48.魔女様、レンガ焼きかまどにジョブチェンジする
「次から次へと問題発生やな。まぁ、いい問題やけど」
移民希望のおじいさんが去っていくのを見送ると、メテオはくすくすっと笑う。
非常にありがたい話で、渡りに船ではある。
しかし、受け入れる側としては大きな問題がある。
彼らの住む家がないのだ。
私のスキルのおかげで村の気温は管理されているので、住み心地は快適だと思う。
それでも雨だって降るし、風だって吹く。
家がないからって、さすがに雨ざらしで住んでもらうわけにはいかないのだ。
「移民する皆様用の住宅ですか……。ふぅむ、それならドレスさんに聞いてみましょう」
ララが口元に手を当てて、素晴らしいアイデアを出してくれる。
うちの村にはドワーフのドレスひきいる職人集団がいる。
温泉リゾートを建築したのも彼女たちだし、何かいいアイデアを持っているかもしれない。
「これから村人が倍以上に増えるって!? それも一週間後!?」
「魔女様、それはむちゃぶりってもんですよ。掘っ立て小屋ならともかく」
工房にいるドレスたちに一週間以内に新たに村人100人が住む家を建てたいと伝えると、目を白黒させて驚かれる。
新しい家を建てるにはそれなりの材料と期間が必要なのだということだ。
突貫工事を行うのは問題がないとしても、材料となる木材がかなり不足しているとのこと。
辺境に生えている森の木は材木として使えるようになるまで時間がかかるため、なかなか木材には適していないのだそうだ。
そういえば私も木材の乾燥を試みたけど、ひびが入って割れてしまった。
それに、森を伐採し過ぎると住処をなくしたモンスターが溢れる可能性もあるとのこと。
うーむ、自然と共生しながら暮らすのって難しい。
「とはいえ、木材を外から運ぶのも現実的ではないやろ?」
メテオの言う通りで、街道のない現状では他の土地から木材を買ってくることも不可能に近い。
つまりは木材以外の材料を確保しなければならないのだ。
それも可及的速やかに。
「木材以外の材料ねぇ……、そうだ! レンガって作れない?」
確か、王都では赤いレンガを積み上げて建築物を建築していたはずだ。
詳しい作り方は知らないけれど、土を焼いたものだったはず。
「レンガですか? 土はなんとかなると思いますが、問題は時間ですね。日干しレンガはともかく、焼きレンガはかなりしっかり焼かないといけませんから」
ドレスの部下の一人がレンガの作り方を簡単にレクチャーしてくれる。
レンガの作り方はこうだ。
1.砂利や麦わらなんかの入った土を型にはめる。
2.そのまま数日間乾燥させて日干し煉瓦を作る
3.それから窯で焼いて焼きレンガを作る
焼きレンガはかなりの手間ひまが必要になるが、水にも強く頑丈なのだという。
王都ではレンガ専門の業者もいて大量生産できるとのこと。
もちろん、うちの村にはそんな業者はいない。
「レンガは重いからなかなか運んでくるのも簡単じゃないやろうな。……せや!」
メテオは腕組みをして何かいいアイデアがないか思案すること10秒。
何かいいアイデアを見つけたらしく、手をぽんとたたく。
「ユオ様が焼けばええやん! 焼きスキルでどーにかできるんとちゃう?」
「あほか、そんなん人間かまどやん! ……でも、ユオ様ならいけるかもわからへんな」
メテオがわくわくした表情でアイデアをまくし立て、それに対してクエイクがツッコミをいれる。
いや、クエイクはむしろ私のことを人外だって煽っている気もするけど。
しかし、私の能力でレンガを焼くなんてことができるんだろうか。
温泉水を蒸発させて塩を作るのとは訳が違いそうだけど。
とはいえ、他にいいアイデアはない。
「よっし、それじゃやってみようか。ドレス、準備するの手伝って」
「あいよ!」
とはいえ、せっかく出てきたアイデアを無下にすることもない。
やらないよりはましというちょっとネガティブな勢いで、私はドレスたちにレンガ造りの準備をお願いすることにした。
◇
「魔女様、準備できたぜ!」
まずはドレスの部下の人たちにレンガの材料となるものを作ってもらう。
見た目は完全に泥の塊。
それを木で作った型に流し込んでもらう。
普通はこの状態で数日間、乾燥させて水分を抜くらしい。
「やってみるわね」
私はまだべちゃべちゃで水分を大量に含んでいるレンガのもとに手をかざす。
レンガになーれ、レンガになーれ、と心のなかでつぶやく。
水分がうまく抜けていく様子を想像して熱を送る。
