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68.サジタリアス辺境伯家の受難:騎士団長のレーヴェ、灼熱の魔女に遭遇する


「しゃ、灼熱の魔女だと!?」

 

「ふふっ、話になりませんな、蛮族は何をかんがえておるのやら」


 これには副団長含め、騎士団全員が苦笑してしまう。

 この世界に多大な災害をもたらした灼熱の魔女。


 しかし、その出現は数百年も前であり、その実在性さえ疑われている。


 こんな辺境の大地にいるはずもない。

 どう考えても一種のかく乱行為だろう。



「しゃ、灼熱の魔女だと……? ええい、リリアナ様を誘拐した罪、あたしの剣を壊してくれた罪、覚悟してもらうのだ!」


 しかし、少女はクレイモアの魂とも言うべき剣を破壊してしまっている。


 その報いとして、彼女は一刀両断にされてしまうだろう。

 私は敵ながら彼女を気の毒に思うのだった。


 だが、起きたことは信じられない出来事だった。


 少女を一刀両断にとらえたはずのクレイモアの剣が柄を残して()()()のだ。

 細身とはいえミスリルでできた希少な剣であり、岩をも両断する剣である。

 それがまるで魔法のように一瞬で消えたのだ。




「今のはなんだ!? 魔法か!?」


「そんなバカな、詠唱時間がありませんでしたよ!?」


 幻術の類かと思い、そのからくりを魔法兵に尋ねる。

 しかし、魔法兵は眉間にしわを寄せて首を横にふる。

 どうやら魔法ではないらしい。


 ではいったい、どうやって剣を消すなんて芸当ができる?



「なぁっ!?」


 戦場にクレイモアの叫び声が響く。

 少女はクレイモアの背後に回り、鎧までも一瞬で破壊してしまうではないか。


 まさか少女の能力は全ての金属を破壊する能力……!?


 あるいは、物理攻撃が一切効かない能力!?


 武器を失い、防具を失い、力なく崩れ落ちるクレイモア。

 こんな風景は見たことがない。

 彼女はどんなに過酷なモンスターとの討伐戦でも無傷で帰ってきた。


 それがこんな辺境の大地で一方的にやられるなど想像したこともない。

 そう、まさしくありえない風景を目撃することになったのだ。



「クレイモアを救え!」


 クレイモアは膝から地面へと崩れ落ちる。

 彼女を救出すべく私は一気に軍を動かす。


 一騎打ちを中断させるのは卑怯とそしられるかもしれないが、それは向こうも同じだ。

 怒号をあげて一気に駆け出す騎士たちはもはや誰にも止められない。


 私も剣を掲げて騎士団を大きく鼓舞する。


 こうなっては仕方がない。

 騎士団全軍をもって敵を粉砕するほかない。

 蛮族の村人には悪いが、多少の犠牲者がでることは否めないだろう。




「あれは……!?」


 そんな折、少女の髪の毛が赤く輝き始めるのを目にする。

 毛先に向かって赤い筋が浮かび上がり、それはまるで炎のように揺らめいていた。


 子供のころ、おとぎ話で空想した恐怖の魔女。

 そう、灼熱の魔女の髪の毛のように真っ赤に変わっていく。

 

 そして、肌に感じる熱。

 

 尋常ではなく熱い。

 

 私の全存在を焼き尽くすような、そんな熱が少女の方から放たれた————

 








 ————次の瞬間、私は縄で縛られた状態で目を覚ました。


 何が起きているのか分からないが、私は捕縛されてしまっていたのだった。


 視線の先には地面に倒れこむ騎士や歩兵たちの集団が見える。

 あのサジタリアス騎士団が全滅しているのだ。


 陸ドラゴンさえも蹂躙する我が騎士団が。

 魔族との戦いに備えてきた、最強を誇る騎士団が。


 どうやら、気絶しているようで、絶命しているわけではないようだ。

 だが、それでも悪夢のような光景には違いなかった。



「な、何が起きている!?」


 思考が混乱し、くらくらしてくる。

 一人の人間が千を数える完全武装の兵士を瞬時に倒すことなど、あり得ることではない。


 しかし、起きていることから目をそらすことはできない。

 私は相手の力を見誤り、とんでもない結果を招いてしまったのだ。

 

