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67.サジタリアス辺境伯家の受難:騎士団長のレーヴェ、禁断の大地に攻め入る


「父上、我々に行かせてください! 必ず、連れて帰ります!」


 妹のリリアナが禁断の大地にさらわれているとの一報を受けた日のことだった。


 私はその場で父上に奪還作戦を提案し、先導することを志願した。


 リリアナは結婚が決まってからというもの、思い悩んでいることは知っていた。


 なんせ相手は悪名高きローグ伯爵だ。

 リース王国の要職についているとはいえ、塩の取引の件で、幾度も煮え湯をのまされてきた狡猾な男。

 ここ数年で塩の価格はじわじわと値上がりし、サジタリアスの財政を侵食しつつあった。


 リリアナが家出をしたときには驚きもあった。


 だが、政略結婚に同情していた私はどこかで幸せに暮らしてくれればいいとさえ思っていた。

 家出は許されるものではないとわかってはいる。


 それでも、外国での政略結婚として二回りも上の貴族に嫁ぐのはあまりにも過酷すぎる。

 彼女の性根が素直で献身的であるからこそ、さらにそう思えた。




 しかし、リリアナがいるのが禁断の大地の蛮族の治める村だと聞かされれば、話は別だ。


 禁断の大地。


 それは過去100年以上にわたって、どの国も統治することができず、古代のモンスターすら跳梁跋扈する危険地帯。


 リース王国の先代公爵が大昔に遺した村があるとは聞いていたが、人口は百人にも満たない村なのではないだろうか。


 とてもまともな精神状態で住める場所とは思えない。



「行くぞ! 必ずリリアナを取り戻すのだ!」


 私は秘密厳守できる精鋭を集め、辺境の村に軍を強行させたのだった。

 行軍中は意外にもモンスターに遭遇せず、比較的スムーズにたどり着くことができた。


 驚いたことに道中は道なき道を進むというわけでもなかった。

 明らかに何者かが歩いた道ができていたのだ。



「な、なんだあれは……」


 村に到着して驚いたのが、村のまわりをレンガの壁が覆っていることだ。


 遠目の利く兵士が言うには、奥の方に巨大な黒い建物が見えるとのこと。

 監視のためのやぐらも配置されており、明らかに私の聞いていた辺境の村の姿ではない。

 蛮族か何かが住み着いてよからぬことを企んでいるのは明白だった。



「蛮族に告ぐ!」


 降伏勧告を務めるのは剣聖のクレイモアだ。

 口調は相変わらず騎士らしくないが、なんとか台本通り、大きな声を出すことができた。


 彼女は普段からリリアナの護衛役を務めていて、信頼関係は強い。


 ザスーラ連合国の至宝ともいわれている剣の達人でもある。


 剣聖とは剣の加護を受け取った類いまれなる存在であり、一世代に数人も出ないとされている。


 白昼の剣聖、クレイモア。

 いかに禁断の大地と言えど、その名前は轟いているだろう。

 はっきり言えば、彼女一人で村を鎮圧することさえたやすい。


 すぐにでも降伏に応じるかと思ったが、意外なことが起こる。


 その場にリリアナ本人が現れ、「この村に残りたい。どうしても自分を引きずり出すなら一騎打ちをしろ」と言うではないか。


 だが、こんな辺境に住みたい人間などいるはずがない。

 気の弱いリリアナが蛮族に脅されていることが容易に想像できた。



「クレイモア、完膚なきまでに叩き潰してくれ」


 この地に住む蛮族の中には腕に自信のある人物もいるのだろう。


 しかし、彼らには現実を教えなければならない。

 誰かをかどわかしたり、誘拐したり、脅したりすることは許されるものではないのだ。


 また、一騎打ちで相手方の戦士を破ることは、蛮族の気概を削ぐことにもなる。


 我々も蛮族全員を皆殺しにするつもりはなく、あくまで目的はリリアナの奪還と首謀者や実行犯の捕縛だ。


