表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
351/352

351.SS 魔女様、「そろそろ、炎を吐きだすのはやめた方がよくない?」と思い至る



「ドレス、燃え吉、よく来てくれたわね」


「おうよ、ユオ様に呼ばれたんならどこへでもついていくぜ」


「は、はいでやんす」


 ここは温泉リゾートの一角の会議室。

 私は秘密の会議をするためにドレスと燃え吉をそこに呼び出したのだ。

 

「しかし、いつになく神妙な顔をしてるな。何か相談ごとかい?」


 ドレスは少しだけ訝しげな顔をする。

 さすが勘の鋭い彼女なだけはある。

 私の思惑に気づいているのかもしれない。


 私はふぅと息を吐いて、ドレスたちの瞳をじっと見つめる。

 それからゆっくりと口を開くのだった。


「今更だけど、私、口から火を放ち過ぎだと思うのよね」


 そう、今日の議題は私の最近の癖である、口から炎を放つ行為についてだ。

 サジタリアスに魔族が攻めてきたころから、ついつい放つようになってしまっている。

 たくさんのモンスターをやっつけられて便利なのだが、私はそれが大変、恥ずかしいのである。

 考えてもみて欲しい、口から炎を吐く乙女なんかいるはずがない!


「それですかい! 聖王国の時も盛大に破壊して、かっこよかったぜ」


「死ぬかと思ったでやんす」


 目をキラキラさせるドレスと、顔を引きつらせる燃え吉。

 好対照なリアクションである。

 ドレスは魔道具職人だから何かを破壊できればそれで満足なのだろう。

 だから、私が火を噴いてもそれほど違和感を感じていないのだ。

 いや、それどころかちょっと喜んでいるふしさえある。


 だが、ここで正解のリアクションは燃え吉だ。

 普通、火を吹いたら変だと思うのだ。

 それも山でも焼き尽くすような火を放ったら、化け物扱いされてもおかしくない。


「私だからまだ化け物扱いされずに済んでるわけだけど、やっぱり炎をどっかんどっかん吐き出すのは、やめたほうがいいと思うんだよね」


「いや、それはもう手遅れというか、お家芸では?」


「しぃっ、親方、それを言ったら、あっしらも消されるでやんす」


「な、なんでもないぜ!? つまり、ユオ様は炎を吐きだすのをやめたいってことなんだな? よぉくわかったぜ。確かに年頃の女の子にはちょっとハードルが高いよな」


「そうなのよっ!」


 私の真意を理解してくれたので、思わずドレスの手を握ってしまう。

 そう、私のようなか弱い女子が人前で口から炎を吐きだすなんてありえないのだ。

 こう見えても、公爵令嬢の出なのである。

 羞恥心はそれなりに持っている。


 ララに相談したところ、「私はご主人様の破壊光線が好きですよ?」と相手にもならない。

 炎を吐きだす女子を好きな人間がいてたまるかっていうの。

 どう考えても、畏怖の対象でしょうが。


「なるほど、だから、ここの会議室で話し合いたいってことなんだな」


 ドレスは私の思いが分かったらしく、ぽんと手を叩く。

 その通り。

 うちの屋敷で相談したら、メテオとかクエイクがどこからともなく現れてしっちゃかめっちゃかになる可能性がある。

 それゆえ、温泉リゾートでの秘密会議なのである。


「しかし、なんであっしらが呼ばれたんですかい?」


「なんだか嫌な予感がするでやんす」


「実はね、二人に協力して欲しいの! 私の代わりに炎を吐きだしまくってほしいのよ!」


「ユオ様の代わりに?」


「炎を吐きだすでやんす?」


 私の立てた作戦は、ずばり「イメージすり替え大作戦」である。

 燃え吉が村のいたるところで火を噴いて見せるのである。


 これまで燃え吉はいろんな場面で炎を吐いてきた。

 例えば、モンスターの討伐をするとき。

 例えば、温泉の温度を調整するとき。

 例えば、クレイモアのクッキーを焼き上げるとき。


 しかし、これらの仕事はあくまでも裏方である。

 私としてはもっと表立って炎を吐き出してもらって、「炎を吐くのは燃え吉」というイメージを定着させてほしいのだ。

 特にうちの村人の前でやってほしい。

 あの人たち、私のことをちょっと勘違いしていると思うし。


「なるほど、面白そうじゃねぇか! 燃え吉を使って大道芸みたいなのをやってみたかったんだよ」


「面白いでやんすかねぇ? 嫌な予感しかしないでやんすけど」


 燃え吉はともかく、ドレスはすぐさまやる気を見せてくれる。

 彼女は情熱にあふれる女の子である。

 きっと、素晴らしい見世物を作って、私のイメージを塗り替えてくれるはず。


「それじゃ、よろしく頼むわ! 私、明日からリース王国に行ってくるけど、その間、よろしくね!」


「任せとけって! 炎を吐きだすのは燃え吉だって、しっかり叩き込んでやるぜ!」


 ドレスは胸をどんっと叩いた。

 よぉし、これで私のイメージも爆上がりだよね。

 変なイメージを払しょくできて良かった!





