47.魔女様、移民を受け入れて村の人口を二倍にする
「ユオ様、魔石と素材の売り上げがえげつないことになったで! 行き来するのは一苦労やけど、頑張っただけのことはあるわ!」
売上報告の場でメテオが開口一番にまくし立てる。
結果は上々!
雇い入れた冒険者たちの活躍もあって、素材や魔石の回収が急ピッチで進んでいるのだ。
特に辺境の魔物が生み出す魔石が有望なのだという。
街道が整備されていない現状で行き来できるのは、彼女の妹のクエイクぐらいしかいない。
将来的には近隣都市ともっと気軽に交流できるようになることも課題の一つだ。
「本当にお疲れ様!」
とはいえ、今はしっかり成果を褒めるべき。
私はメテオとクエイクの手をとって、ぶんぶんっと振る。
「にひひ、このままいけばぜったい冒険者が食いついてくるやん!」
「せやで。もう入れ食い状態や! がっぽがっぽやで!」
「「笑いが止まらへんなぁ! にゃはははは!」」
メテオとクエイクはこずるい顔をしながら、にまにましている。
辺境の珍しい素材をさばき、冒険者を増やし、温泉リゾートを盛り上げる、という計画は順調な滑り出しを見せている。
「しかし、お金を稼げるだけでは不十分ですね。人が圧倒的に足りないですから、まだまだ辺境の村どまりです」
「次はそこよね。せめて200人はいないと農業だけで終わってしまうわね」
ララの言葉にその場にいた全員がうなずくのだった。
私たちの村が発展していくための問題点、それは人口が圧倒的に少ないことにあった。
うちの村の食料は自給自足だ。
肉も野菜も穀物も村民が自分で用意している。
現状ではどうあがいても人口の半分以上は農家になってしまうのだ。
このままじゃ温泉リゾートで働いたり、冒険者用のお店や食堂を経営したりする人材はどうあがいても足りないのだ。
「よぉし、人口倍増計画を立てるわよ!」
私たちの目標はこの辺境に豊かな都市を作り出すこと。
せっかちな性分の私なので、それをできれば数年間でやってのけたい。
この村で人口が自然にゆっくり増えるのを待ってはいられないのだ。
私達はどうすれば村の人口を増やすことができるかを話し合うことにした。
「今日はオークイチゴと赤レモンのお茶です。森ベリーのビスケットもあります」
腕組みをして考えていると、新規加入したリリがお茶を運んできてくれる。
村のヒーラーとして働いている彼女なのだが、お茶を入れるのが好きらしい。
仕事のない時は私の屋敷に入り浸っているのだ。
私たちは香りのいいお茶を堪能しながら、昼下がりのティータイムを楽しむのだった。
ふふふ、今日は温泉に入っていないので優雅にリラックスタイムを楽しめる……。
そんな風に思っていた矢先のことだった。
どんどんどん!
お茶とビスケットを堪能していると、扉がやたらと叩かれる。
「あっちゃあ、これはあれやな、おまぬけがまた来てんで」
「あはは、絶対にモンスターに追われてる奴やん」
「毎度毎度すっごいなぁ。ユオ様って呪われとんのとちゃう?」
メテオとクエイクの姉妹が苦笑いをするのも無理はない。
この叩き方はハンナで、おそらくきっと何かの事件が起きているのだ。
それにしても、モンスターに追われてるのはあんたらも同じだったでしょうが。
しかし、温泉に入っていなくても、やっぱりこうなるか。
私がリラックスしようとすると、邪魔が入る気がするんだよなぁ。
「魔女様! リース王国の村から使者がこちらに向かってきているそうです!」
「使者ですって!?」
どうせモンスターに旅人が襲われてるとかなんだろうと思っていたら、まさかの事態。
他の村から使いが来るなんて、かなり珍しい出来事だ。
だって、私がこの村に来てから、他の村の人なんて一度も見たことないもの。
それも私の出身のリース王国の人だとか。
けっこう距離があると思うんだけど、なんの用だろうか。
ハンナの話では使者が目通りを求めているとのことなので、すぐに来てもらうことにする。
「はぐっ、はぐっ、んぐぐっ、すみませんのぉ。こんなにうまいもの久しぶりなもので。塩が利いていておいしい」