おそらく、一気に高温にし過ぎると割れてしまうだろう。
慎重に、だけど、なるべく早く、ぎりぎりのところを想像しながら。
うぅ、こういうふうに力を微妙にコントロールするのって難しい。
一気に出力するほうがよっぽど簡単だ。
「おぉっ、なんかよくわからんがカッチカチやで!」
数分後には、土の変化を注視していたメテオたちが声をあげる。
べたべたしていた表面が完璧に乾き、触っても石のように固くなっているとのこと。
「おぉっ、日干しレンガみたいじゃないか」
ドワーフのみなさんが興奮の声をあげる。
みんなで型からどんどんレンガを外していくと、かちかちのレンガが顔を出す。
しっかりと固くなっていて、いい感じ。
これだけでも建築の材料に使えそうだ。
「こりゃあ、すごい!」
「魔女様、日干しレンガは雨には弱いんですが、簡易的に作るんならこれでもいいんじゃないですか?」
「これで十分な家がつくれますぜ!」
ドワーフのおじさんたちは嬉しそうな顔をして、このレンガで家を作りたいと言っている。
確かにこれを材料にすれば、その場はしのげるだろう。
それでも雨に弱いって言うのは引っかかるよね。
だってこの辺境ってわけのわからないタイミングで猛烈な雨が降るし。
この間なんか地震があったし。
「いや、この際だから焼きレンガも作っちゃおう。えーと、結構な高温で作るんだよね? みんな、危ないから離れてて」
私は積み上げられた日干しレンガに手をかざすと、今度は先ほどよりも出力をあげて熱を伝える。
一気に熱をあげたいところだけど、そんなことをしたら爆発しそうな気もする。
「あっつ! 暑すぎるで!」
「し、死ぬぅうう」
熱が反射してきたのだろうか、メテオたちは慌てて工房の外に出ていった。
ドワーフのドレスと部下のおじさんたちは熱に強いのか、私の工程をじぃっと見つめている。
さぁ、どんなものができるかな?
「ふぅ、こんなものかな? まだ熱いと思うから、触らないでね」
10分程度ったころだろうか。
表面に光沢のあるレンガが完成する。
初めて作った割にはちゃんとレンガって感じの色になったし、いけるんじゃない!?
「驚いたぜ! 魔女様、この音を聞いてくださいよ!」
ドレスが手にミトンをはめて、レンガとレンガをぶつけると、カンカンと高い音が響く。
彼女が言うには高品質のレンガだからこその音だそうだ。
つまり、職人の立場から言っても、いい感じのレンガだっていうことだ。
「やったじゃん!」
「さすがは魔女様!」
ドレスたちの作ってくれた原料の出来がよかったのもあると思うけど。
我ながら、いい感じのレンガに惚れ惚れする。
「おおし、レンガ用の型を作るぜ! お前たちは材料を用意しろ。魔女様はでき次第、乾燥と焼成をお願いします!」
「よっしゃ、やってやるぞぉ!」
ドレスはレンガの完成を見届けると、部下の職人の皆さんにてきぱきと指示を出す。
この勢いなら村中の建物をレンガ建築にすることもできるかもしれない。
今の廃材を利用した掘っ立て小屋じゃなくて、村人がレンガでできた三階建てのアパートに住むなんてことも。
レンガ造りのティーハウスでアフタヌーンティーをするなんてことも!
道をレンガで飾るなんてことも!
「そうなったら、まるで王都みたいになってしまいますね」
「せやな、これはほんまにどうなるかわからへんで」
「ほんとうに無茶苦茶ですね、ユオ様って……」
ララたちは私が職人さんたちと働き始めるのを見て、くすくすっと笑う。
確かに領主っぽくはないかもしれないけど、私はできることをやるだけだよ。
レンガ造りの建物ができれば、安心して移民を受け入れられる。
この村を豊かにするという私たちの目標に一歩近づける。
本当だったら古文書にあった木造建築の街並みを再現したいんだけど、それはひとまず保留。
いつかきっとかなえてみせるけどね!
「よぉし、ドレス、気合をいれてやるわよ!」
「おぉっ! 地の果てまでレンガで埋め尽くしてやりやしょう!」
私は気合を入れ直して、職人さんたちの輪に加わるのだった。
【魔女様の発揮した能力】
・レンガ焼き:レンガをこんがりと短期間で乾燥・焼成させてしまう能力。ドワーフとの連携によって、大量生産可能。人間には使わないでください。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「レンガの魔女様……」
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