「な、なにこれ?」


 1週間後、リース王国での会議が終わって村に戻ると、大きな垂れ幕が飾ってあった。

 そこにはこう書いてある。


『魔女様★最高&最強物語 今日も上演! 感動の火炎地獄をあなたに』


 どうやら演劇か何かの催しだろうけど、わけがわからない。

 そんな物語聞いたことないし。


「あーっ、本物の魔女様だぁ!」


「魔女様ぁああ! なんと美しい!」


 しかも、である。

 村に一歩、足を踏み入れると、観光客や村人の人からわいのわいのと囃し立てられる。

 これまでも沢山の声援を受けてきたけど、その比ではない。

 な、何が起こってるわけ!?


「おぉっ、ユオ様、ちょうどいいところに戻って来たぜ! さぁ、今から上演開始だ! 特等席で見てくれよな!」


「特等席? どういうこと?」


「いいから、いいから! すげぇのができたんだよっ!」


 ドレスに案内されて椅子に座らされたのは、温泉リゾートの中に作られた劇場だった。

 それもただの掘っ立て小屋ではない。

 きちんとした舞台に客席のある劇場である。

 もしかして、劇が始まるの?

 なるほど、この中で燃え吉が炎を吐きだすってこと?


 私は無理やりそう結論付けた。

 だが、もちろん、そんなはずはなかった。


「盗賊なんて許せないっ! 私の炎を喰らいなさいっ!」


 劇が始まると、燃え吉の操る、例の私そっくりな人形が舞台の上で炎を吐きだしたのだ。


「ひげぇええ!? 炎を吐きだすなんて伝説の化け物みたいじゃねぇか」


「助けてくれぇええ! 炎を吐きだすなんて聞いてない!」


「親びんが真っ黒こげだ! 恐るべし、灼熱の魔女!」


 悪役の男の人たちは顔を真っ黒にして逃げていく。

 これはおそらく、私が村に来る前のときの一場面を再現したものだろう。


 しかし、言わせてほしい。

 私はその時は口から火を噴いてない。地面を爆発させただけだ。

 それに、そもそも、私そっくりな人形の口から炎を吐いたんじゃ意味がないじゃんっ!

 劇はそのまま続き、ありとあらゆる場面で燃え吉は炎を吐きだした。


「ブラボー!」


「魔女様、さいこぉおおお!」


「爆炎の魔女様、世界最強!」


 このまま口から火を放って劇場ごと燃やしてやろうかと思ったが、観衆たちは大喜びである。

 さすがにその空気を壊すことはできないわけで。


「ふふ、ご主人様、気に入って頂けましたか? しっかりイメージアップしましたね」


 隣でにっこりと微笑むのはララである。

 その表情を見た私はすべてを理解する。

 今回のリース王国での会議に珍しくララは参加しなかったのだが、その理由がわかったのだ。

 彼女はドレスをそそのかして、とんでもない劇場を作ってしまったのだ。


「絶対、許さないからねっ! これじゃ私が四六時中炎を吐きだしてるみたいじゃん」


「うふふ、怒った顔もかわいいです」


 ぷんすか怒ってみせるのだが、ララには全然効いたためしがない。

 あぁ、神様、どうして、私の行動は裏目に出るのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

メイドさんの活躍する新連載スタートです! 下のURLをクリックしたら見られます

https://ncode.syosetu.com/n0699ih/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

書籍版第三巻が発売中です。
l017cqekl6nkc64qf50ahkjj6dry_vk2_dc_ix_7qao.jpg

コミカライズ版第1巻が発売中です。

g2opjx6b84b9kixx3rlfe0tedyf_1b5q_dc_iy_2tr1.jpg
― 新着の感想 ―
一年とちょっと振りに見に来て一話更新されてた♪ 作者様お久し振りです。 その節は本当にありがとうございました。 去年の一年間は小説サイトから完全に離れて居たので、 書籍やらコミック等の情報も全く見てな…
[良い点] あけましておめでとうございます [一言] 感想は"爆!!"でいいですよね(≧∇≦)
[一言] 新年更新あけましておめでとうございますと言いたいがトンデモナイ正月になりそうですな(٥↼_↼) そちらは大丈夫ですが?(゜o゜; 口からが嫌なら両手を合わせてハド○拳打ちか、両手を掲げて小…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