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350.SS:魔女様、温泉レビューを作りますっ! その2


「ここの温泉は最高だぜ! ダンジョン探索の疲れが吹っ飛ぶからな!」


「魔女様の村の奴とはお湯の香りもちょっと違うんだよな」


 ダンジョン村に到着した私たちは再び口コミ集めである。

 ご飯についての意見などももらえたりして、なるほどと思うことが多い。

 口コミって大切なんだなぁと感心する私なのであった。


 ダンジョン村の温泉のロビーには男性客がたくさんたむろしていた。

 やはりダンジョンがあるっていう特性上のものだろうか。

 冒険者の男女の比率は半々ぐらいなものなのに、ダンジョン好きは男の人が多いとか?


「よぉし、それじゃ内側に入って、みんなが楽しんでる様子を見て来よう!」


 せっかくダンジョン村に来たのだし、温泉に入るのが世の情というものだ。

 最近は忙しくて屋敷の温泉がメインだったわけだし、ここいらでさっぱりしたい。


「ご、ご主人様、ちょっとお待ちを。あ、あれは!?」


「ひ、ひぃいい、クレイモアやん!?」


 温泉に入ろうとする私を制止するララとメテオ。

 その視線の先には温泉の入り口があり、そこにはクレイモアが立っていた。


 しかし、いつものクレイモアではない。

 血まみれなのである。


「おおぉ、魔女様なのだ!」


 彼女は血まみれにも関わらず笑顔でこっちにやってくる。

 周囲にはダラダラ血が落ちる。

 ひぃいい。


「ク、クレイモア、それは!?」


「あぁ、ダンジョンの中にでっかくてうごめくのがいたのでやりあったのだよ! いやぁ、骨の折れる奴だったのだ。骨を折ってやったけど」


 なんだか物騒なことを言いながら最高の笑顔を見せる。

 純粋な瞳はかわいいし、立ち姿はキレイで得になるんだけど、邪悪すぎて目のやり場に困る。

 ふぅむ、こんなんで温泉に入られたら困っちゃうよねぇ。

 

「ふふふ、大丈夫やで。アレを見てみぃ!」


 私が口元に手を当てて考えていると、メテオがずばぁんっと指をさす。

 その先には「浄化はこちら」と書かれた部屋があった。

 いわく、ダンジョン探索のドロドロを落とす場所だとのこと。

 浄化魔法の設備もあるらしく、強固な汚れもイチコロだとのこと。

 

「にゃはは、すぐにキレイにしてくるのだっ!」


 クレイモアは慣れた様子でその部屋に入り、五分ほどすると戻って来た。

 確かにキレイである。

 血みどろはさっぱり消えているし、髪も元通りにツヤツヤだ。


 しかし、へそ出しのキャミソールにホットパンツで現れるのである。

 薄着過ぎてその目のやり場に困る。

 体のラインがくっきり浮かんでるし、パツパツすぎてこっちまで恥ずかしくなってくる。


 この子、下着じゃないから大丈夫みたいな理論の持ち主なんだろうか。

 

「にゃはは、それじゃあ、温泉に入ってくるのだよっ! こっちの温泉はすごいのだ、魔女様の像の口からお湯がどばどば、にゃははは!」


 クレイモアは嬉しそうに女湯の方に入っていった。

 最後の方の言葉は聞き取れなかったけど、楽しんでいるようで何より。


 そして、私はあることに気づく。

 ダンジョン村の温泉に男性客が多い理由が。

 奴ら、クレイモアが目当てなのである。

 だって、クレイモアがいなくなったらどこかにいなくなっちゃったんだもの!


 お客さんが増えるのはいいけど、風紀が乱れるのは避けるべきだよね。

 クレイモアは無防備だから、特に。


「ふぅむ、浄化する場所があかんかったかぁ」


「そうですね、女湯には外側から入れるようにしましょうか」


 メテオとララの二人はすでに改善策に気づいたようだ。

 早いところ、工事して欲しいよね。全く。



「よぉっしゃ、今日の最後は蒸気の温泉と熱空間温泉や!」


 ダンジョン村から引き返してきた私たちはリゾートの一画にある変わり種の温泉の感想を集めることにした。

 特に私が開発したこれら二つの温泉は導入されてからまだ日が浅い。

 ひょっとしたら、思わぬ不評を買っているかもしれない。


「くはーっ、熱空間の後の酒は最高だなぁっ!」


「これがないと一日が終わんないよなっ!」


「お嬢ちゃんたちにはまだ早いかもなっ!」


 まずはお酒で盛り上がる男の人たちである。

 ふぅむ、熱空間はお酒との相性がなかなかに良いとのこと。

 私はララにお酒を止められているのだが、いつかそういうこともやってみたいものだ。


「蒸気温泉はいいわよぉ。全身のお肌がぷるぷるになるからぁ」


「そうそう、もっちもちだよねぇ」


 続いては村で働く女の人たち二人連れ。

 お肌がぷるぷるなのはもちろんのこと、違う部分もぷるぷる、もちもちさせていらっしゃる。

 羨ましいことこの上ない。

 うちの温泉リゾートの民族衣装を着ているのだけど、ちょっとはだけさせすぎではないだろうか。

 

「ふぅむ、ご主人様もあれぐらい、いけますかね?」


「いや、あぁいうのはドレスとかクレイモアがやるやつやで?」


 私が微妙な顔をしていると、ララとメテオが何やら雑談。

 この二人、性格はまったく違うけど、案外仲良しである。

 まぁ、一緒にしておいていいことなんか一つもなかったけど。


「よぉし、結構まとまってきたんと違う? あとはエリクサーのしゅわしゅわ温泉とかやし」


「ふぅむ、そうだね。いい感じかも」


 そんなわけでうちの村のメジャーどころの温泉はあらかた周り終えた。

 開発中の温泉や動物専用の温泉は口コミは載せられないだろうし。


「ご主人様、それでは私がまとめさせていただきますね」


「うちも手伝いますわ! ぬひひ、各温泉のおすすめご飯とスイーツを紹介せねば!」


 ララとメテオは書類の束を抱えて屋敷のほうに向かっていく。

 もうすぐ夕方だっていうのに、今から働くつもりらしい。

 全くもって頭が上がらない。



「よし、それじゃ……」


 二人を見送ると、私はある場所に向かうことにした。

 温泉である。

 沢山の人に温泉の口コミを聞いたのもあって、入らずにはおれない体になっている。

 

 正直、インタビューをすっぽかして、何度、温泉に突入しようかと思ったことか。


 いや、ちょっと待って!

