65.魔女様、サジタリアス騎士団の団長レーヴェと対話する
「さぁて、どうしようか。さすがにうちの村に全員ご招待ってわけにはいかないよね?」
問題になるのは失神させてしまった軍隊の処遇だ。
夜になったらモンスターがうろつくだろうし、このまま放置することもできない。
「ふふふ、せやなぁ。お偉いさんだけ残してお引き取り願うしかないんとちゃう?」
メテオが提案するのはクレイモアや団長だけを人質に取って交渉するのはどうかという案だ。
クレイモアはザスーラ連合国の至宝ともいわれていて、彼女の身柄を押さえることは大きな意味があるとのこと。
「ご主人様、ここで提案なのですが『灼熱の魔女』として事態を解決するしかないのでは?」
ララは私が「灼熱の魔女」を名乗って交渉すべきだと耳打ちしてくる。
つまり、人前で堂々と「灼熱の魔女、ユオと申します」なんて名乗るってことだ。
「ええぇ、ちょっと、待ってよ!? さすがに人前でそんなこと言えないよ!」
もちろん私は『魔女』であることを自認するつもりは一切ない。
それはあくまで冗談が独り歩きしているにしか過ぎないのだから。
「しかし、ここで出自であるユオ・ラインハルトを名乗ると大変なことになります」
一騎打ちの時、ララやメテオ達は大声で私のことを『灼熱の魔女』と呼んだ。
そこにはある意図があったのだ。
それはつまり、私自身の出自を隠すことだ。
「あ、そっか。確かに私がラインハルトなんて名乗っちゃったら大変なことになるのか。そもそも、私、勘当されているわけだし実家とは関係なかったんだった」
うっかりしていた。
私が追放されたとはいえリース王国の公爵の娘であることを名乗ってしまうと、リース王国対ザスーラ連合国という構図になってしまう。
簡単に言えば、ラインハルト家の領土にサジタリアスの騎士団が攻め込んだ形だ。
最悪、領土紛争の引き金になる可能性だってあるということ。
リース王国とザスーラ連合国は不戦協定を結んではいる。
だけど、決して仲がいい関係とは言えない。
特にザスーラ連合国はその名の通り、諸侯の連合国だから一枚岩じゃないだろうし。
ララの言うとおり、サジタリアスVS魔女の新興勢力のほうがましなのかもしれない。
「……でも、今回だけだからね。交渉ができたら、絶対に名乗らないからね。ラインハルトは捨てるにしても」
今は緊急事態なのだと自分自身に言い聞かせる私なのであった。
「リリ、この中から偉い人を探して起こしてくれない? 撤退してもらうために交渉するわ」
「は、はい、わかりました」
騎士団の人たちは剣聖さん含めて皆気絶した状態だ。
このままじゃどうしようもないから交渉できる相手を探してもらうことにした。
「この人とこの人は騎士団の団長と副団長です……」
しばらくすると、リリは騎士団の団長さんと副団長さんを発見する。
髭のいかついおじさんが副団長さんで、好青年っぽい人が団長さんだそうだ。
私たちは彼らを暴れないように縄でぐるぐる巻きにした状態にすると、リリに頼んで回復してもらう。
「うぅう、頭が痛い」
「くっ、この縄をほどけ!」
気分の悪そうな団長さんとは対照的に、副団長さんは起きたとたんにわぁぎゃあと騒ぎ、威嚇してくる。
縄で縛られているのに、なんていう威勢のよさ。
噛みつかれそうで怖い。
「いくら私を卑怯な手で捕縛しても、後ろには千を超える兵士がいるのだ! わが騎士団は精強にして百戦錬磨の強者ぞろい! 蛮族など蹂躙してやる!」
なんという寝起きの良さと感心するけど、まるで猛犬みたいに吠える。
威圧的なおじさんは嫌いなので辟易してしまう。
「えーと、あなたたちの自慢の騎士団ってあれよね? ララ、ちょっと見せてあげて」
この人を落ち着かせてあげようというわけで、私は彼に現実をみせてあげることにした。
「はいっ、了解しました」
地面に伏せっている状態ではみえないだろうから、力持ちのララに頼んで高い高いしてもらう。
これで彼の言う騎士団の皆さんが失神している様子が見えるはずだ。
副団長さんは「放せ、ぐぬぬ」なんて叫んでるけど、いったん、無視。
「な」
何が起きているのかわかったのだろう。
副団長さんは一言だけうなるとそれっきり何もしゃべらなくなる。
目を大きく見開き、口からは涎が流れ意識が別の世界に飛んでいってしまったようだ。
あっちゃあ、やりすぎた。
「えーと、団長さん、状況はつかめてる?」
「……一方的に蹂躙されたのはこっちだということか。たはは、こりゃあ参ったな」
もう一人の青年騎士のほうは物分かりがいいのか、状況をすんなりと理解したようだ。
たはは、などと笑っている場合なのかわからないけど。
「レーヴェお兄様、申し訳ございません!」
苦笑していた好青年にがばっとリリアナが抱き付く。
なぬ、お兄様とな…ってことは、この団長さんがサジタリアス辺境伯の息子ってこと!?
うわっちゃあ、やばいのをやっつけちゃったなぁ、今更だけど。
「今回の件は私が悪いんです! 魔女様には一切の責任はありません! ローグ伯爵との婚姻から逃げ出したことの咎は私が受けますので、誰の罪も問わないでください!」
リリアナはお兄さんの胸の上でわぁわぁと泣きじゃくる。
そして、彼に事の真相をすべて正直に白状するのだった。
ローグ伯爵って、私の親戚のオッサンのこと?
スキル神殿で私のことを嫁にほしいとかいってくれた、あのオッサンのこと?
あのいやらしいオッサンと結婚しろって言うのなら、私も絶対に逃げ出すわ。
別に親に迷惑がかかろうが知ったこっちゃないと、靴も履かずに逃げるだろう。
「灼熱の魔女よ、私たちも騎士だ。負けたからには煮るなり焼くなり、好きにするがいい。しかし、も、も、燃やすのだけは勘弁してほしい……」
そう言って、レーヴェさんは静かに目を閉じて震え始める。
殺されることを覚悟しているのだろうけど、そんな寝覚めの悪いことはできない。
リリは涙を浮かべて、「兄を燃やさないでくださぁい」なんて言う。
っていうか、どうして私がリリのお兄さんを燃やさないといけないのよ!?
まったく人をなんだと思っているのか。
「いや、兵士をまとめてサジタリアスに帰ってもらえばそれでいいんだけど」
私が誰にも危害を与えるつもりはないことを伝えると、レーヴェさんもリリもほっと胸をなでおろす。
「魔女様、ありがとうございます!」
リリは喜びのあまり、私に抱きついてきた。
えぐえぐ言っている彼女の頭をなでながら、私は彼女の髪の毛の感触を楽しむ。
このまま一件落着にして水に流したい気持ちは山々。
だけど、はっきりさせておかなければならないことがある。
「レーヴェさん、もしも、リリが国に帰ったらどうなるの? その伯爵との結婚話とかは」
「そ、それは……言いにくい話だが、中断していた婚姻は進めざるを得ない。貴族同士の取り決めはそう簡単に破れるものではないのだ。そもそも、今回の婚姻は……わがサジタリアスの民を救うためでもあるのだ」
レーヴェさんは渋い顔をして、リリのほうをちらりと見る。
リリはその視線に反応したのか、下を向いたまま押し黙ってしまう。
ふぅむ、そのローグ伯爵との結婚とやらが訳ありみたいだな。
私はレーヴェさんにお願いして、どんな背景があるのか話してもらうことにした。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「副団長……」
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