 副団長は大声で何かを叫び、その後、気絶してしまった。


 しかし、私は彼のように正気を失うわけにもいかなかった。

 私の首はあきらめるほかない。

 だが、クレイモアや騎士団の他の面々の命はどうしてもつなぎたかった。




「レーヴェお兄様、申し訳ございません!」


 思案していると、リリアナが私の胸に飛び込んでくる。


 久しぶりの再会。


 遠目ではわからなかったが、彼女の肌も髪も美しいままだ。

 蛮族に辱しめられていたわけではないように思える。


 リリアナは私の胸で泣きじゃくりながら、ことの顛末を教えてくれる。


 いわく、家出をして出てきたら、この辺境の村に冒険者として流れ着いたとのこと。

 蛮族の長である黒髪の少女、ユオと名乗った彼女が治める村では仕事を与えられて、幸せに暮らしていること。


 私の胸に涙を落とすリリアナの瞳は相変わらず清く、美しい。


「ユオ様は悪くないんです!」


 決して洗脳の魔法をかけられている様子には見えない。

 どうやらリリアナは本当にこの少女に心酔しているようだった。




「レーヴェさん、もしも、リリが国に帰ったらどうなるの?」


 リリアナの婚姻について聞いた彼女はリリアナの処遇について尋ねてきた。


 リリアナは私の家の都合で、遠くの貴族のもとに嫁ぐ運命にある。

 逃げ出したくなるのも理解できるような耐えがたい運命。

 私は彼女にリリアナの婚姻のいきさつについて説明する。



 全ての問題は塩が原因だった。


 我がサジタリアスは慢性的に塩の不足する土地なのだ。


 特に、他の諸侯との関係がぎくしゃくしているサジタリアスにとって塩不足は大きな問題になっていた。


 それを解決するために父が選択したことがリース王国のローグ伯爵との婚姻だった。

 ローグ伯爵はサジタリアスにも塩を売ってくれる人物だったのだ。


 しかし、塩の価格を平気で吊り上げたりなど、どちらかと言えば商人でしかなく、私たちの心証は最悪だった。


 平時であれば婚姻などもってのほかだと反対しただろう。


 しかし、我々のザスーラ連合国は諸侯同士がけん制し合っているのが現状。

 弱みを出した瞬間に他の諸侯に飲み込まれることもありうる。


 民の生活を確保するためにも今回の婚姻は必要だと判断されたのだった。

 あまりに救いようのない話にリリアナはわぁっと泣き出すのだった。



「よっし、決まりよ。レーヴェさん、塩は私たちの村がサジタリアスに提供するわ」


 耳を疑うような言葉だった。


 彼女が言うにはあの辺境では塩をとることができるらしい。


 実際に彼女のメイドが塩をとりだして見せてもらうが、非常に高品質なものだった。

 それはまるで宝石のようにキラキラと輝いていた。


「どうして、我々のためにそこまでしてくれるんだ!? 私たちは君の村を攻め落としにきたっていうのに」


 私は当初、彼女の言葉が信じられなかった。

 自分を攻め滅ぼしに来た相手に対して、手を差し伸べるなどありえない。

 我々は皆殺しにされても文句の言えないことをしたのだ。


 それなのに彼女は「家族は仲良くしてほしい」などという、もっともらしい理屈を言うのみだった。


 ……あきらかに怪しい。


 ……そんな理由があっていいはずがない。


 とはいえ、クレイモア含めて、命を保障するというのなら文句はない。


 もしも、クレイモアを失ってしまったら、それは政治的に大きな問題になる。

 サジタリアスから剣聖がいなくなるということは、非常に大きな損失なのだ。


 私はクレイモアをリリアナの護衛役として残し、兵団をまとめて帰郷することになった。


 妹を取り戻すことのできなかった私に父上は激怒するだろう。


 だが、塩を確保できることは領地の戦略上、大きな価値をもつと私は確信していた。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「レーヴェさん、あんたが気の毒だよ……」


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― 新着の感想 ―
[一言] 問答無用で襲ってきて「私たちにも事情があったんです、仕方ないんですー」って考えてるのやばい。 嘘情報教えられて無実の人を殺しまくってそう。
[一言] レーヴェさんは気付いて無いけど確保したのは塩だけじゃないんだよな〜 『家族仲良く』という台詞から妹の為に『家族にトラブルが発生したら騎士団を全滅させた戦力が救援に来て貰える』可能性を示唆し…
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