「おいしいですぅううう、失礼しますぅううう」
面会に通された使者のおじいさんと、そのお供のお兄さんは手に肉の刺さった串をもって現れた。
ハンナの話では空腹で衰弱しきっていたのでとりあえず食べてもらったとの話だ。
確かに、二人ともかなりやせ細っていて顔色も悪い。
明らかに栄養失調なのだろう。
しかし、空きっ腹に肉の塊なんて食べて大丈夫なんだろうか。
「あっ、あんたはあの時のじいさんやん! まさか本当に来るとは驚いたで!」
「おぉっ! あの時の猫耳のひと、あなたを信じてここまで来ましたぞ!」
クエイクが老人の手を取ってぶんぶんと振る。
つい先日、サジタリアスの酒場で声をかけられたのだそうだ。
知り合い同士とは驚いた。
人のご縁ってどこでつながっているかわからないものだ。
「この地方の領主をやっているユオです。それで、今回はどのようなご用件で……」
私がそう切り出したのもつかの間、
「領主さま、お願いがございます! 私の村人をこちらの村に移民させてくだされ!」
使者のおじいさんとお供の人は、私たちに対して土下座をする。
しかも床に頭をこすりつけそうな勢い。
「はいいい!? いったい、どういうことです!?」
慌てて立たせると、おじいさんはことの経緯を話してくれる。
一言で言えば、彼らの村は崩壊寸前なので移民したい話だ。
彼らの村はリース王国の北端にある貧しい村らしい。
労役として都会に若者が駆り出されたのに加え、昨今のおかしな気候によって水源が枯渇し、村の収入は激減。
食料の備蓄も底を尽き、そのままでは村は全滅する一歩手前になっているという。
栄養失調気味の子どももいるらしい。
税金の払えない人々は奴隷として売られる可能性もあり、一刻の猶予もないそうだ。
「最近では領主様のモンスター狩りがひどくて、もはや生活できないんです」
特にひどいのが彼らの領主の貴族だ。
そのアホ領主は無茶なモンスター狩りで森を燃やし尽くしたとのこと。
もはや森でとれる山菜や獣さえあてにできず、飢えているとのことだ。
まったく、なんて領主だろう!
あまりにも身勝手で頭にくる。
「ユオ様、どないする?」
「ご主人様、どうします?」
ビジネスパートナーであるメテオと、領地経営の実務を取り仕切っているララの瞳が光る。
後ろの方ではヒーラーのリリが不安そうな顔をしている。
私は実家を追い出された時にリース王国とも決別していると言っていい。
だけど、それは実家との確執であって、別にリース王国には何の悪感情も抱いてはいない。
魔法第一主義で魔法の才能だけで人を判断する貴族たちは大嫌いだけど、彼らのような末端の人には何の罪もない。
そもそも困っている人を助けるのが私のポリシーなのだ。
だから、私の返事は決まっていた。
「わかったわ。私の村はあなたたちを受け入れます。全員、移ってきていいわ」
私はきっぱりと隣村の村長さんにそう伝える。
「あ、ありがとうございますぅうう!」
「これで奴隷にならずにすみます!」
その言葉を聞いた村長さんとお供の人は感謝の言葉を何度も言って、しまいには涙をぶわっと流す。
ひょっとしたら村長さんの村を領有している貴族からはにらまれるかもしれない。
だけど、そもそもほったらかしだったんだし、ここはド辺境だし、彼らの力も及ばないだろう。
「それでは、私たちは村の者に伝えてまいります!」
村長のおじいさんはそう言うと、急ぎ足で帰っていった。
せっかくなら温泉を堪能してほしかったけれど、それぐらい嬉しかったんだろう。
「ユオ様、すぐにでも移住したいとのことで、1週間ほどで村民が倍に増えることになるはずです」
いきなりの訪問者には驚いたけれど、まさしく渡りに船。
これで村を街に変えるための戦略を練り直すことができる。
「えぇ、忙しくなるわよ!」
私はそこにいるメンバー全員に、発破をかけるのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「魔女様の村に移民してぇ……」
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