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4.辺境オブ辺境に赴任するとスローライフどころの騒ぎじゃないことに気づく

「ここが私の領地ってわけね…」


 盗賊たちとやりあってから1週間後。

 私たちはやっとの思いで領地となる辺境の村に到着する。


 案の定というか、予想通りというか……。

 今まで私が見てきた中で一番、みすぼらしい村がそこにはあった。

 まさに辺境オブ辺境。

 


「だいぶ、荒んでますね……」

 

 ララがそう言って難しい顔をするのも無理はない。

 村人が住んでいるのは古びた掘っ立て小屋で、村の周囲の柵もがたついている。

 畑もあるが植え付けられた作物はひょろひょろで、収穫できる量は期待できそうにない。


 実をいうと、辺境の村でのんびりスローライフもいいかなぁなんて私は思っていた。


 派手さはないけど、悠々自適に過ごす暮らし。

 朝は鳥の声で目覚めて、純朴な村人たちと健康に過ごす。


 しかし、この村ではかなり厳しそうだぞ。

 スローを通り越してるというか。



「やはり、辺境は辺境ということでしょうか……」

 

 ララの話では、この村が発展していない理由はその立地条件にあるとのことだ。

 村の周辺にはモンスターがうようよと生息しているのだ。


 山を隔てた反対側には魔王が統括する第三魔王国もある。

 一方で休息できる宿屋はないので、冒険者は集まらないとのこと。


 何度も言うけど、辺境オブ辺境。

 

 この土地は開発してもモンスターや魔族に蹂躙されるだけの土地なのだ。

 見える土地はすべて好きに使っていいなんて言われたけど、無事に生きていけるかすら怪しい。



「おぉ! ユオ様! 私がこのヤパン村の村長をやっているサンライズでございますじゃ。先代のラインハルト公のもとでは騎士をしておりました!」


 村に到着すると村長のおじいさんと村人衆が出迎えてくれる。

 騎士のサンライズってどこかで聞いたことある気もするけど、どうみても普通のおじいさんだ。


 いや、ちょっと震えているし、いつ逝ってもおかしくないレベルにさえ思える。


「恥ずかしながら、モンスターにやられてしまいまして、このありさまで……」


 確かにおじいさんは足に怪我をしているらしく、松葉杖らしきものをついている。

 おじいさんはそれこそ立っているのもやっとといった様子で、孫の女の子が心配そうに肩を支えていた。


「私はハンナと申します。領主様、どうぞよろしくお願いいたします! 村の外の人には久しぶりに会いました!」


 村長の孫娘はそう言って頭を下げる。

 素直そうないい子で、たぶん同い年ぐらいだろう。

 

 負傷している高齢の村長はともかくとして、孫娘の女の子も村人衆もみんな痩せていて、栄養状態もすこぶる悪そうだ。


 みすぼらしい家にやせこけた領民の皆さん。

 想像以上に先が思いやられる領地だぞ。



「村の中にまでモンスターが出るのですか? 結界はないのですか?」


「先日の魔物は規格外でして並の結界など役に立たないのです…。誠に面目もございません」


 村長さんの話によると、村の家畜を襲った魔物を追い払う際に負傷したとのことだ。

 モンスター避けの結界が効かないなんて、そんなのアリ!?


 見回りの人員も必要そうだし、村を守る柵も強化しなきゃいけない。

 やるべき仕事が膨大だってことがよくわかる。



「ご主人様が実戦にでる機会もあるかもしれませんね」


「そうね、腕が鳴るわ」


 実戦と聞いてぶるっと武者震いする私なのである。

 私は魔法も剣もからっきしダメだけど、格闘技は得意なのだ。

 この村に来るまでの間にモンスターと戦ってきたし、村を守るためなら受けて立とうじゃないの。


「いやいや、途方もない化け物ですぞ。都会の魔物とは質が違います」


「そうですよ、油断してるとぼきゃっとやられるんですよ」


 私たちがやる気になっていると村人の皆さんはオロオロとし始める。


 ハンナの『ぼきゃっ』っていう擬音語は怖いけど、領民を守れてこそ領主だと思う。

 私はやせ我慢気味に「もしもの時は任せなさい」と胸を張るのだった。

 