 村全体の罪を問うつもりもない。


 しかし、出てきた相手は髪の毛も髭も真っ白な老人だった。

 体つきは悪くないが、どう見ても老人だ。

 クレイモアと張り合えるはずがない。



「おいおい、じじいが出てきたぞ!?」


 いくら腕に自信があっても剣聖の相手を務めることは不可能だ。

 兵士たちはからかわれているのかと思い、大声でヤジを飛ばす。

 おそらくは最初の一太刀で勝敗は決まることになると誰もが思った。


 しかし、我々の予想は大きく裏切られることになる。


 敵の老戦士がとんでもなく強いのだ。


 これまでに見たことのない構えから繰り出される、文字通り滑るような太刀筋。

 質量では大きく劣るはずのクレイモアの大剣をいなし続ける。

 老人は戦いの途中で自分の名前を「サンライズ・サマー」と名乗る。


「サンライズ・サマーだって!?」


 騎士の世界に生きていて、その名前を知らない人物はない。

 サンライズとは幾度にも渡りモンスターの侵攻を食い止めた英雄の名前だからだ。


 傍らに控える副団長は「竜殺しの名を騙りおって……」と苦々しい声を出す。

 そう、サンライズと言えば、巨竜を屠った英雄なのだ。


 しかし、それは大昔のこと。


 まさかこんな辺境で生きているはずもない。

 副団長が怒りに震えるのも至極当然のことだった。


 それでも私は老人があのサンライズ本人であることを直感したのだった。

 そうでなければ、『白昼の剣聖』であるクレイモアがあそこまで苦戦するはずがない。


 老戦士はあと一歩のところでクレイモアを追い詰めるが、兜に阻まれて逆転される。

 

 サンライズは観念したのか、とどめをさすように伝えたようだ。

 一騎打ちでは必ずしも命を取る必要はない。

 だが、これも一つの幕引きだろう。



 クレイモアは高く剣を掲げ、これで決着だと誰もが思った。


 しかし、思いがけないことが起こる。



「クレイモアの剣が折れたぞ?」


 クレイモアの巨大な両手剣が音もなく、一瞬で破壊されてしまったのだ。


「な、なんだ、あの女?」


 そこに現れたのは黒髪の少女だった。

 体つきは細く、リリアナほどではないが華奢とでもいうべきだろう。


 その姿には品が感じられ、ひょっとすると蛮族の長または長の娘なのかもしれない。


 そうなると一騎打ちを中断させて停戦交渉に来たのだろうか?

 それにしても、クレイモアの剣を破壊したあの技は誰が発したのか?


 後ろの方に伏兵が紛れている可能性もあり、私は兵士たちに臨戦態勢をとらせる。



「あんたがあたしの剣を破壊したのか! やっていいことと悪いことがあるのだぞ!?」


 黒髪の少女からは敵意は感じられないが、剣を破壊されたクレイモアの怒りは収まらない。


 クレイモアは予備に持っていた片手剣を抜いて、少女と対峙する。


 少女は肝が据わっているのかサンライズが回収されたのを確認すると、まさかクレイモアと戦うつもりらしい。




 これはいくらなんでもありえない。

 自分の命を犠牲にして村を守りたいという気持ちの表れなのだろうか。


 しかし、相手は現役の剣聖、クレイモア。


 ザスーラ連合国の至宝とも呼ばれ、一騎当千の戦士だ。


 同じ剣聖であるサンライズならばともかく、あの腕の細い少女が斬り合うことなどできるはずもない。


 あれに向き合うのは蛮勇ですらない、もはや無謀だ。

 


 しかし、少女はおかしなことを言い始める。


 クレイモアに名前を問われると、彼女の取り巻きたちが『灼熱の魔女』であると叫んだのだ。


 あの、灼熱の魔女だ、と。

 

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「はじめは余裕しゃくしゃくだったんすね……」


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