 温泉でインタビューすればいいんじゃん!

 うふふふ、久しぶりにゴージャスな温泉を堪能しようじゃないの!


「は?」


 鼻歌まじりに温泉に向かった私を待っていたのは信じられないものだった。


 私がいるのだ。

 いや、正確には私そっくりな石像が。

 高さが2メートルほどもある大きな石像で、温泉の入り口からでもすぐわかる。


「なにあれ?」


 思考が凍る。

 その石像はバッグみたいなものから、どばどばっとお湯を放っている。

 それはまるで先日の戦いの時のような光景。

 確かに私は空間袋から大量のお湯を放って、敵をやっつけた。

 その様子を表現しているのだろうか。


 しかし、その姿が異様なのだ。

 突き出した大きな胸に、どどんとした腰つき。

 なんていうか、クレイモアの体に私の頭をくっつけた感じと言うか。

 さらに、悪いことにはかなり際どい服を着ているのである。

 胸の谷間とかほぼ全部見えてるし、スリットがすごくて脚が全部見えてるし。

 

「ドレスさん、最高ですよっ! この魔女神まじょがみ様像!」

 

「ぬひひ、そうだろ!?」


 そして、石像の下で胸を張るのがドレス、わいわいと喜ぶのがハンナだった。

 

 ここで私はすべてを理解する。

 ドレス、あんた、またふざけた石像作ってくれたわね!


 本当は「ぬわりゃあああ」などと叫びたい気分だったが、私は元貴族の公爵令嬢である。

 心を落ち着けて、笑顔でドレスに近づく。

 

「あら、ドレス。ずいぶん、素敵なものを作ってくれたじゃない?」


「いやー、あはは、最高だろ!? あっしの魔女神まじょがみ様像だぜっ! 魔女様的にも満足かい?」


「魔女神像!?」


 ドレスは私の顔を見て焦るのかと思いきや、むしろ、目をキラキラさせて感想を聞いてくる。

 いや、そういうリアクションをされると困っちゃうんだけど。


「先日の魔女様の戦いを見て、びびっと来たんだぜ! あの雄姿をみんなに見てもらいたくてさ!! 世界を救う魔女神様なのさっ!」


 ドレスは鼻の下をこすりこすりしながら、てへへなどと笑う。

 この子、悪びれた様子さえないなんて、恐ろしい子!


 これじゃあ、作り直してもらうのはとことん難しそうである。

 いや、流されてどうするのよ、私。

 ここは女湯だからいいけど、男湯にこれがあったら最悪だよ。

 

「あ、男湯かい? 男湯の方は村長さんの石像になったな。満場一致で」


「そう……」


 村長さんの肉体美がそんなところで記録されるなんて。

 ぐぅむ、ドレス、あんた、ナイスチョイスだよ。


 腕を組んで一分ほど考え、とりあえず石像の爆破は保留にすることにした。

 温泉の飾りと思えば、悪くないのかもしれないし。

 あくまで女神様っていうのなら、それでいいのかもしれない。

 

 そんな風に納得した時のことだった。


「おぉーっ、魔女神様が動きますよっ!」


 ぎぎぎぎぎなどと音がして、石像がゆっくりと動き出すではないか。


『悪人は天が許しても私が許さないっ! 問答無用で爆発だよっ!』


 その石像は私そっくりな声で、私が言ってもないことを叫び、どどんとポーズをとった。

 しかも、どういう構造なのか分からないが、胸がたゆんと揺れる。

 固そうな石像の癖に、まるで液体が入っているかのような「たゆん」である。

 私のは絶対、あんなふうに揺れない。

 

 いやいやいや、そうじゃなくて!

 明らかに頭がおかしいよね、これを作った人!


「……ドレス、これは?」


「あははは、リクエストがあったから動くようにしちまった。おっと、そろそろ時間だな! あばよっ!」


 ドレスに冷たい視線を送るも、彼女はそそくさと温泉からいなくなる。

 残るのは私とキラキラした瞳をしたハンナ、それから大勢のギャラリー。


 この状態で温泉に入るなんてことは絶対に無理である。

 私、そんなに心臓強くないし!


 顔が燃えるように熱くなるのを感じながら、私は温泉を後にするのだった。

 ドレス、あんた、許さないからね。

 それに、メテオとララも関わってるでしょ、これっ!?



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― 新着の感想 ―
[良い点] たゆん♪ [気になる点] アリシアさんの像は何処?ない?嘘だよね?嘘って言って! [一言] あららバレて~ら(笑) いやポンポンがポンポンがペインペインって痛いの作者さん堪忍して~(笑)
[一言] 売店:お土産用の魔女様象1/3サイズ一つお願いします。 気づけば350回!ありがとうございます。 これからの展開も楽しみにしています。
[一言] これは読者としては 横浜の某巨大ロボットをイメージすれば良いのかな? ……たゆん……以外は 気になる点 男湯の剣聖の像は ナニがどんな風に動くんでしょう?
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