42.新米冒険者リリは禁断の大地で腰を抜かす
『悪い予感はしていたのに、どうしてこんな辺境にまで来てしまったのだろう』
新米冒険者のリリは深い後悔の中にいた。
彼女は酒場で「遠くの村に行く依頼がある」などという商人の声にのせられ、近くにいた冒険者パーティに臨時加入させてもらったのだ。
確かに、この村までは無事ににたどり着くことができた。
初めての野宿は辛かったが、それでも仲間もいるし、モンスターとの戦闘もなかった。
村に到着すると、黒髪の少女、ユオが歓迎してくれた。
彼女はメイドや猫耳の商人たちを引き連れ、村を開発しているとのこと。
同じ年ぐらいの彼女がてきぱきと仕事を片付けているらしい。
その優秀さに劣等感さえ覚えるほどだった。
そして、彼女の属するパーティは森に進むことになった。
領主側から提案されたのは薬草採取だったのだが、強面のリーダーが受け入れなかったのだ。
彼はどうしても、自分の実力を見せつけたかったらしい。
◇
「にぎゃああああああ!!?」
そして、現れたのが陸ドラゴン。
辺境都市のサジタリアスにもたまに襲来する、小型のドラゴンだ。
サジタリアスでは騎士団の精鋭が集まって迎撃する相手だ。
「ひぃいいい」
こんなものが普通に森の中を闊歩しているなんて信じられない。
リリは腰を抜かしながら、ほとんど泣きそうになる。
家出をしなければよかった。
あの猫耳商人の甘い言葉に乗らなければよかった。
サジタリアスで白い狼が出てきたときに引き返せばよかった。
森に入ると言われた時に調子の悪いふりをすればよかった。
そもそも自分には冒険者など無理だった。
彼女は心の底から反省するのだった。
しかも、彼女の属しているパーティは陸ドラゴンに歯が立たないでいた。
非常に硬い皮膚を持っているらしく、一切刃が通らないのだ。
実戦経験のない彼女は身構えることさえできず、しりもちをつくだけだった。
完全に足手まといであり、自分をかばうためにパーティの足並みも乱れている。
「ひ、ひぃいい……!!」
モンスターの凶悪さもさることながら、驚いたのは領主一行の強さだ。
白い狼は陸ドラゴンを雑魚扱いするし、
筋肉が隆々とした中年のハンターは弓矢で応戦し、メイドの女性は魔法で氷漬けにする。
彼らがもしも、サジタリアスにいたら名の通った冒険者として扱われるだろう。
どうして、そんな人材があの辺鄙な村にいるのか謎にさえ思えた。
さらに驚いたのは領主の少女だった。
自分と同年代で明るい性格の彼女だが、モンスターを目の前にしても一歩も引かない。
それどころか、複数のモンスターを瞬時にバラバラにしてしまった。
魔法の詠唱時間もいっさいなく、剣を身構えることもなく、文字通り一瞬で。
あんなに硬い陸ドラゴンの皮膚を切り裂いてしまった。
しかも、彼女の息はまったくもって上がっておらず、汗一つかいていない。
それどころか、「まぁ、トカゲなんてこんなものか」といった表情なのだ。
『これは本当に起きていることなの?』
こんなのはサジタリアスの騎士団だってできっこない。
できるとすれば<<剣聖>>のスキルを持つ、あの子ぐらいなものだろう。
リリの脳裏にはサジタリアスにいる剣聖の顔がうかぶ。
しかし、それ以上にあの黒髪の領主、ユオに底知れない恐ろしさを感じる。
彼女がその気になれば、一発で自分を殺せるのだとわかると、がくがくと膝が震え始める。
そんなことを思ってしまったからだろうか、
「怪我はない?」とユオがリリを気にかけてくれたのに、
「ひぃいいい、分離しないでくださぁい」と、おかしな声を上げてしまう。
リリの心中はほとんど錯乱状態といっていいほどの状態だった。
尋常じゃないほど凶悪なモンスターが現れる。
それなのに普通の村人とメイドさんがやすやすと討伐する。
さらに、村の領主はモンスターを瞬時に片付ける。
ありえない。
ありえないよ、そんなの。
『辺境に住んでいるのは化け物みたいな人たちなんだ……』
リリは地面にへたりこんで茫然自失してしまうのだった。
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