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37.クエイク、冒険者を村に運ぶ



「そんでなぁ、すごいねん、その村! 領主さまがめっちゃいい人で、温泉いうのがめっちゃ温かくてなぁ、食べ物とか美味しいし、安全やし、最高の場所やで!」


 ここは辺境の防衛都市サジタリアスの酒場。

 猫人族で商人のクエイクは冒険者の一団に見てきたことを大声でまくし立てる。


 彼女が集めた冒険者は9人組のパーティーで冒険者ギルドの査定ではCランクに属する。

 戦闘経験も豊富にあり、比較的大きめの仕事もできる中級者グループだ。



「クエイクさんよぉ、威勢がいいのはいいが、本当にその村があるんだろうな? こちとら禁断の大地に行くんだぜ。詐欺や騙りだったら、ただじゃすまないぜ?」


 冒険者パーティのリーダーである、スキンヘッドの大男が口を開く。

 その額には大きな傷があり、歴戦の戦士という雰囲気である。

 丸太のように太い腕からしても、その実力は確かなものであることがうかがえる。


「ふふふ、うちも絶対に詐欺やって思ったんやけどなぁ。それがちゃうねん。まぁ、うちを信じて来たってぇな。絶対に悪いようにはせぇへんから」


「おうおう、大した自信やな」


「素材はざっくざっくですわ。ほら、この魔石、見てみ? 向こうでとれたもんやで? これだけでも家とか建ちますわ」


 そう言ってクエイクが取り出したのは、手のひらサイズの大粒の魔石だ。

 市場に出回ればかなりの額になる。


「す、すげぇ!!」


「これだけでもしばらく食っていけるぞ!」


「こんなの見たことない!」

 

 当然、冒険者たちからは歓声が上がる。


「お兄さんらも一攫千金のチャンスを棒に振りたないやろ?」


 そう、クエイクはクエイクで肝っ玉が太いのだ。

 強面の男に、いくらすごまれても怖じ気づくことはない。

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか? だって、あの禁断の大地ですよね? 古代種のモンスターばっかりで手が付けられないって聞きましたけど……」


 ヒーラーの服装をした15歳ぐらいの少女が不安そうに声を出す。


 彼女はふらりと一人で酒場にやってきて、パーティに加入したいと割り込んできた人物だった。

 美しいピンク色の髪の毛はきちんと手入れがされており、装備品も一流。

 しかし、まだ経験が浅いのか口調はおどおどしている。


「おいおい、リリ、心配するな。辺境のモンスターぐらい俺たちがやっつけてやるぜ。俺の剣さばきを披露してやる」


「何を言うか! わがはいの斧の腕前をこそ見てもらおう」


 リリという可憐な少女にいいところを見せたいと思ったのだろう、冒険者の男数名が大騒ぎする。

 他の女性メンバーはもてない男たちの行動に、はぁっとためいきを吐くのだった。





「もしもし、そこの猫人の娘さん、ちょっとよろしいかの?」


 酒場での説明会を終えたクエイクの後ろから、一人の老人が声をかけてくる。

 その顔には深いしわが刻まれていて、どことなく苦労の影がうかがえる。


「……ん、どうかしました?」


「さきほど、あなたが言っておったたことは本当ですか? あの禁断の大地の村がそんなに栄えているというのは」


 老人が聞いてきたのは、辺境の村についての話だった。

 冒険者の前で誇大気味の宣伝をしたのが耳に入ったのだろう。


「ふふ、せやで。全部、本当の話やけど、じいさんも関心あるん?」


 クエイクは話しかけてきた老人に禁断の大地の現状について伝える。

 強力な指導者が現れて、平和で安定した村ができつつあることを。

 

「本当ですか!」


「本当やで! そこの領主様がめちゃくちゃ優秀な人で。人材だって絶賛募集中やし!」


 クエイクは老人に辺境の村の魅力をこれでもかと叩き込むのであった。






「ひぃいいい、殺されますぅぅうう!」


「な、なんじゃ、こいつはぁあああ!」


「みんな、構えろ! こいつは全員一気に行かないと仕留めきれんぞ!」


 明朝、城門に集まった冒険者たちは悲鳴に似た声をあげる。

 クエイクがパンパンと手を叩くと、風のような速さで真っ白い狼が現れたのだ。


 村落の民家なら1軒分ほどもある大きな体躯に眼光の鋭い瞳。

 それはDクラスモンスターの白狼ホワイトウルフあるいはCランクの銀狼シルバーウルフにそっくりなのだが、大きさもオーラも筋肉の量も数倍違う。


 街さえ破壊しかねない凶悪さを備えていた。


 冒険者パーティのうち、あるものは武器を構え、あるものは魔法を詠唱し始め、あるものは恐怖に腰を抜かす。

 特に新米冒険者のリリは大声で絶叫するのだった。



「にゃはは! 大丈夫やって、この子はめっちゃ人に馴れてるさかい! ほれ、シュガーショック、朝ごはんやで!」


 クエイクはその白い狼の頭をなでた後、バッグから肉を取り出してぽいっと与える。

 猫人である彼女も犬の姿をした生き物は本能的に苦手である。

 実際には恐怖を感じないこともないが、冒険者の手前、平然と構えることにした。



「だ、大丈夫なのですか!? ま、まさか、クエイクさん、そのモンスターをテイムされたんですか?」


 さきほどまで腰を抜かしていたヒーラーの少女が恐る恐る近寄ってきた。

 それでも、まだ疑っているようで、その声は恐怖に震えている。


「ふふふ、これから行く村の領主さまがさくっと手なずけてもうてんねん。道中に説明するけど、この子がいれば道中はめっちゃ安全やで。モンスターよってこぉへんから」


「こんな化け物をテイムするってどういうやつだよ、その領主さまは……」


 冒険者の一行はあきれたようにあんぐりと口を開ける。

 巨大なモンスターを完全に使役するのは、かなりランクの高い魔獣使い(ビーストテイマー)でなければ難しいからだ。


 しかし、ここで呆然としてるわけにはいかない。

 この巨大な狼に護衛してもらえるなら、かなり安全になるだろう。


「よぉし、気合を入れ直せ! 今から辺境行きだ! 怖じ気づいた奴はいないだろうな?」


「おぉっ! 稼いでやろうじゃねぇか!」


 スキンヘッドのリーダーをはじめ、冒険者の面々は気合を入れ直す。

 これから始まるのは死霊の住む山であるデスマウンテンを迂回し、3泊の野宿を含む過酷な旅なのだ。


 冒険の旅は少しの油断が命に直結する。

 クエイクはその様子を頼もしく眺めると、いざ出発と辺境の村を目指すのだった。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「クエイク、真面目に働いてる……」


と思ったら


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