43.魔女様、冒険者たちを温泉に沈める
「冒険者の皆様、今日はお疲れかと思いますので魔地天国温泉にご案内しまぁす!」
村へと戻ると、冒険者の皆さんはとても疲れた顔をしていた。
長旅の後、すぐに森を探索して戦闘までしたのだから無理もない話だと思う。
ひょっとしたら、疲れが出たおかげで何の変哲もないトカゲに驚いちゃったのかもしれない。
こんなときこそ温泉の出番だ。
マジで天国に連れてっちゃおう!
私たちは村の片隅でへたりこんでいる冒険者の皆さんに声をかけに行くのだった。
「ひぃいいい、魔女様!?」
「お、おんせん? まじてんごく?」
「なんですか、それは?」
「えっ!? お湯の池? 入る? はぁ?」
とはいえ、温泉なるものを説明するのはとてもむずかしい。
お湯の大きな池があって、その中に入るとか想像できないよね。
でも大丈夫。
メテオだって、ドレスだって、温泉に入っちゃえば一発でよさがわかったのだ。
ふふふ、温泉の魅力を知ったら、後にはもう引き返せないよね!
最高の癒しだって、売り込んでおかなくっちゃ。
「まぁ、迷わず入ろうよ、入ればわかる!」
そういうわけで私は彼らを温泉リゾートの方へ案内するのだった。
冒険者さま、御一行、ごあんなぁい!
◇
「ば、ば、化け物だ!!!!!」
「こんなでけぇ、トレント、見たことないぞ」
あ、失敗した。
しかも、盛大に。
意気揚々と温泉リゾートに連れていったのはいいものの、やらかしたことに気づく。
リゾートの入り口が未だにトレントの顔だったのを忘れていた。
「こ、これに入れって言うんですかぁ?」
「ひぃいいいいい、私たちはいけにえにでもされるんですか?」
残念なことに、こいつの口からしか温泉リゾートに入れないんだった。
自慢じゃないけど、相変わらず黒光りした顔である。
見るものを震え上がらせるのにぴったりだ。
ララとメテオに撤去しておくように言っておいたはずなんだけどなぁ。
後で問いただしてみると、「忘れてた、ごめん、悪気はない、今は反省している」らしい。
ちいっ、念には念を入れて自分で確認しとけばよかった。
いや、いっそこの場で爆破させちゃおうかな。
……それはそれで問題があるか。
「この大きさって、もしかして、城壊しのボボギリなんじゃないか!?」
「う、嘘だろ!? どうしてこんなところで面白建築の材料になってるんだ!?」
「わ、わかったぞ! これは罠だ!」
冒険者の面々が巨大なトレントの顔を見上げながらわぁわぁと驚く。
なるほど、みんなボボギリの名前を知っているらしい。
ネームドモンスターってそんなに珍しいんだと感心する一方で、これが入り口というデザインのまずさをひしひしと感じる私なのである。
面白建築になってしまったのは私のせいじゃないんだよ。
ドワーフのドレス及び、そこの悪らつ猫娘のせいなんだよ。
「にしし、それはユオ様がさくっと爆破してもうたんやで。一撃必殺やで」
メテオが相変わらず誤解を招きそうなことを言い始める。
案の定、ハンスさんが「い、一撃で!? う、嘘だろ」などと声をあげる。
ヒーラーの女の子なんか「ひぃいい、恐怖の館ですぅうう……」などと口走っている。
弁明をすべきなのかもしれないけれど、トレントをやっつけちゃったのは事実だし、否定しててもしょうがない。
しょうがないので、「しょせん木だから熱に弱いよね? そういうことだよ?」と伝えておいた。
うまく伝わるかは不明だけど。
◇冒険者と温泉
「よっし、女冒険者のみなさんは私の後に続いて!」
私は冒険者の皆さんに温泉のすばらしさを自慢、じゃなくて、レクチャーするべく、一緒に女風呂までついていくことにした。
男性冒険者の皆さんはスタッフのお兄さんに任せることにした。
「へぇええ、面白そうじゃん!」
「入ってみよ!」
私が一通り温泉について説明すると、女冒険者の皆さんはいそいそと裸になって露天風呂へと出ていく。
うーむ、みんな、引き締まったボディをしていらっしゃる。
「おぉっ! これすごいじゃん! 気持ちいいよ! においはあれだけど!」
「こんなの生まれて初めて! においは変だけどさぁ」
先に湯船に入った二人は初めての温泉でもひるむことはないようだ。
むしろ好奇心旺盛に温泉に浸かってしまう。
さすがは冒険者、見る目がある!
と思っていたのだが、みんながみんなそういうわけじゃないらしい。
「ひぃいいいいい、地獄みたいな臭いがします! 絶対にこれは罠です! やだ、ぜったい、これは罠ですぅうう!」
しかし、ヒーラーのリリだけは湯気をあげる温泉を前に嫌だいやだと駄々をこねていた。
どこかで見たことのある光景に苦笑してしまう。
そう言えば、ララもメテオもドレスも、この温泉のにおいにすっごくビビってたよね。
慣れたら普通なんだけどなぁ。
しかし、言葉だけでこの快感を説明することは難しい。
入らなきゃ温泉の良さはわからないよね。
私はララに命じて、リリをお風呂に入れてもらうことにした。
「リリさん、覚悟してくださいね」
「えっ、ちょっと、まだ死にたくなっ……!? ちょっと、ララさん!?」
ララはリリを捕まえると、温泉のお湯へと一緒に入っていく。
ララはすらっとしてるけど、本当はかなりの力持ち。
リリはなすすべもなく、温泉へと連れ去られてしまうのだった。
とぷんっと、柔らかな水音。
「……においはともかくとして気持ちいいです! 元気が湧いてくるというか、回復魔法にかかったみたいです!」
数秒後、リリは目をキラキラさせて、こう言うのだった。
ヒーラーである彼女はこの温泉に回復魔法のような効果があることを一瞬で見抜いてしまったようだ。
「そう言えば、長旅の疲れが吹っ飛んだみたいな気がする」
「そうそう、今からなら魔法をぶっ放せる気がするよ」
「こんな奇跡の泉を持ってるなんて、領主様って、すごいんじゃないの!」
他の女性冒険者も同じような感想だ。
軒並みいい反応に大満足の私なのである。
私はやはりどんな人にもこの温泉は有効なんだと再確認する私なのだった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「温泉に入ってくるか……」
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