349. SS:魔女様、温泉レビューを作りますっ! その1
「いやぁ、平和だねぇ」
聖王国の一件も片付いて、やっとのこと平和が戻ってきた。
高台に登って村を眺めると、湯けむりがたなびく別世界のようだ。
「そう言えば、うちの村って色んな種類の温泉があるよね?」
ここでふと気づくのは、温泉のバラエティーである。
ご存じの通り、温泉と言うのはお湯の種類によって千差万別。
肌への刺激の弱いものから、ピリピリ来るのまで様々だ。
「さようですね、ご主人様。最近では蒸し風呂、高温風呂などもありますし、さながら灼熱地獄ですね。色んな種類があると迷ってしまいそうですね」
ララはうふふときれいな笑みを浮かべて、縁起でもないことを言う。
いやいや、地獄って表現はないでしょうよ。
とはいえ、彼女の言葉の後半はナイスな意見だった。
確かに温泉初心者の皆さんはどの温泉に入ればいいか迷ってしまうかもしれないよね。
「そうだっ! いいこと閃いた!」
温泉を眺めていた私にびびっとアイデアが閃く。
それは温泉の紹介マップを作ることである。
ぬふふ、私の愛する温泉ちゃんについてしっかり解説を書き残しておきたい。
「温泉のマップですか、ふぅむ、いいですね。それでは、手の空いてる方をお呼びしますね」
ララはすぐに合点が行ったらしく、私の案に賛成してくれる。
こう言うところ、本当に助かるねぇ。
◇
「は? 今日、一日で温泉ぜんぶ回る? 死んでまうで?」
やってきたのはメテオだった。
最初の頃は私の案を聞いて喜んでいたのに、なぜか眉間にシワを寄せられる。
「死にはしないでしょうよ? 健康になるだけだと思うけど? 現に私、一日に三回、入るときもあるし」
「そりゃぁ、灼熱のナントカさんはそうやろうけど、うちみたいな普通の人は二回が限界やで? 湯あたりってあったやろ、あれや」
「あー、そういうのあったね」
メテオが訝しげな表情をしていた理由が明らかになる。
なるほど、確かに普通の人は湯あたりをしてしまうのだ。
しょうがない、こうなったら私一人で回ってみようかな。
温泉を愛し、温泉に愛された私ならば、素晴らしい紹介文がかけるはずっ!
よぉし、さっそく回ってこようじゃないの!
「くふふ、ユオ様、専門家の意見もえぇことやけど、今は口コミの時代や」
「口コミ?」
「簡単に言えば、色んな人の意見を集めることや。より多角的な意見が得られるっちゅうことやな」
「つまり、色んな人にインタビューしてみるってこと?」
「せや! それぞれの温泉の評判を噓偽りなく集めるっちゅうわけ!」
「なるほどぉ」
正直、メテオの言ってることは半分も分からない。
だけど、温泉の評判については私も気になるところである。
もしかしたら、改善点が発見できるかもしれないし。
「それでは、ご主人様、出発しましょう!」
そんなわけで私とメテオとララの三人は企画をスタートさせるのだった。
まずは村人のための温泉施設、公衆浴場からスタートするよ!
◇
「こんにちは! この温泉のお湯加減いかがでした? 正直に教えてください!」
「ひぃいいいいっ、魔女様!? え!? 温泉ですか!? そ、そりゃあ、最高です!」
「最高ですっ! もう本当に! あはははは」
インタビューして開始三秒、私たちは顔を見合わせることになる。
村人たちはちっとも正直に答えてくれないのである。
目を合わせてくれないし、どうも私に遠慮しているらしい。
ぐぅむ、私って何か怖がられるようなことしたかしら?
「無自覚って怖いわぁ……、いや、ゲフンゲフン、何でもないで?」
メテオが何事かをぽつりとつぶやいたけれど、聞こえないふりをする。
言っとくけど、私はこの村を守りこそすれ、危ない目に遭わせたことなんかないはずである。
そりゃあ、変な奴に目をつけられたことはあるけど、私のせいじゃないし。
「ふぅむ、それならば、変装して話を聞くのはいかがでしょうか?」
「それだ!」
「それや!」
ララの提案に乗って、私たちは変装をする。
次の目的地は温泉リゾート。
さぁ、みんな、正直に話してね!
◇
「魔女様! 何か楽しそうなことしてますね! 私も混ぜてくださいっ!」
リゾートにつくと、ハンナがにこにこ笑顔でやってきた。
彼女は私の変装を一発で見抜いてしまった。
「魔女様が近くに来ると、ぽかぽか温かい気持ちになるんです!」
目をキラキラさせて、そんなことを言う。
喜んでいいのかしら。
まぁ、ハンナは人当たりのいい性格だし、問題ないだろう。
私たちは人々がお湯から上がってのんびりと休憩しているところへと向かうのだった。
「あのぉ、すみません、今、ここの温泉の感想を集めてるんですけどぉ」
女冒険者と思われる三人組に話しかけてみる。
温泉リゾートの民族衣装を着ていて、すごくリラックスしている。
「感想かい? 私は好きだよ。お湯に浸かるってのいいよねぇ」
「最初は裸になるの抵抗あったけどリラックスできていいわ。肩こりもほぐれるし」
「そういや、女の湯の中央で魔女様の石像がお湯をぶっ放してるのにはびびっちまったけどなぁ。ん!? ひいいぃっ!?」
三者三様で意見が飛び出す。
二人目まではよくわかる。
だけど、三人目のお姉さんの様子がおかしい。
そもそも、とんでもない情報をくれたと思うだが、言葉を発した後、うろたえ始めたのだ。
「ハンナ? 何してるの?」
「あははは、何でもありませんよっ! 素振りですっ!」
振り返るとハンナが剣を抜いて、ぶんぶんっと振っていた。
いやいや、人がいるところでそんなことしたら危ないからね。
私はハンナに注意をして、三人目のお姉さんにもう一度訪ねることにした。
「あ、あのぉ、女湯の中央がどうしたって仰いました?」
「ひぃいいい、何でもありませんっ! 私は何にも見ていませんっ!」
お姉さんは顔色を悪くして、ぴゅーっとどこかへ駆け出してしまう。
何だったのかしら、今の。
ふぅむ、気になるね。
とりあえず、ここの温泉に私も入ってこようかしら。
「よぉし、温泉リゾートはこんぐらいにしとこ! ダンジョン村の温泉も回らないと、日が暮れるでぇっ!?」
「そうですよ、ご主人様。今のインタビューは最高でしたよ。さぁ、次に参りましょう!」
しかし、メテオとララに私の肩はががっと掴まれる。
私が長風呂するのを恐れているのかしら。
こう見えても私、ちゃんとわきまえられる女なんですけど。
ちょっと不服に思いながらも、私は次の目的地に向かうことにする。
さぁ、お次はダンジョン村の温泉レビュー行ってみようっ!






