347.魔女様、世界で一番美しい魔法を目にする
「イリス、イリス!?」
それは突然の出来事だった。
メイドの女の子、イリューシカと仲良く温泉に入っていたら、村長さんたちの大きな声が聞こえてきたのだ。
明らかに緊急事態。
空間袋から大きめのタオルを取り出し、私はそれを体に巻く。
もちろん、イリューシカの分も渡しておく。
そして、駆け寄った先に見たのは青い顔をしたイリスちゃんだった。
さっきまでの戦いで怪我をしたのだろうか?
彼女は口から血を流していた。
「リリ、回復魔法を早くっ!」
「はいっ!」
求めに応じて、リリからは暖色のオーラが一気に噴き出す。
限られた人にしか扱えない、聖女の奇跡。
数多ある病を癒し、死に至る傷をふさぐ。
これで、なんとかなるはず……。
それでも、イリスちゃんの顔色は悪いままだ。
私は彼女の手を取って、名前を叫ぶ。
「ふふ、こうなる運命だったのだ、ユオよ。迷惑をかけた。サンライズ、お前にも世話になったな、ありがとう、ぐ……」
イリスちゃんは苦悶に満ちた表情で、私たちに礼を伝える。
まるで自分の死を悟ったかのような、そんな様子で。
嘘だ、こんなところで、どうして。
「だ、ダメです! 回復魔法が届きませんっ!」
リリが悲鳴のような声をあげる。
彼女は必死に回復魔法をかけている。
しかし、イリスちゃんの周りに何かが現れて、それをかき消してしまうのだ。
まるで呪いのように。
「イリス、しっかりするんじゃ! 貴様、魔族の国から指名手配されておるんじゃぞ! わしを一人で置いていくつもりか!」
村長さんが叫ぶ。
その言葉には皮肉が混じっているけれど、私にはわかる。
彼の感情が。
イリスちゃんを愛していて、信頼していたんだね。
「ええぇ、えらいこっちゃで! せや、あの体がセクシーになる薬はどうや!?」
「ダメだ、飲み込むことさえできないっぽいぜ!」
メテオはいつぞやの特効薬を取り出す。
しかし、イリスちゃんにはもはやそれを飲み込む力さえ残されていないようだった。
うぅう、飲み物タイプの薬があればよかったのに。
さっき、私に「勝てるのか?」と聞いてきたとき、彼女は鬼気迫る表情だった。
本当は自分の調子が悪いのを押し殺していたのだろう。
バカだよ、あなたは。
私の心配なんかしなくてもよかったのに。
「暗黒蝶よ、いや、イリューシカといったな……」
イリスちゃんは震える唇でイリューシカに声をかける。
イリューシカは騒ぐ私たちの後ろで、この現場を眺めていた。
「私の母がお前に酷いことをした。ぐ……本当にすまない。私の分まで生を楽しんでくれ」
それだけ言うと、イリスちゃんの表情は少しだけ普段の顔に戻っていく。
威厳に満ちた、それでていて、優しそうな顔に。
それはつまり、顔から力が抜けて行っているということ。
イリスちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちていく。
「嫌よ。こんな腐った世界で生きていくのは。だから……」
イリューシカの言葉は先ほど戦っていた時と同じように暗いものだった。
彼女は言葉を続ける。
「異界の神からもらった力をあなたにあげるわ」
そう言うや否や、イリューシカちゃんの体に真っ黒いオーラが集まり始める。
禍々しい黒い渦。
何をしようとしているのだろうか。
メテオは「ひぃっ」と声をあげて、二、三歩、後ずさりをする。
だけど、私にはわかっている。
イリューシカはもう悪事を働くような女の子じゃないってことを。
「あなたも一緒にやるわよ。もう時間がないんでしょ?」
「ふふ、バレていたか……。そうだな、このまま朽ち果てても面白くない」
そして、もう一人、立ち上がる人物がいた。
私たちが助けだした聖王様だった。
確か失神してしまっていたはずなのだが目を覚ましたらしい。
「ユオ、あなたに出会えてよかった。ありがとう」
「灼熱、お前に私の民を任す。さらばだ」
聖王様はふらふらな足取りで、イリューシカに歩み寄る。
そして、二人は両手を取り合って、額をつけて目を閉じる。
美しい二人の横顔はまるで女神のようだった。
「「私たちの命の炎を……」」
二人が何かをつぶやいた、次の瞬間。
ばしゅっ、という何かが弾けるような音と共に、二人の姿は消える。
跡形もなく、あっけなく。
「はぁあああ!? なに今の!? どういうわけ!?」
突然の出来事に目を白黒させる私たち。
イリスちゃんがやばいっていうのに、イリューシカたちも消えるなんて。
「ぐ……、息が……できる……?」
「イリス、お前、生きてるのか!?」
それからまもなくしてイリスちゃんは再び息を吹き返したのだった。
顔色はすっかり良くなっていて、いつものちょっと怖い表情も戻っていた。
よ、よかったぁ。
私を始め、みんな、へなへなと床に崩れ落ちる。
いや、よくはないよ。
きっと聖王様とイリューシカは自分の命を通じて、イリスちゃんを回復させたのだから。
私が見たのは、すごくキレイな魔法だったのだろうか。
「ほぎゃあああ、ほぎゃああああああ!」
そんな折、どこからか声が聞こえる。
赤ちゃんの声だ。
探し回ってみると、赤ちゃんが聖王様がいたはずのところにいるではないか。
さらにイリューシカのところには、5歳ぐらいの女の子が横になっていた。
どういうこと!?
「なんか、あの二人に顔が似てねぇか!?」
「そっくりやん……」
ドレスが赤ちゃんを抱きかかえて連れてくる。
彼女の言うとおり、その子たちはそれぞれ聖王様とイリューシカの面影を残していた。
特にイリューシカはそっくりである。
何が起きたのかさっぱりだけど、二人とも子供になっちゃったってこと!?
うっそぉ!?
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