348.エピローグ:魔女様、聖王国を併合して野望を開花させるっ!(させない)
「ふぅううう、やっぱりうちの村の温泉が一番だよね」
聖王国からやっと戻って来た私たちである。
温泉はいい。
最高。
ずっと入っていたい。
私が疲れているのには理由がある。
王様を失った聖王国の人たちをまとめ上げるのは並大抵のことではなかったからだ。
そりゃそうだよね、聖王様は国民、みんなの心の支えだったんだから。
私は目を閉じて、聖王国を去る時のことを思い出す。
◇
「わらわはイリス・リウス・エラスムス、リース王国の女王である!」
呆然とする国民の皆さんを前に、奮起したのがイリスちゃんだった。
彼女はリース王国の女王としてのカリスマを発揮して、国民の人たちの前で演説をした。
「よいか、聖王アスモデウスはこの赤子となった! よって、わらわとサンライズが面倒を見る! 文句がある奴は出てこい!」
王様がいきなり赤ちゃんになったという、圧倒的にわけのわからない内容。
それに圧倒的な威圧感をかぶせるから、反論できるはずもない。
話を聞いていた人たちは、みんな、青ざめていた。
一方の赤ちゃんは「だぁああ」と腕をあげる。かわいい。
「聖王国については灼熱の魔女、ユオ・ヤパンが治める! 文句のある奴は前に出ろ! すぐにユオが焼き殺してやる!」
しかも、である。
私にも話が及ぶではないか。
ひぇええ、私が治めるですって!?
え、私が焼き殺す!?
「皆の者、安心するがいい! この灼熱の魔女は見た目は恐ろしいが、純粋な心を持っている。決して、国民皆殺しにするということはない。逆賊だけは血祭りだ! 私を左遷してくれた者ども、覚悟はいいな!」
ここで演説に参加したのは、ハマスさんだった。
彼女は国民の人たちを安心させたいのか、不安にさせたいのかよくわからない演説をする。
「ひぃいい、逃げるぞ!?」
「俺もだっ!」
聴衆の一部はがやがやと声をあげ始めた。
言っとくけど、私、人を血祭りにあげる趣味なんかないからね?
それと人事に私情を挟むこともないからね。
とはいえ、このまま村に戻っても、聖王国がごたごたに巻き込まれるに決まっている。
良くて分裂、悪くて内戦が起こるかもしれない。
「聖王様がいない今、我々はどうしたらいいんじゃあ!?」
「そうだ、聖王様のために捧げてきた祈りはどこへ!?」
実際に聖王国の要職についていた人たちからは戸惑いの声が上がる。
うーむ、私は自分の村を発展させるのに精いっぱいなので、他の国の面倒なんて見てられない。
イリスちゃんあたりに任せていなくなりたいところだよ。
もしくは、他の適当な人材に。
私はドレスやメテオを始め、一緒に来た面々を眺める。
ドレスは王女様だけど、変な魔道具を作ることにしか関心がない。
メテオはお金にうるさすぎて、人の心がわかってるか不明。
リリは優しすぎて、悪い人に騙されるかもしれない。
ハンナとクレイモアは話にならないよね。大好きだけど。
「ふははは! 灼熱の魔女についてくればもう安心だ! 今後は魔女のために祈るがいい! 魔女様酒場で魔女様エールを飲み、魔女様串焼きを食べようではないか!」
そんな中、大きな声でアジテーションするハマスさん。
この女、何を言い出すのか。
なんでそこまで自信たっぷりなのか。
そもそも、私についてくるはずなんかないじゃん!
