39.魔女様、冒険者たちを脅かすつもりもないのに度肝を抜きすぎて阿鼻叫喚になる
「にぎゃあああああ!」
「なんだ、こいつ! 陸ドラゴンの亜種じゃないのか!? どうしてこんなところに!」
私とララ、それに村のハンター数名と冒険者の皆さんで森をしばらく歩き始めた時だった。
私たちの目の前に「トカゲ」と呼んでいる2足歩行のモンスターが現れる。
3〜4メートル程度の身長で、群れで狩りをするモンスターだ。
ちょっと恐ろしい外見だけど、尻尾部分は村で大人気の食材だったりもする。
輪切りにしてステーキにするととてもおいしいのだ。
シュガーショックも大好物であり、いつもレア気味のステーキをはっふはっふと食べる。
私は牛型のモンスターの肉のほうが好きだけど。
しかし、今はそんなことを言っている場合じゃない。
意気揚々と森の中に入っていった冒険者の皆さんは、ここいらの凡モンスターであるトカゲ相手にめちゃくちゃ苦戦している。
早い話、歯が立たないのだ。
剣も、斧も、弓矢も魔法もどうにもこうにも当たらない。
「ひぃいいいい、やっぱり来るんじゃなかったぁ……!!!!」
特にヒーラーの女の子なんか腰を抜かして口をパクパクさせてしまっている。
「お、お前ら気合を入れろ! 死ぬ気でいけ!」
「無茶言うな! かなうわけ無いだろ、あれドラゴンだぞ!」
「こんな話、聞いてないぞ!」
うーむ、新米冒険者の彼女はいいとして、腕に自信のありそうだったハンスとそのお仲間まで歯が立たないってことがあるかしら。
あれを「ドラゴン」って呼んでるぐらいだし、もしかしたらトカゲの類いが苦手ってこともあるかもしれない。
たしかにそういうのあるよね。
私も虫型のモンスターとか嫌いだし、見つけたら一発で<<蒸発>>させるもの。
苦手なモンスターといつまでも格闘させるのは悪いよね。
そう判断した私は冒険者の皆さんに救援を送ることにした。
「シュガーショック、やっちゃいなさい!」
私が号令を出すと控えていたシュガーショックが大きな白い狼へと変身!
そのまま、トカゲの喉元に食らいつく。
彼はぶるんぶるんとトカゲを振り回し、辺りの木にぶつけるのだった。
トカゲはそのまま沈黙してしまう。
「よぉくできました。えらい、えらい!」
命令を達成し、嬉しそうに近づいてくるシュガーショックに骨を与えると、ばきばきっと音を立ててその場で食べ始める。
かわいい。
犬が何かを食べている様子は和むんだよなぁ。
「どう、シュガーショックって強いし、かわいいし、賢いでしょ?」
「ひ、ひぃいいいい、エサにしないでくださいいぃぃい」
場を和ませようとヒーラーの女の子に話しかけてみるものの、腰を抜かしたまま恐怖に歪んだ顔をする。
うーむ、巨大化させたのがまずかったのか。
それとも、犬が苦手とかなんだろうか。
このリリって子は私と同じぐらいの年頃だし、女の子といえば「もふもふ」が好きなはずなんだけど。
気が合うと思ったのになぁ。
「予定ではこの先の虚ろの森の入り口まで行く予定ですが、皆様、いかがいたしましょうか?」
ララが冒険者のみなさんに今後の計画のお伺いを立てる。
けれど、半分以上、顔を青くしている。
そりゃそうだ、明らかにトカゲ型のモンスターが苦手っていう様子だったものね。
しかし、リーダーのハンスさんだけは「まだだ! まだ進むぞ! 今度こそ俺たちの実力を見せてやる」と気炎をあげ、パーティのうち何人かはそれに同調する。
確かに彼らの言うところの「大活躍」はまだ見せてもらっていないし、トカゲ以外のモンスターなら楽勝なのかもしれない。
とはいえ、ハンターがいうところによれば、まだまだ森深くとは言えないそうだ。
この間のトレントみたいなのは出てこないらしいので、冒険者の顔を立てるためにも進むことにする。
いざとなったらハンターさんもいるし、シュガーショックもいるから大丈夫だろう。
◇
「ひぃい、4匹も出てきやがったぜ……」
ハンターが虚ろの森と呼んでいる場所に入ると、木々の姿が変わり始める。
どうもこうも禍々しい雰囲気で、太陽の光も弱まっている感じがする。
気づいた時にはまたもやトカゲが4体あらわれる。
他の種類のモンスターだったらよかったのに、彼らも運が悪い。
シャアァアアア……!
