うところで盛り上がっていた。
しかも、圧倒的によからぬ方向での盛り上がりだ。
特にメテオとドレスの組み合わせは前科もあるし、とても危険なのだ。
なんせ温泉リゾートの入り口をお化け屋敷みたいにしてくれた前科がある。
彼女たちが悪巧みしないように見張っておかねばなるまい。
そう深く心に誓うのだった。
【魔女様が発揮した能力】
・自動加温:対象の加温状態を自動で調整するスキル。水が沸騰したら停止、水がなくなったら停止などと細かく設定できる。人間に使う場合には、「対象の体温を3時間後に急上昇させる」といった暗殺技術として使用することもできる。もちろん即死も可能。温度制限はないので、対象を燃やすことや、蒸発させることなども可能。
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「ドレスさん、おつかれっす……」
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