「そうですよ、魔女様についてくれば大丈夫! 神様でも燃やしちゃうんですから! 魔女様、ばんざい!」
ここで声をあげたのはハンナである。
彼女は腕を大きく振って、私のことを称え始める。
「かくなる上は魔女様に推し変するか」
「あぁ、赤ん坊じゃさすがに推しづらいよな」
「よし、魔女様ばんざいしようじゃないか!」
なんということでしょう。
聖王国の人々は口々に魔女様を称え始めるではないか。
つまり、私のことを。
「ぬははは! それでよい! それこそ、聖王国魂だ!」
悪役みたいな声で笑う、ハマスさん。
なんだかムカついてきた私は、この人になすりつけることにした。
「ハマスさん、あなたを聖王国の総督に命じます! 聖王様の良かった点を引き継いで頑張ってね!」
というわけで、私はハマスさんに丸投げするのだった。
一応、元幹部だったらしいし、聖王国の人たちも納得するよね。
もちろん、暴走しないように監督官を派遣するけど。
◇
「うふふ、本当に本当にお疲れ様でした。ご主人様。あぁ、いつものご主人様です!」
ララはよっぽど私と温泉に入るのが嬉しいのか、やたらとベタベタしてくる。
抱き着かなくても逃げないってば。
ねぎらってほしいんだったら正直に言えばいいのに。
「ぬはは、みんな、無事で何よりなのじゃ! ユオ様が大きくなったのは残念じゃがのぉ」
笑いながら温泉に入ってきたのはエリクサーである。
彼女は魔族の国の方向に攻めてきた聖王国の軍勢を防いだとのこと。
偉い、かわいい。
私は彼女をよしよししてあげるのだった。
うふふ、やっぱりこのサイズ感の方がいいよ、たまんない。
「いやいや、本当に死ぬかと思ったんやで!? めっちゃ黒い腕がぼんぼん出て、灼熱の名前を言ってはいけないあの人がそれをぼんぼん叩き落すし! クエイクも鑑定スキル磨かなあかんって!」
「あはは、お疲れ様です~! まぁ、うちかてサジタリアスに来た連中を返り討ちにする手はずを整えたりしたんやで? ほら、影の十三人とかいう連中……、あれ? 十人やっけ?」
「知るか!」
続いて、温泉に入ってきたのはメテオとクエイクの猫人姉妹。
相変わらずやかましい。
メテオは鑑定スキルを使って、黒い水晶を壊すのに貢献してくれた。
クエイクはフレアさんからの協力を引き出してくれた。
どっちもすごく頑張ったね。
「ユオ様、いいアイデアが閃いたぜ! 燃え吉と虹ぃにょとヒゲ助を合体させたらすごいのができるんじゃねぇかな!」
お湯の中で一人盛り上がるのはドレスである。
彼女は聖王国で色んな素材をもらったらしく、精霊を合体させたいという。
やばいでしょ、常識的に考えて。
「にゃはは、今回は面白かったのだ! 黒いやつとは再戦したいのだぞっ!」
「抜け駆けはダメですよ! 私が先に叩き切るんですから!」
クレイモアとハンナも温泉に入ってくる。
しょっちゅう喧嘩していた二人だが、今ではすっかり仲良しだ。
今回もギリギリのところで奮戦してくれたね。ありがとう。
「ユオ様ぁあああ! お父様が帰って来いってしつこいんですぅうう!」
珍しく駆け込むように温泉に入ってきたのはリリだった。
そう言えば、彼女はサジタリアスで誘拐されたままだったのだ。
お父さんに顔を見せてあげた方がいいと思うよ、心配してたし。
エリクサーの村の崩壊に始まった、今回の大事件はなんとかこれにて終了。
収まるところに収まって、本当に良かった。
クサツ魔導公国も無事みたいだし。
それもこれも、みんなの尽力があってこそだ。
私一人じゃ何もできないわけで。
そして、私は決意するのだ。
これからは村の発展に尽くしていきたい。
そうだよ、灼熱の魔女なんて卒業して、領主として頑張らなきゃ!
この村を世界で一番素敵な街に変えてやるんだから。
「聖王国を下し、いよいよ世界征服が近づいてまいりましたね! ご主人様の夢、みんなで叶えましょう!」
「そんなの夢じゃないし!」
私が殊勝なことを考えていると、ララから思わぬ激励が飛ぶ。
いや、世界征服なんてこと考えてないよ!?
私はもっと温泉の素晴らしさを伝えたいだけで。
とはいえ、私の話などみなは聞いていないのである。
目をキラキラさせて大儲けを企むメテオとクエイク。
高性能な化け物を作ると意気込むドレス。
もっと強いやつと戦いたいと願うハンナとクレイモア。
エリクサーとリリだけは怯えた表情だけどね。
ふぅと息を吐く。
そのため息すらも、温泉は受け止めてくれるようだ。
「魔女さまぁああ! イリューシカさんが目覚めしたぁあああ! 黒い犬も無事です!」
そろそろお湯から上がろうかという矢先、救護室の女の子が私を呼びに来る。
そうだった。
村には新メンバーが加わったのだ。
さぁ、どんなことが起こるのだろうか?
第15章はこれにて終了となります!
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