トカゲのモンスターは唸り声をあげる。
私達を前後左右からの挟み撃ちするつもりらしい。
案外、知恵が回ると聞かされていたけど、想像以上だな。
一体はシュガーショックがやっつけるけど、三体は私たちに大きな口を開けて迫ってくる。
「ひぎゃああああ!」
「ここで死ぬのはいやああああ!」
「助けてくれぇええ!」
冒険者の皆さんは応戦するけど、手も足も出ない。
ヒーラーの女の子だけでなく、他の冒険者も大きな声で叫ぶ。
ほとんど泣きそうな顔しているし、やっぱりトカゲが苦手なんだなぁ。
普通に考えたら絶体絶命。
護衛役のシュガーショックがもう1体を倒す間に私たちは襲われてしまうだろうから。
「ユオ様、私たちにお任せください!」
しかし、私たちだってバカじゃない。
『もしも』のときのために、一応の策を練っておいたのだ。
ララは氷魔法で、ハンターは弓矢でそれぞれトカゲをやっつける。
氷漬けになったり、弓矢で射抜かれたりして、ばたりと地面に伏していくトカゲたち。
まぁ、これぐらいならハンナや村長さんがいなくてもやっつけられるよね。
ララも自主練で強くなっているし、ハンターのおじさんたちもどういうわけか強くなっているし。
「まだです! ユオ様、上から跳んできます!」
そんな風に思ったのもつかの間、ララの鋭い声が響く。
なんと前後左右からさらに4体も跳んできたのだ。
今回に限っては彼らが一枚上手だったということだろうか。
トカゲたちはすさまじい反射神経でララたちの迎撃をかわしてしまう。
シュガーショックはかろうじて一匹をやっつけるも、残りは三体。
「ひぎゃああああ!? もうお終いですぅううう!!?」
敵は明らかに冒険者のうち戦闘向きでないメンバー、すなわちリリに狙いを定め、大口を開ける。
か弱い女の子を狙うなんて、なんて卑怯な奴なんだろう!
「みんな、伏せて!」
ここでさらなる奥の手を発動させる。
護身術として私がララと訓練していた、とある技を試してみるのだ。
その名も熱視線。
すっごく簡単に言うと、私の視線の先に細い熱線を出すという技なのだ。
その熱線はめちゃくちゃ高温で、石ぐらいなら簡単に溶かしてしまう。
まぁ、本当はお肉を切るための家庭的な技なんだけど。
私は視界に入ったトカゲの首に視線を飛ばす。
赤く細い熱の直線が私の視線の先に現れる。
そして、音もなく、まるで光のような速さでモンスターへと伸びていく。
モンスターは一切、警戒することもなく、その赤い光に触れてしまう。
「グ……」
次の瞬間!
空中にいた三体のモンスターの首と胴体が一瞬で分離してしまう。
どたどたっとトカゲの輪切りが地面に横たわる。
うひぃ、ちょっと残酷だけど、か弱い女の子を泣かせた罰だし。
冒険者の皆さんはこういうのも慣れてるよね。
「よっし、狙い通り!」
ちょっとだけびっくりしたけど、やっぱり相手はしょせんトカゲ。
私達はやすやすと完勝してしまうのだった。
「なにが起きてるんだ……」
「おうちに帰りたい……」
「陸ドラゴンをバラバラに斬りやがった……」
「ば、化け物だ……」
「こ、こ、こ、殺され」
振り返ると、冒険者の皆さんは地面に腰を落として呆然としていた。
ヒーラーの女の子なんか卒倒寸前になっていて、他の冒険者も口をぱくぱくさせている。
私からすれば、熱視線はトカゲを切るためだけのとっても家庭的な攻撃なのだ。
爆発させたり、蒸発させるのより、よっぽど。
「怪我はない?」
新米冒険者の女の子に手を差し出すも、「ひぃいいい、分離しないでくださぁい」と怖がられてしまう。
あれ? 思ってた反応と違う?
もうちょっと感謝されると思ったんだけど。
そうこうするうちに、
「さすがはご主人様! お見事です! 爆発させるよりも素材の回収に向いてますね」
「いやぁ、ララさんに言われて魔女様に獲物を残しておいた甲斐がありました!」
ララやハンターの面々が魔女様、魔女様と褒めたたえに来るではないか。
やたらと盛り上がって私を胴上げにでもしそうな雰囲気だ。
「ちょっと、待ってよ。別に肉を切るのと同じ要領だったわけだし、ただのトカゲでしょ?」
言い訳しても、彼らはわいのわいのうるさい。
その傍らで冒険者の皆さんは口をあんぐり開けている。
あっちゃあ、一番、まずいパターン。
っていうか、私の力を印象付けるために敢えてモンスターを残してたわけ!?
「ララ! どーしてくれるのよ! 冒険者の皆さんが明らかに引いてるじゃん!」
「いえいえ、実力を見ることも大事ですよ、見せつけることもね!」
「見せつける必要なんかないっての!」
森の探索を切り上げた私はララに猛抗議するのだった。
だが、ララは相変わらずの何食わぬ顔で私の抗議をあしらうのだった。
【魔女様の発揮した能力】
・熱視線:目から赤い熱線を出して焼き切る。ある程度コントロールすることで、対象を高速で射抜く、または切り裂くことができる。超高温で焼き切るため、当たれば両断される。超高温のため、当たっただけでも致命傷になりうる。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「全然、家庭的な攻撃じゃない……」
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