50.魔女様、村への移民たちは実家の領地から逃げてきた人々だったことに気づく
「な、なんじゃこりゃああ!?」
移民団の皆さんがやたらと声を張り上げて驚いている。
彼らはリース王国の辺境一歩手前の村から、はるばる歩いてやってきた面々だ。
「何がおきとんのすか、これは!??」
「ここはあの禁断の大地の村なの!?」
「すごいよ! レンガのお家だ!」
老若男女問わず、皆が大きな声をあげる。
それも無理もない話で、村の景色が一変してしまったのだ。
この間までみんな掘っ立て小屋に住んでいたのに、いきなりレンガ造りの建物になっちゃったのだ。
「へへへ、目を見開いてみろってんだ! あっしの魔女様に不可能はないんだぜ!」
ドワーフのドレスは大見得を切る。
彼女は目の下にクマを作りながらも、村中の建物のためにレンガを作るというプロジェクトをやりきってしまった。
それも1週間で。
「ユオ様、ほんまにお疲れやったなぁ」
「本当にご主人様は理想の領主ですよ」
メテオとララは私の肩をもんでねぎらってくれる。
しかし、今回はかなりのハードワークだった。
そもそも、である。
ドワーフの職人集団が私のためにレンガ工場を作ってくれたのがいけなかった。
最適な環境の中、能力を解放させた私はレンガ焼くかまどへと変貌。
気づいた時には大量のレンガを生み出してしまっていた。
あんまりにも大量に作る方法を編み出したので、今では道までレンガで作る計画もあるほどだ。
その後、村人たちは総出で突貫工事。
『家造りに参加した人には家賃無料』
このお触れが効果てきめんだった。
気づいた時には、村の家をレンガ造りに変えてしまった。
やる気、ありすぎるでしょ。
建ち並ぶレンガ造りの家々。
どこからどう見ても辺境とは思えない。まるで王都や商都みたいだ。
「あー、えーと、隣村の皆さんの家はこっちですからね」
とはいえ、経緯を話していても信じてもらえないだろう。
移民団の皆さんは顔色の悪い人たちも多そうだし、とにかく彼らの寝泊まりする場所に案内してあげなくっちゃね。
「ぬわぁああっ!? なんだ、これは!? こんな家、見たことねぇずらよ!?」
再び変わった訛りで驚く隣村の面々。
彼らに案内したのは3階建てのレンガ造りの建物だ。
王都で流行していた建物だけど、飾りもないし、そっけないデザイン。
まぁ、突貫工事だったからしょうがないけど、今度はレリーフつきのレンガでも作ってみよう。
「こ、こんなところに住ませてもらえるのですか!?」
「ひぃいいい、夢のようだ」
隣村の面々は開いた口が塞がらないって表情。
そこまで喜んでくれるなんて、素直に嬉しい。
頑張った甲斐があったっていうものだ。
「それでは、皆さんに部屋を割り当てますよ!」
ララはてきぱきと家族ごとに部屋を割り当てていく。
大家族にはたくさんの区画のある部屋を、そうでないところには小さめの部屋を配分する。
「当分の間、賃料をとらない!? あ、ありがとうございます!」
移民団の代表のおじいさんはすがりつくように頭を何度も下げる。
だけど、どう考えても、今は家賃を払える状況じゃないだろう。
なんでもかんでもただってわけにはいかないので、仕事が板についてきたら、家賃はしっかりいただこうとは考えている。
「おぉし、家造りに興味があるやつは後で工房に来てくれよな!」
そして、賃料を払いたくない人のために、家造りの監督をドレスがやってくれることになった。
これまでの村の人々もそうだけど、家を自分で作ってくれれば、家賃はゼロ。
材料となるレンガは格安で支給する。
これなら、率先して村作りに関わることができるよね。
◇
「それじゃあ、お待ちかねの歓迎パーティやで! 村の真ん中の広場に集まってや!」
「めっちゃ、お肉焼いてるし、野菜もあるし、なんならフルーツもあるんやで!」
メテオとクエイクがエプロンをして現れ、食事の準備ができたことを伝える。
この間、温泉リゾートができて以来のお祝いタイムというわけである。
今日は村人の親睦もかねてお祭りをすることにした。
「ご飯だぁ!」
「お肉、お肉、お肉!」
村の中央には総勢200人の人々があつまり、子供たちは大はしゃぎしている。
移民の人々は最初のうちは遠慮していたのだけど、今は子供のように大はしゃぎだ。
中には泣きながら食べている人たちもいた。
相当、食べるものに困っていたらしい。
◇
「ご主人様、あの家族はもう少しで奴隷として売られるところだったそうですよ。リース王国のとある領主の税金が支払えなかったそうです」
歓談している様子を眺めながらお茶で祝杯を挙げていると、ララが泣いていた家族について教えてくれる。
彼らがあと1週間村を出るのが遅ければ、税金のかたに一家は離散する運命だったそうだ。
税金を支払うのが領民の義務とはいえ、善良に生きている人を奴隷にまでしてしまうのが果たして正しいのだろうかと私は思ってしまう。
「向こうの領主からの視点で言えば、とれるはずの税金分が消えたということになりますけどね」
「……そっか、まぁ、そりゃそうだよね」
一家にとっては救いだったとはいえ、自分の行なったことを自画自賛するだけの状況じゃないのもわかっている。
村が丸ごと消えたということは税収が減ることを意味していて、そこを治めている領主にとっては結構な痛手であるということだ。
「それに、領主としての評価も著しく下げるでしょう」
「確かに、自分だったら人前に出られないかも」
村全体が夜逃げするなんて、領主としての手腕を疑われても仕方がないことだ。
『あの領主の村は夜逃げしたらしいぞ』
『あぁ、あの村の領主はダメダメだったもんなぁ』
なんて噂がたったら、貴族としての威信にも傷がつく。
私だったら顔から火が出るほど恥ずかしいし、穴があったら入りたい状況だ。
「……で、そのリース王国のとある領主って誰なの?」
私はお茶をぐいっと飲みほしてララに尋ねる。
口の中には森ベリーとグアバミントの爽やかな香りが広がる。
「ミラージュ・ラインハルト様です。つまり、お兄様ですね。ぷくく」
ララは少しだけにやっと笑うと、とんでもないことを言うではないか。
ミラージュ・ラインハルト、それは私の兄であり、ラインハルト家の三男。
つまり、あの村民を受け入れたことによってラインハルト家と対立する可能性もあるってことだ。
まぁ、こっちはもう実家だなんて思ってもいないけどね。
「……やっちゃったわね。場合によっては領民を返せなんて言ってくるかもしれないか」
「そうですね、ぷくく……」
「……って、ララ、笑ってない?」
「いえいえ、そんな笑うことなどもっての外です。追放されたユオ様が兄上様の領民をぶんどって、見返したなどとは間違っても思っておりませんよ、ぷくく」
「笑ってるじゃん!」
普段はクールなララがここまで笑うのも珍しい。
私としてはミラージュ兄を見返すとかどうでもいいし、関わり合いにもなりたくないっていうのが本音。
ただし、向こうはどう思うかわからないけれど。
【魔女様の人材】
・移民たち:リース王国北部のヤバス地方の村落からの移民団。総勢100人程度。もともとの領主はユオの兄のミラージュだったが、圧政を逃れて、ユオの村へと移住してきた。基本的に善良であり、働き者。
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「ララさん、腹黒すぎ……」
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