 その後、村人たちは私たちの暮らす屋敷まで案内してくれる。




 ◇



「それじゃ、お掃除しちゃいますね! ここまで汚れてると逆にテンションあがります! ご主人様のためにはりきっちゃいます!」


 屋敷に入ると、ララはさっそく掃除を始めていく。

 ほこりをかぶった家具が彼女のスキルの前では魔法のように輝いていくのが楽しい。


 一時間もすれば、この埃だらけの屋敷もぴかぴかに磨き上げられてしまうだろう。

 私はそれをありがたく見守る。


 この屋敷は昔、おじいさまが使用していた場所で、一通りのものは揃っていた。

 とりあえず寝るところには苦労しないらしく、私はほっと胸をなでおろす。



「ありがとう。それじゃ、私は屋敷を探検してみるわ」


 屋敷の中を歩き回っていると「ヤパン資料室」と書かれたドアを発見する。ふぅむ、資料室ね。こんな辺境にしては珍しい響きだ。


 サビ付いたドアを開けると資料室には様々なものが陳列されている。

 ちょっとかび臭いけど、王都にあった図書館みたいで落ち着く気がする。

 ふぅん、おじいさまのコレクションか何かかしら。


 陳列されているのは私の目にはガラクタとしか思えないものばかりで、ちょっとうんざりしてしまう。宝石とか金の延べ棒とかだったらよかったのに。


「あれ、なんだろ、この本…」


 そこには『村にあるノボリベツ洞窟より発掘』とラベルの貼られたボロボロの本が置かれていた。


 大判の本であるにもかかわらず厚みはない。

 ちょっと珍しいタイプの本だ。

 興味本位で一冊手に取ると、私は思わず息をのんでしまう。

 

 そこには魔法絵画、いやそれ以上に鮮明な絵が描かれていたのだ。


「すごい……!」


 地中から発掘されたものとは思えないほどの鮮明な絵画で、人々の暮らしぶりが手に取るようにわかる。

 絵の傍らに書かれている文字は私たちの使っているものとは異なっていて、あきらかに異文化・異民族の手による書物だということがわかる。

 あるページには衣服を脱いだ女の人がうっとりした表情で白く濁った池の中に入っている様子が描かれていた。



「……なにこれ?」


 濁った池に入って何が楽しいんだろうって思ってしまう私なのである。

 王都には水浴びやお湯浴びの習慣はあるけど、こんなの見たことない。


 うーむ、異民族には当たり前の習慣なんだろうか。


 彼女の表情は至福のひと時を味わっているっていう感じにも見えるけれど、水浴びだとしてもかなり妙な光景だ。


 しかし、よーく見ると、彼女の周りには湯気が立ち上っている。

 この様子からすると、彼女の入っている濁った池は温かいのかもしれない。

 その本にはこの妙な光景以外にも、いろんな絵画が掲載されていた。



「ご主人様、そろそろご飯にいたしましょう」


 鼻息荒く謎の本を読んでいると、ララが私を呼びに来る。

 気づいたら1時間以上もヘンテコな本を読んでしまっていたらしい。

 だって、おもしろすぎるんだもの。


「ねぇ、ララ! 見てよ、これ!」


「さすがはご主人様、興味深いものを見つけられましたね!」


 こんな面白いものを一人で独占するわけにもいかない。

 私はララにその本を見せて、二人であれこれ話しあうのだった。


 私はまだ知らなかった。


 この本が私の一生を、そして、この土地の将来を大きく左右するなんてことを。



【魔女様の手に入れたもの】

・辺境の村:100人足らずの貧しい村。禁断の大地に位置。治安、収益ともに低い。

・古文書:村から発掘された謎の古文書。オールカラーで異民族の風習を解説しているようだが全ては謎。

「面白かった!」


「濁った池が気になる!」


「古文書……!?」


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